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143話
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翌日。奏は疲労困憊で外に出たがらなかったので、瑠華は凪沙と共にダンジョンへと向かっていた。流石に毎日は無理でも週に一回は配信しておいた方が良いだろうという判断である。
「瑠華お姉ちゃんと潜るの久しぶり」
「そうじゃのぅ…」
凪沙の声色は跳ね、その感情を露わにする。普段口数の少ない凪沙は、それに比例して感情を表に出す事は少ない。なのでこうして分かりやすい凪沙は珍しく、瑠華が微笑ましいとばかりに笑みを浮かべた。
「今日は何処行くの?」
「平原ダンジョンの予定じゃよ。凪沙はまだFランクのダンジョンを踏破しておらんからの」
探索者のランクアップの条件はそのランクにより多少異なるものの、基本的に現在のランクのダンジョンを踏破した上で、一つ上のランクのダンジョンを踏破することだ。
凪沙は未だ最下級のFランクダンジョンを踏破していないので、まずはそちらからである。
少しして平原ダンジョンに到着し、中に入ってから浮遊カメラを起動して配信を開始する。
「見えておるかの?」
:見えてます!
:こんちゃー。
:あら? 奏ちゃん居ない?
開始早々目敏い視聴者が奏が居ない事に気付き、瑠華が少しばかり驚く。
「よく気付いたのう? 今回は奏は留守番じゃよ」
「私は居るよ」
:凪沙ちゃん来ちゃ。
:お久では?
:奏ちゃんお留守番って何で?
「何処から説明すべきか…皆、前回の配信を覚えておるかの?」
:そりゃ勿論。
:貴重な瑠華ちゃんブチ切れ配信だから。
その覚え方に思うところがないではないが、話の腰を折る訳にもいかず無視して続ける。
「その配信で妾は奏を怒らせてしもうてな。故に罰を受ける事となったのじゃが…それが何故か妾に【柊】の仕事をするなという内容でな。その代わりに奏が仕事を受け持ったのじゃが、どうやらかなりの重労働になってしもうたようでな」
「結果疲れ切ってダウン中。かな姉帰宅部だから」
:あらら。
:仕事を禁止するのが罰になるのはワーカーホリックしか居ないんだよなぁ……
:てか奏ちゃん結構タフな印象あったんだけど……
:体力が無いのか瑠華ちゃんが異常なのか。
「かな姉は実は体力無い。でも瑠華お姉ちゃんが異常なのも正しい」
「………」
「実際家事してみて改めて思った。おかしい」
:おかしいwww
:そこまでなのか…
「朝食を毎朝作って片付けして学校行って帰って来て掃除して小さい子達お風呂に入れて髪乾かして晩御飯の片付けしてお風呂掃除して学校の宿題して書類書いてグズる子達寝かせて残ってる諸々終わらせて寝る。これを全く急いでる様子も無く毎日」
:思ってたよりヤバかった。
:そっか瑠華ちゃんって保護者でもあるから、小さい子達の事もしなきゃなのか。
:学校に提出する書類大変なんだよね…。
:そりゃ奏ちゃんも限界になるわ。
瑠華としてはさして大変な事では無かったのだが、流石に奏の様子やコメント欄の反応を見れば自分がズレているという事くらい分かる。
「だから瑠華お姉ちゃんへのお仕置が終わっても、手伝うつもり」
「そこまで気にする必要は無いと思うが…」
「瑠華お姉ちゃんは誰かに任せる事を覚えるべき。私達は瑠華お姉ちゃんが思う程役立たずじゃない」
「その様な事など全く思っておらんよ。妾がただ好きで自らやっているのじゃ」
それは瑠華の本心だ。昔から何かしら世話を焼く事が好きだったのでそれを苦と思った事は無いし、当然世話される側に何かを求めた事も無い。だが、誰かを頼り任せるべきだという意見も一理あると頷く。
(母君や妹達にも散々言われたのぅ…)
瑠華―――レギノルカが多くの事を背負っていたのは周知の事実であり、どうにかして休ませようと画策していた。今回の転生がその一環である事は、当然当人は知る由もない。
「これからは皆にも割り振るようにしようかの」
「ん。頑張る」
話が一区切りついたところで、漸く攻略を再開する。瑠華は既にEランクへと昇格を果たしているので、メインとして戦うのは凪沙の役目だ。
「このダンジョンは一階層のみで構成される珍しいものじゃ。しようと思えば敵に会わずに最奥まで辿り着き、踏破する事も可能と聞いたが…」
「でもそれだと意味が無い。今回矢は沢山用意したから、接敵回数は気にしない」
以前瑠華が見せた魔力を矢として撃ち出すスキルは、未だ獲得出来ていない。なので撃つ数には物理的な限界があるのだが、それを見越して凪沙が雫から矢の提供をして貰っていた。用意周到である。
:前瑠華ちゃんが作った矢は?
