32 / 35
林の中での攻防戦
8 再度発動したスキルは?
しおりを挟む
私達が岩壁に並んで一息ついていると、ベンが帰ってきた。
「うわっ!一体何があったんだ」
そりゃあ、驚くよね。
岩壁の前に広がっていた木々は、なぎ倒され切り刻まれている。
地面も、ボコボコに波打っていた。
知らない騎士達が何人も、ぐるぐると縄で縛り上げられている。
ベンが水を汲みに行っている間に、周りは変わりすぎていた。
「やっと帰ってきたか。せっかく汲んできて貰ったところ悪いが、場所を変えるぞ」
クルトさんは、伸びをしてそう言い放った。
「へっ?場所変えるのはいいけど、ヨハンは歩けるの?」
「歩ける、歩けないじゃない。悪いがヨハン、いいよな」
かなり強引に、クルトさんは決めてしまった。
「ヨハン、ゆっくりでいいからあっちの方角に向け、二人を連れて先に歩いて行け」
クルトさんは、私達が来た方向と逆の方を指差し指示をする。
「クルトさんは、行かないの?」
「あぁ、俺はまだする事があるからな。後で合流する」
そう言って、ちらりと捕まっている騎士達を見た。
「分かった、二人とも行くぞ」
ヨハンは簡潔に答え、私とベンを連れて指示された方に歩き出した。
そして、クルトさんや騎士達が見えなくなると、方向転換をした。
「ヨハン、方向違わないか?」
「これでいいんだよ。騎士達が、逃げて探索魔法を使ったら別だが、目視では誤魔化せるからなら。クルトさんと、予め決めておいた」
いつの間に……私は全く気づいていなかった。
ヨハンが連れて来てくれた場所は、見晴らしの悪い奥まった洞だった。
周りは鬱陶とした木々に囲まれ、一見すると見落とす様な隠れた場所になっていた。
「ここは、相手にも見つかりにくいけど、こちらも相手を見つけにくいからな」
元々は、大きな獣の住処だったという。
この洞に着いた私達は、まず洞の中を軽く掃除した。
少し落ち着いた所で、クルトさんが合流してきた。
「色々と吐かせてきた」
そう簡潔に言い、ヨハンと何やら話し込み始めた。
「カーリ、ベン済まないが、食料になりそうな物と水の確保を頼む。ただ、あまりここから離れるなよ」
私達にはそう言って、洞から追い出した。
私達には、聞かせなくない話だろう。
レーナの事なら私も聞きたかったが、まず夫であるヨハンの判断と思ったのかもしれない。
「カーリ、木の鉢は置いていったよな。また作る?」
「クルトさんがどれ位あそこに残るか、分からなかったからね。使いやすい木があったらかな」
そんな話をしながら洞から少し行くと、林の慈悲で湧いた水だろうか。
木々の隙間から、水が緩く噴き出していた。
近くにはいつも料理で使う、固い渋い実が成っていた。
「……この木の実さぁ、食べるのってここだけなんだよな。俺も林の側で育ったけど、忌み嫌われていたんだ」
そんな話、始めて聞いた。
レーナは出会った時から、当たり前の様に調理していた。
だから、この世界では普通の食材だと思っていた。
「理由とかはあるの?」
「さぁ、俺は知らない。昔からだって」
固いからかな?
