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林の中での攻防戦
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ヨハンの血は未だ止まらず、手で抑えた脇腹から流れ続けている。
気配を感じたのか、クルトさんが急いで戻ってきた。
「ヨハン、いつ誰にやられた。それにレーナはどうした?」
私はクルトさんの声で、やっと動く事が出来た。
ヨハンの血を見て、固まってしまったから。
そして不覚にも、レーナがいない事に思い至らなかった。
流れる血だけが鮮明に、意識の全てを持っていってしまっていたのだ。
「朝と昼の間くらいの事だ。突然騎士が大勢やって来た。最初は二人逃げていたんだ。その内俺はヘマして、切られちまった。傷上から腹を蹴られ、意識を取り戻した時には、レーナはもう傍にいなかった」
クルトさんはヨハンの傷口に水を掛け、洗い清めている。
その間苦しそうにしながらも、ヨハンは状況を説明していた。
「レーナを追いかける事も考えた。だがこの傷だ。すぐに返り討ちに合っちまうだろう。それならと、こっちに知らせに来た。レーナもその方が喜ぶ」
一瞬、クルトさんの表情が歪んだ。
「騎士は何か言っていなかったか?」
「女が要る、と言ってレーナを追いかけていた」
「そうか、知らせてくれて助かった」
いつの間に戻っていていたんだろう、ベンが私の隣まで来ていた。
「クルトさん、水随分減っただろう。俺、またすぐに汲んでくる」
今汲んで来た水を木の鉢に移し、ベンは再度汲みに行こうとした。
「わ、私も何か手伝う……」
ここに居ても何もできる事がないし、痛そうなヨハンを見ているのが辛かった。
咄嗟に出た言葉に、クルトさんが怒鳴りながら止めた。
「カーリはここ、動くな!ヨハンの話を聞いただろ。お前も小さいが女だ」
小さいは余計だ、と言い返したかったがそんな雰囲気ではなく、クルトさんは切羽詰まった様子だった。
布を割いて包帯の代わりを作り、クルトさんはぎゅうぎゅうとヨハンを締め付ける。
「止血用にキツめに巻いている。少し苦しいと思うが我慢しろ」
テキパキと手当を終え、クルトさんは私に近づいてこっそり耳打ちをした。
「ヨハンの血をたどり、騎士が来る可能性が高い。カーリは俺から離れるな、分かったな」
突然、不吉な話を吹き込まれた。
「……分かったけど、来ないかもしれないんだよね」
「いや、十中八九来る。その為にヨハンを生かしたんだろう。大勢と言う事は、どこかの指揮系統からの指示だ。そこが独断で動いていれば別だが、王族からなら許可をしているだろうからな」
私にそんな注意をしているクルトさんが、チッと舌打ちをした。
「来るのが早いんだよ!」
クルトさんが、腕を上から振り下ろす。
私の耳のすぐ横で、風が唸る音がした。
「お前は見るな、ヨハンの隣に行ってろ。いいな」
私は小走りにヨハンの所に行き、岩壁を背に出来るだけ小さくなった。
出来るだけ、騎士に見つからない様にしたかった。
ヨハンは岩壁に体を付け、寄りかかっていた。
「…………俺が連れてきてしまったのか?」
愕然と呟くヨハンに、私はかける言葉が見つからなかった。
クルトさんは見るなと言ったが、うめき声や風が叩きつける音など気になった。
それに見ていないと、騎士が近付いてきても分からないじゃない。
怖くて見たくはないが、そういう訳にもいかずクルトさんの戦いを見る。
「……凄い」
私は思わず呟いていた。
「あぁ、凄いな。クルトさんはいつも一人で狩りをしているんだ。確かにこれだけの腕なら俺達は邪魔だな」
ヨハンも同意していた。
それはまるで舞っているかの様だった。
地面を蹴る度、一瞬で騎士に近づく瞬発力。
身体強化に風を纏わせて、威力を上げている様に見える。
まるで宙を駆ける様に進む足は、その威力を乗せてクルトさんの大きな体を武器にする。
騎士を蹴り倒し、離れた者には風で切り付ける。
私達に近づく騎士達には、足に水の珠を纏わり付かせ足止めをし、クルトさんに向かわせる様に仕向けていた。
相手も風魔法を使い、クルトさんを襲う。
クルトさんは風を読んでいるのか、くるりと宙に舞ったり、風魔法をぶつけ相殺していた。
風魔法の応酬は、周りの木々を切り刻み見晴らしを良くしていく。
不意に土魔法だろうか、地面から槍の様に尖って複数飛び出した。
それをクルトさんは、身体強化で蹴り飛ばし粉砕した。
騎士の剣がクルトさんを襲うが、相手の腕を叩きつけて剣を落としていた。
騎士達もクルトさんも、火魔法は使わない様だ。
林での火事で懲りたのだろう。
クルトさんは全方位が見えているのではないかと思える程、相手を私達に近づけない様に戦っている。
それも、殺さない様に……。
一人、また一人と騎士が倒れ、見えている全ての騎士は地に伏した。
それでもクルトさんは、警戒を緩めない。
私には、全て終わったのに警戒する必要があるのかな?と思っていた時だった。
かなり遠方の木が不自然に揺れた。
クルトさんが、風を飛ばす。
「チッ、深すぎた」
ちらりと見えた騎士は、肩から血が噴き出していた。
それでも騎士は、素早く逃げていった。
倒した騎士達を縛り上げ、やっと少し警戒を解いたクルトさんが言った。
「久々だったからな。消耗が酷い。なまくらそうだが武器も手に入った。伝令は根性あるのか、逃げちまったな。かなりの深手だが、途中死んでなきゃいいが、生きて報告されるのも不味い」
ドサリと岩壁にもたれかかった。
「少し休ませろ。ヨハン、怪我してるとの悪いが変な動きがないか見張っていろ。縄に禁魔法の呪が織り込まれているから、魔法の心配は少ない」
そう言って、クルトさんは目を閉じた。
わ、私も見張りをすればいいのだろうか?
そう思っていたら、クルトさんのくぐもった声が聞こてた。
「カーリには、見るなと言ったんだがな。今更遅いが、これ以上騎士に顔を覚えられないようにしとけ」
私が戦いを見ないという事は、相手に顔を見せるなという事でもあったんだと、今更ながらに思い至った。
ああ私って、クルトさんの足を引っ張ってばかりだなと、へこんだ。
気配を感じたのか、クルトさんが急いで戻ってきた。
「ヨハン、いつ誰にやられた。それにレーナはどうした?」
私はクルトさんの声で、やっと動く事が出来た。
ヨハンの血を見て、固まってしまったから。
そして不覚にも、レーナがいない事に思い至らなかった。
流れる血だけが鮮明に、意識の全てを持っていってしまっていたのだ。
「朝と昼の間くらいの事だ。突然騎士が大勢やって来た。最初は二人逃げていたんだ。その内俺はヘマして、切られちまった。傷上から腹を蹴られ、意識を取り戻した時には、レーナはもう傍にいなかった」
クルトさんはヨハンの傷口に水を掛け、洗い清めている。
その間苦しそうにしながらも、ヨハンは状況を説明していた。
「レーナを追いかける事も考えた。だがこの傷だ。すぐに返り討ちに合っちまうだろう。それならと、こっちに知らせに来た。レーナもその方が喜ぶ」
一瞬、クルトさんの表情が歪んだ。
「騎士は何か言っていなかったか?」
「女が要る、と言ってレーナを追いかけていた」
「そうか、知らせてくれて助かった」
いつの間に戻っていていたんだろう、ベンが私の隣まで来ていた。
「クルトさん、水随分減っただろう。俺、またすぐに汲んでくる」
今汲んで来た水を木の鉢に移し、ベンは再度汲みに行こうとした。
「わ、私も何か手伝う……」
ここに居ても何もできる事がないし、痛そうなヨハンを見ているのが辛かった。
咄嗟に出た言葉に、クルトさんが怒鳴りながら止めた。
「カーリはここ、動くな!ヨハンの話を聞いただろ。お前も小さいが女だ」
小さいは余計だ、と言い返したかったがそんな雰囲気ではなく、クルトさんは切羽詰まった様子だった。
布を割いて包帯の代わりを作り、クルトさんはぎゅうぎゅうとヨハンを締め付ける。
「止血用にキツめに巻いている。少し苦しいと思うが我慢しろ」
テキパキと手当を終え、クルトさんは私に近づいてこっそり耳打ちをした。
「ヨハンの血をたどり、騎士が来る可能性が高い。カーリは俺から離れるな、分かったな」
突然、不吉な話を吹き込まれた。
「……分かったけど、来ないかもしれないんだよね」
「いや、十中八九来る。その為にヨハンを生かしたんだろう。大勢と言う事は、どこかの指揮系統からの指示だ。そこが独断で動いていれば別だが、王族からなら許可をしているだろうからな」
私にそんな注意をしているクルトさんが、チッと舌打ちをした。
「来るのが早いんだよ!」
クルトさんが、腕を上から振り下ろす。
私の耳のすぐ横で、風が唸る音がした。
「お前は見るな、ヨハンの隣に行ってろ。いいな」
私は小走りにヨハンの所に行き、岩壁を背に出来るだけ小さくなった。
出来るだけ、騎士に見つからない様にしたかった。
ヨハンは岩壁に体を付け、寄りかかっていた。
「…………俺が連れてきてしまったのか?」
愕然と呟くヨハンに、私はかける言葉が見つからなかった。
クルトさんは見るなと言ったが、うめき声や風が叩きつける音など気になった。
それに見ていないと、騎士が近付いてきても分からないじゃない。
怖くて見たくはないが、そういう訳にもいかずクルトさんの戦いを見る。
「……凄い」
私は思わず呟いていた。
「あぁ、凄いな。クルトさんはいつも一人で狩りをしているんだ。確かにこれだけの腕なら俺達は邪魔だな」
ヨハンも同意していた。
それはまるで舞っているかの様だった。
地面を蹴る度、一瞬で騎士に近づく瞬発力。
身体強化に風を纏わせて、威力を上げている様に見える。
まるで宙を駆ける様に進む足は、その威力を乗せてクルトさんの大きな体を武器にする。
騎士を蹴り倒し、離れた者には風で切り付ける。
私達に近づく騎士達には、足に水の珠を纏わり付かせ足止めをし、クルトさんに向かわせる様に仕向けていた。
相手も風魔法を使い、クルトさんを襲う。
クルトさんは風を読んでいるのか、くるりと宙に舞ったり、風魔法をぶつけ相殺していた。
風魔法の応酬は、周りの木々を切り刻み見晴らしを良くしていく。
不意に土魔法だろうか、地面から槍の様に尖って複数飛び出した。
それをクルトさんは、身体強化で蹴り飛ばし粉砕した。
騎士の剣がクルトさんを襲うが、相手の腕を叩きつけて剣を落としていた。
騎士達もクルトさんも、火魔法は使わない様だ。
林での火事で懲りたのだろう。
クルトさんは全方位が見えているのではないかと思える程、相手を私達に近づけない様に戦っている。
それも、殺さない様に……。
一人、また一人と騎士が倒れ、見えている全ての騎士は地に伏した。
それでもクルトさんは、警戒を緩めない。
私には、全て終わったのに警戒する必要があるのかな?と思っていた時だった。
かなり遠方の木が不自然に揺れた。
クルトさんが、風を飛ばす。
「チッ、深すぎた」
ちらりと見えた騎士は、肩から血が噴き出していた。
それでも騎士は、素早く逃げていった。
倒した騎士達を縛り上げ、やっと少し警戒を解いたクルトさんが言った。
「久々だったからな。消耗が酷い。なまくらそうだが武器も手に入った。伝令は根性あるのか、逃げちまったな。かなりの深手だが、途中死んでなきゃいいが、生きて報告されるのも不味い」
ドサリと岩壁にもたれかかった。
「少し休ませろ。ヨハン、怪我してるとの悪いが変な動きがないか見張っていろ。縄に禁魔法の呪が織り込まれているから、魔法の心配は少ない」
そう言って、クルトさんは目を閉じた。
わ、私も見張りをすればいいのだろうか?
そう思っていたら、クルトさんのくぐもった声が聞こてた。
「カーリには、見るなと言ったんだがな。今更遅いが、これ以上騎士に顔を覚えられないようにしとけ」
私が戦いを見ないという事は、相手に顔を見せるなという事でもあったんだと、今更ながらに思い至った。
ああ私って、クルトさんの足を引っ張ってばかりだなと、へこんだ。
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