あなたの血を飲み干したなら

佐久間 譲司

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食事

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 部活の終了時刻が到来し、美術部員達は、それぞれ美術部を出て行く。中には、キャンバスを持って帰っている者もいた。家で環境が整っている者は、そのまま続きを描くのだろう。

 帰宅を行う部員達は、大抵が広希に一瞥をくれていた。最後まで、広希のことが気になっていたようだ。

 広希は千夏と一緒に美術室を後にした。この時は、いつも一緒にいる取り巻きはいなかった。

 通学鞄を教室に残したままだったので、千夏と連れたって、二年三組へ戻る。

 教室の中に入ると、達夫と早紀が残っていた。二人は、広希達を確認し、共に嬉しそうな表情になる。

 「来たな。待ってたぞ」

 達夫は手を挙げる。

 「広ちんの鞄が残ってたから、戻ってくると思ってたよ」

 早紀はそう言いながら、広希だけではなく、千夏にも目配せをした。

 広希は訊く。

 「どうしたの?」

 「これからファミレスに寄って行かない?」

 「いいけど、どうして?」

 「明日休みだし、たまにはゆっくりお話したくてさ」

 達夫は、千夏に目を向ける。

 「千夏もどう?」

 達夫は誘う。どうやら、それが本命だったらしい。滅多に関わることのない高校のアイドルと、お近づきになれる機会を逃すつもりはないのだろう。

 千夏は、考える仕草をした。

 「広希君が行くなら、私も行こうかな」

 千夏は、広希を見ながら言う。

 「やった! それじゃあ早速行こうぜ」

 達夫はスイッチを入れたかのように、テンション高く歩き出した。

 「そう言えば、茂は?」

 「塾だって言って、先に帰ったよ」

 「そうなんだ」

 茂は勉学に忙しく、中々付き合えない時がある。可哀想な部分はあった。

 そして広希達は、揃って、学校を出た。



 四人は、木更津駅方面へ少し歩いた場所にあるファミリーレストランへと入った。近くに市立図書館があるため、広希も図書館に立ち寄った際に、何度か利用したことのある店だった。

 夕方なためか、人は多い。利用客は、学生から家族連れと、多岐に渡っていた。

 四人はかろうじて空いていた奥の窓際の席を選び、座る。

 店員がやってきて、それぞれ、フリードリンクを注文した。てっきり千夏はこんな庶民の店を利用したことがないものと思い、達夫が説明を行おうとしたが、千夏はちゃんと把握していた。何度もファミリーレストランを利用したことがあるそうだ。当然言えば、当然だ。漫画の中のお嬢様ではないのだ。ステレオタイプに考え過ぎだろう。

 それぞれ、好みの飲み物を注ぎ終わり、全員が揃う。

 達夫は、血液飲料のドリンクを頼んでいた。トマトジュースのような、ドス黒い色をした液体が、コカ・コーラのグラスを満たしている。千夏も同じだった。家畜の血を注いできたようだ。

 「ごめんなさい、広希君。もう血がなくなってて、どうしても飲みたかったの」

 千夏は、申し訳なさそうにそう謝罪した。

 広希は、わかっている、という風に、頷いてみせる。

 広希はメロンソーダを頼んでいた。早紀も同様に、メロンソーダだった。

 「お待たせ致しました」

 店員が、フライドポテトを持ってきた。これは、達夫の提案による、男性陣の奢りの品だ。

 テーブルの中央にフライドポテトが置かれる。広希はそれを見つめた。

 フライドポテト自体は、何の変哲のないものだが、ケチャップは違うはずだ。これには恐らく家畜の血が入っている。だから、ケチャップを付けては、食べられない。

 このように、血を混入させたメニューや、惣菜は至る所で見受けられた。感染者は気にする必要のないものだが、非感染者は違う。

 ここにいるのは、気を使ってくれるメンバーばかりだったが、細かい所は失念しているのだろう。だが、こういった些細な点は、どうとでも対処できるので、わざわざ口に出すことはしなかった。

 「ごめん。広ちん。ケチャップ、血が入っているね」

 早紀が事情に気が付き、心配そうに声をかけてくる。

 早紀に言われ、達夫も気が付いたようだ。ハッとした表情になった。

 「そうだったな。すまん。そこまで気が回らなかったよ」

 「ポテト自体は血が入っていないから、ケチャップを付けなければ問題ないよ。気にせず食べよう」

 広希は、二人を宥めた。何だか最近、ずっとこんな言葉ばかり使っている気がするな、と広希は頭の隅でチラリと思う。

 広希の説得もあり、皆はポテトに手を付け始める。

 ドリンクを飲みつつ、学校の話題に花を咲かせた。達夫は、今まで接点のなかった千夏と話をできるだけで、嬉しいようで、テンションが高めだった。

 そのような中、ふいに達夫が広希へ質問を行う。

 「そういえば広希、美術部入るのか?」

 急に話を振られ、広希は少し戸惑いながら答えた。

 「まだ決めていないかな。今思案中」

 広希が正直に話すと、千夏が口を挟んだ。

 「広希君には、モデルになって貰うわ」

 その言葉に、達夫と早紀は、同時に驚いた表情をした。晴天の霹靂といった具合だ。

 「ええ!? そうなんだ。何か凄いね」

 早紀は、大きな目をさらに丸くし、広希と千夏を交互に見比べた。まるで恋人であることを知られた時のような、恥ずかしさに似た感情に支配される。

 「まさかヌード?」

 達夫が冷やかし半分、嫉妬半分という感じで、下卑た笑みを浮かべた。

 「馬鹿」

 横にいた早紀が、達夫に脇腹に肘鉄を食らわす。達夫は痛そうに呻く。皆の中で笑いが生じた。

 その後、別の話題に移ったが、終始、千夏の視線を感じていた。はっきりと直視しているわけではないが、意識だけをこちらに向けているような気がするのだ。

 もしかしたら、気のせいかもしれない。モデルになるという話が頭に残っているため、千夏の視線を必要以上に意識し、錯覚を覚えた可能性もある。

 しかし、その感覚は、千夏と別れるまで続いていた。
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