でも、煮れば普通に食べられた。
最初から、もっと美味しかったらいいのに。
そう思って、木に触れたのがいけなかったのか。
「カーリ、危ない、上!」
ベンの声に驚いて、私は上を見た。
ポトポトポトと、実が勝手に落ちてきた。
咄嗟にキャッチ出来たのは、一つきり。
ベンも手を出して、受け止められたのは一つ。
最後一つは、無残に地面に落ちて弾けた。
「これ、この香りって……」
二人、顔を見合わせた。
知っている香りだったのだ。
【スキル、完熟豊穣が発動しました】
目の端に見えたスキルで、私はやらかしたのだと知った。
そして、実がなっていた木の枝の部分だけ、跡形もなく消えていた。
「うわっ!一体何があったんだ」
そりゃあ、驚くよね。
岩壁の前に広がっていた木々は、なぎ倒され切り刻まれている。
地面も、ボコボコに波打っていた。
知らない騎士達が何人も、ぐるぐると縄で縛り上げられている。
ベンが水を汲みに行っている間に、周りは変わりすぎていた。
「やっと帰ってきたか。せっかく汲んできて貰ったところ悪いが、場所を変えるぞ」
クルトさんは、伸びをしてそう言い放った。
「へっ?場所変えるのはいいけど、ヨハンは歩けるの?」
「歩ける、歩けないじゃない。悪いがヨハン、いいよな」
かなり強引に、クルトさんは決めてしまった。
「ヨハン、ゆっくりでいいからあっちの方角に向け、二人を連れて先に歩いて行け」
クルトさんは、私達が来た方向と逆の方を指差し指示をする。
「クルトさんは、行かないの?」
「あぁ、俺はまだする事があるからな。後で合流する」
そう言って、ちらりと捕まっている騎士達を見た。
「分かった、二人とも行くぞ」
ヨハンは簡潔に答え、私とベンを連れて指示された方に歩き出した。
そして、クルトさんや騎士達が見えなくなると、方向転換をした。
「ヨハン、方向違わないか?」
「これでいいんだよ。騎士達が、逃げて探索魔法を使ったら別だが、目視では誤魔化せるからなら。クルトさんと、予め決めておいた」
いつの間に……私は全く気づいていなかった。
ヨハンが連れて来てくれた場所は、見晴らしの悪い奥まった洞だった。
周りは鬱陶とした木々に囲まれ、一見すると見落とす様な隠れた場所になっていた。
「ここは、相手にも見つかりにくいけど、こちらも相手を見つけにくいからな」
元々は、大きな獣の住処だったという。
この洞に着いた私達は、まず洞の中を軽く掃除した。
少し落ち着いた所で、クルトさんが合流してきた。
「色々と吐かせてきた」
そう簡潔に言い、ヨハンと何やら話し込み始めた。
「カーリ、ベン済まないが、食料になりそうな物と水の確保を頼む。ただ、あまりここから離れるなよ」
私達にはそう言って、洞から追い出した。
私達には、聞かせなくない話だろう。
レーナの事なら私も聞きたかったが、まず夫であるヨハンの判断と思ったのかもしれない。
「カーリ、木の鉢は置いていったよな。また作る?」
「クルトさんがどれ位あそこに残るか、分からなかったからね。使いやすい木があったらかな」
そんな話をしながら洞から少し行くと、林の慈悲で湧いた水だろうか。
木々の隙間から、水が緩く噴き出していた。
近くにはいつも料理で使う、固い渋い実が成っていた。
「……この木の実さぁ、食べるのってここだけなんだよな。俺も林の側で育ったけど、忌み嫌われていたんだ」
そんな話、始めて聞いた。
レーナは出会った時から、当たり前の様に調理していた。
だから、この世界では普通の食材だと思っていた。
「理由とかはあるの?」
「さぁ、俺は知らない。昔からだって」
固いからかな?
でも、煮れば普通に食べられた。
最初から、もっと美味しかったらいいのに。
そう思って、木に触れたのがいけなかったのか。
「カーリ、危ない、上!」
ベンの声に驚いて、私は上を見た。
ポトポトポトと、実が勝手に落ちてきた。
咄嗟にキャッチ出来たのは、一つきり。
ベンも手を出して、受け止められたのは一つ。
最後一つは、無残に地面に落ちて弾けた。
「これ、この香りって……」
二人、顔を見合わせた。
知っている香りだったのだ。
【スキル、完熟豊穣が発動しました】
目の端に見えたスキルで、私はやらかしたのだと知った。
そして、実がなっていた木の枝の部分だけ、跡形もなく消えていた。
0
あなたにおすすめの小説
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる