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学校生活
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午前中の授業が終わり、昼休みが始まった。広希は、達夫や茂と共に、広希の席に集まり、弁当を広げていた。
広希が食べているものは、梅子が作った弁当である。冷凍食品と手作りが半々であるが、広希の嗜好を熟知しているようで、祖母の弁当を不味いと思ったことがなかった。
達夫も同じように、家から持ってきた弁当を口に運んでいた。スポーツジャグを側に置き、中の麦茶らしきものを時々飲んでいる。茂の方は、両親が共働きのため、弁当はなしで、購買で買ったパンを昼食として摂っていた。飲み物も、購買で買った紙パックの飲料水である。
広希達三人は、いつものように、ゲームやテレビの話をしながら、食事を続けていた。時折、冗談やからかいを交えながら、笑い合う。空っぽだが、とても楽しい、日常の風景だ。
やがて、食事を終えた達夫は、空になった弁当箱を片付け始めた。そばに置いた通学鞄の中に、その弁当箱を突っ込む。そして、入れ替えるように、そこから、水筒を新たに一本取り出す。今まで使っていたスポーツジャグとは違い、ストレートの黒い水筒だ。
達夫は、その水筒をスポーツジャグの横に置き、蓋を開けた、
蓋がコップになるタイプの水筒であるため、達夫は、蓋に水筒の中身を注ぐ。広希がいる位置から見ても、注がれている液体が赤色だということがわかった。
家畜の血である。教室の蛍光灯の光を受けて、ワインのように煌いていた。
達夫は、その血を美味しそうに飲んだ。
飲み干した達夫の顔は、非常に満たされたものになっていた。
広希もそれに合わせ、自身の通学鞄から、スタンレーの赤い水筒を取り出した。達夫の水筒と同じように、蓋がコップになるタイプである。
広希は、水筒に付いている取っ手を持ち、傾けて、中の液体を注ぐ。赤い色の液体が、蓋に満ちていく。蓋自体の色は、銀色であるため、周りから見ても、赤色の液体を飲もうとしていることは、はっきりと判別が付くはずだ。
広希は、その赤色の液体を一気にあおって、飲み干した。黒酢を薄めたような、甘酸っぱい味が口の中に広がる。
これは、もちろん血ではなかった。梅子お手製の血のフェイクだ。トマトジュースと、砂糖を混ぜ合わせたものらしいが、正直、あまり美味しくはなかった。トマト特有の、酢が効いたような酸味があり、それと知らずに飲んだら、必ず咽てしまうだろう。
これらは、広希が非感染者だと発覚しないためのカモフラージュだった。感染者と同じように生命線である血を摂取している。そう周囲に思わせる必要があった。
感染者になると、定期的に血を摂取しなければならない。しかし、非感染者である広希はその必要がないため、集団の中で生活していると、自ずと発覚の恐れがあった。それを避けるためのアクションであった。
それ自体は思ったより簡単で、感染者と同じスパンで、フェイクである血を飲めばいいだけなのだ。
お陰で、これまで発覚したことはなかった。
血を飲み終わった達夫が、ストレートの水筒を鞄にしまいながら、口を開いた。
「そう言えば、新製品の血液飲料が発売されるみたいだぜ。馬の血らしいけど、美味しいのかな?」
「ああ、今、CMでやっているやつ? どうなんだろうね」
広希は、水筒の蓋を閉めながら、答えた。
「明日香が買って飲んでたらしいけど、あまり美味しくないみたいだよ。クセがあるらしい」
茂もパンを食べ終え、血を飲んでいる。茂が飲んでいる血は、紙パック製のものだ。購買で買ったのだろう。
その紙パックは、中身が血であることが想像出来ないほどの、ジュースのようなカラフルなデザインだ。
「そうなのか。確か、前にも不味い商品売り出してたよな。あの会社、すぐに消える新商品ばっかり作っている気がする」
達夫は、以前は日本の大手ビールメーカだったが、パンデミック後に、血液事業に参入した会社の名前を上げた。
広希は同意する。
「奇をてらえばいいってわけじゃないのにね。前に発売されていたやつも、野生動物の血を混ぜたものだったよね。臭みが強くて、口に合わなかったよ」
広希は、インターネットやテレビで得た情報を元に、話を合わせていく。発覚を避けるため、血液商品の名前や外観、味の特徴も調べ上げ、知識として蓄えているのだ。
「俺はクセがある血は好きだよ」
茂はそう言う。口の端に、血が付着しており、喀血したような様相を見せていた。
広希は、そこから目を逸らし、残った弁当を平らげる。そして、もう一本用意してあった銀色の水筒から、ウーロン茶を一口飲む。
「まあ、好みは人それぞれだからな」
達夫が言う。
一言に感染者と言っても、それぞれ、血に対する好みが存在した。その辺りは、通常の飲食物と同じ感覚だろうと思う。
「広希はどんな血が好きだっけ」
茂が血液飲料を飲みつつ、さりげない調子で質問をしてくる。
広希は、ほんの少し心の中で身構えながら答える。
「あまりクセがない奴が好きかな。いつも飲んでいるやつもそうだし」
無難な回答。これがベストだと学んでいた。あまりマイナーな商品名をあげたり、具体的に説明すると、話題が進展し、ぼろが出る恐れがあった。薮蛇は避けなければならない。
「あー広希らしい」
茂は、納得したように頷いた。
そして、達夫が別の話題を持ち出し、血液飲料の話は終わる。
広希は、会話をしながら、若干ホッとする。
慣れているとは言え、それでも血液飲料や感染者の話題が出るたびに、緊張があった。会話からも発覚のおそれがあるからだ。
とは言え、過度に警戒する必要もなかった。そもそも、周囲の者は、完全に広希を感染者だと思い込んでいる。ちょっとしたことでは、疑惑をもたれないはずだ。第一、非感染者の数自体も、減少の一途となっている。まさか、こんな近くに、非感染者がいるとは想像すらしていないだろう。
そういった先入観と、日頃の努力のお陰で、随分と、発覚のリスクは下がっているはずだ。
広希は達夫達と笑い合いながら、再度、スタンレーの水筒から、フェイクの血を飲んだ。
広希が食べているものは、梅子が作った弁当である。冷凍食品と手作りが半々であるが、広希の嗜好を熟知しているようで、祖母の弁当を不味いと思ったことがなかった。
達夫も同じように、家から持ってきた弁当を口に運んでいた。スポーツジャグを側に置き、中の麦茶らしきものを時々飲んでいる。茂の方は、両親が共働きのため、弁当はなしで、購買で買ったパンを昼食として摂っていた。飲み物も、購買で買った紙パックの飲料水である。
広希達三人は、いつものように、ゲームやテレビの話をしながら、食事を続けていた。時折、冗談やからかいを交えながら、笑い合う。空っぽだが、とても楽しい、日常の風景だ。
やがて、食事を終えた達夫は、空になった弁当箱を片付け始めた。そばに置いた通学鞄の中に、その弁当箱を突っ込む。そして、入れ替えるように、そこから、水筒を新たに一本取り出す。今まで使っていたスポーツジャグとは違い、ストレートの黒い水筒だ。
達夫は、その水筒をスポーツジャグの横に置き、蓋を開けた、
蓋がコップになるタイプの水筒であるため、達夫は、蓋に水筒の中身を注ぐ。広希がいる位置から見ても、注がれている液体が赤色だということがわかった。
家畜の血である。教室の蛍光灯の光を受けて、ワインのように煌いていた。
達夫は、その血を美味しそうに飲んだ。
飲み干した達夫の顔は、非常に満たされたものになっていた。
広希もそれに合わせ、自身の通学鞄から、スタンレーの赤い水筒を取り出した。達夫の水筒と同じように、蓋がコップになるタイプである。
広希は、水筒に付いている取っ手を持ち、傾けて、中の液体を注ぐ。赤い色の液体が、蓋に満ちていく。蓋自体の色は、銀色であるため、周りから見ても、赤色の液体を飲もうとしていることは、はっきりと判別が付くはずだ。
広希は、その赤色の液体を一気にあおって、飲み干した。黒酢を薄めたような、甘酸っぱい味が口の中に広がる。
これは、もちろん血ではなかった。梅子お手製の血のフェイクだ。トマトジュースと、砂糖を混ぜ合わせたものらしいが、正直、あまり美味しくはなかった。トマト特有の、酢が効いたような酸味があり、それと知らずに飲んだら、必ず咽てしまうだろう。
これらは、広希が非感染者だと発覚しないためのカモフラージュだった。感染者と同じように生命線である血を摂取している。そう周囲に思わせる必要があった。
感染者になると、定期的に血を摂取しなければならない。しかし、非感染者である広希はその必要がないため、集団の中で生活していると、自ずと発覚の恐れがあった。それを避けるためのアクションであった。
それ自体は思ったより簡単で、感染者と同じスパンで、フェイクである血を飲めばいいだけなのだ。
お陰で、これまで発覚したことはなかった。
血を飲み終わった達夫が、ストレートの水筒を鞄にしまいながら、口を開いた。
「そう言えば、新製品の血液飲料が発売されるみたいだぜ。馬の血らしいけど、美味しいのかな?」
「ああ、今、CMでやっているやつ? どうなんだろうね」
広希は、水筒の蓋を閉めながら、答えた。
「明日香が買って飲んでたらしいけど、あまり美味しくないみたいだよ。クセがあるらしい」
茂もパンを食べ終え、血を飲んでいる。茂が飲んでいる血は、紙パック製のものだ。購買で買ったのだろう。
その紙パックは、中身が血であることが想像出来ないほどの、ジュースのようなカラフルなデザインだ。
「そうなのか。確か、前にも不味い商品売り出してたよな。あの会社、すぐに消える新商品ばっかり作っている気がする」
達夫は、以前は日本の大手ビールメーカだったが、パンデミック後に、血液事業に参入した会社の名前を上げた。
広希は同意する。
「奇をてらえばいいってわけじゃないのにね。前に発売されていたやつも、野生動物の血を混ぜたものだったよね。臭みが強くて、口に合わなかったよ」
広希は、インターネットやテレビで得た情報を元に、話を合わせていく。発覚を避けるため、血液商品の名前や外観、味の特徴も調べ上げ、知識として蓄えているのだ。
「俺はクセがある血は好きだよ」
茂はそう言う。口の端に、血が付着しており、喀血したような様相を見せていた。
広希は、そこから目を逸らし、残った弁当を平らげる。そして、もう一本用意してあった銀色の水筒から、ウーロン茶を一口飲む。
「まあ、好みは人それぞれだからな」
達夫が言う。
一言に感染者と言っても、それぞれ、血に対する好みが存在した。その辺りは、通常の飲食物と同じ感覚だろうと思う。
「広希はどんな血が好きだっけ」
茂が血液飲料を飲みつつ、さりげない調子で質問をしてくる。
広希は、ほんの少し心の中で身構えながら答える。
「あまりクセがない奴が好きかな。いつも飲んでいるやつもそうだし」
無難な回答。これがベストだと学んでいた。あまりマイナーな商品名をあげたり、具体的に説明すると、話題が進展し、ぼろが出る恐れがあった。薮蛇は避けなければならない。
「あー広希らしい」
茂は、納得したように頷いた。
そして、達夫が別の話題を持ち出し、血液飲料の話は終わる。
広希は、会話をしながら、若干ホッとする。
慣れているとは言え、それでも血液飲料や感染者の話題が出るたびに、緊張があった。会話からも発覚のおそれがあるからだ。
とは言え、過度に警戒する必要もなかった。そもそも、周囲の者は、完全に広希を感染者だと思い込んでいる。ちょっとしたことでは、疑惑をもたれないはずだ。第一、非感染者の数自体も、減少の一途となっている。まさか、こんな近くに、非感染者がいるとは想像すらしていないだろう。
そういった先入観と、日頃の努力のお陰で、随分と、発覚のリスクは下がっているはずだ。
広希は達夫達と笑い合いながら、再度、スタンレーの水筒から、フェイクの血を飲んだ。
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