:あのチート矢か……。
「あれは駄目。あれに慣れたら大変な事になる」
瑠華が作った矢というのは、以前矢が足りなくなった際に〖魔法板〗を応用して作った矢の事である。
これ以上無い程使い易い矢ではあるが、瑠華が居なければ使えないという欠点がある上、歪みが一切無い矢に慣れてしまうと、普通の矢を使った時に感覚のズレが生じてしまいかねない。なので既に凪沙が要らないと瑠華に伝えていた。
……それを聞いて瑠華がちょっと残念そうにしていたのは、全くの余談である。
「瑠華お姉ちゃんと潜るの久しぶり」
「そうじゃのぅ…」
凪沙の声色は跳ね、その感情を露わにする。普段口数の少ない凪沙は、それに比例して感情を表に出す事は少ない。なのでこうして分かりやすい凪沙は珍しく、瑠華が微笑ましいとばかりに笑みを浮かべた。
「今日は何処行くの?」
「平原ダンジョンの予定じゃよ。凪沙はまだFランクのダンジョンを踏破しておらんからの」
探索者のランクアップの条件はそのランクにより多少異なるものの、基本的に現在のランクのダンジョンを踏破した上で、一つ上のランクのダンジョンを踏破することだ。
凪沙は未だ最下級のFランクダンジョンを踏破していないので、まずはそちらからである。
少しして平原ダンジョンに到着し、中に入ってから浮遊カメラを起動して配信を開始する。
「見えておるかの?」
:見えてます!
:こんちゃー。
:あら? 奏ちゃん居ない?
開始早々目敏い視聴者が奏が居ない事に気付き、瑠華が少しばかり驚く。
「よく気付いたのう? 今回は奏は留守番じゃよ」
「私は居るよ」
:凪沙ちゃん来ちゃ。
:お久では?
:奏ちゃんお留守番って何で?
「何処から説明すべきか…皆、前回の配信を覚えておるかの?」
:そりゃ勿論。
:貴重な瑠華ちゃんブチ切れ配信だから。
その覚え方に思うところがないではないが、話の腰を折る訳にもいかず無視して続ける。
「その配信で妾は奏を怒らせてしもうてな。故に罰を受ける事となったのじゃが…それが何故か妾に【柊】の仕事をするなという内容でな。その代わりに奏が仕事を受け持ったのじゃが、どうやらかなりの重労働になってしもうたようでな」
「結果疲れ切ってダウン中。かな姉帰宅部だから」
:あらら。
:仕事を禁止するのが罰になるのはワーカーホリックしか居ないんだよなぁ……
:てか奏ちゃん結構タフな印象あったんだけど……
:体力が無いのか瑠華ちゃんが異常なのか。
「かな姉は実は体力無い。でも瑠華お姉ちゃんが異常なのも正しい」
「………」
「実際家事してみて改めて思った。おかしい」
:おかしいwww
:そこまでなのか…
「朝食を毎朝作って片付けして学校行って帰って来て掃除して小さい子達お風呂に入れて髪乾かして晩御飯の片付けしてお風呂掃除して学校の宿題して書類書いてグズる子達寝かせて残ってる諸々終わらせて寝る。これを全く急いでる様子も無く毎日」
:思ってたよりヤバかった。
:そっか瑠華ちゃんって保護者でもあるから、小さい子達の事もしなきゃなのか。
:学校に提出する書類大変なんだよね…。
:そりゃ奏ちゃんも限界になるわ。
瑠華としてはさして大変な事では無かったのだが、流石に奏の様子やコメント欄の反応を見れば自分がズレているという事くらい分かる。
「だから瑠華お姉ちゃんへのお仕置が終わっても、手伝うつもり」
「そこまで気にする必要は無いと思うが…」
「瑠華お姉ちゃんは誰かに任せる事を覚えるべき。私達は瑠華お姉ちゃんが思う程役立たずじゃない」
「その様な事など全く思っておらんよ。妾がただ好きで自らやっているのじゃ」
それは瑠華の本心だ。昔から何かしら世話を焼く事が好きだったのでそれを苦と思った事は無いし、当然世話される側に何かを求めた事も無い。だが、誰かを頼り任せるべきだという意見も一理あると頷く。
(母君や妹達にも散々言われたのぅ…)
瑠華―――レギノルカが多くの事を背負っていたのは周知の事実であり、どうにかして休ませようと画策していた。今回の転生がその一環である事は、当然当人は知る由もない。
「これからは皆にも割り振るようにしようかの」
「ん。頑張る」
話が一区切りついたところで、漸く攻略を再開する。瑠華は既にEランクへと昇格を果たしているので、メインとして戦うのは凪沙の役目だ。
「このダンジョンは一階層のみで構成される珍しいものじゃ。しようと思えば敵に会わずに最奥まで辿り着き、踏破する事も可能と聞いたが…」
「でもそれだと意味が無い。今回矢は沢山用意したから、接敵回数は気にしない」
以前瑠華が見せた魔力を矢として撃ち出すスキルは、未だ獲得出来ていない。なので撃つ数には物理的な限界があるのだが、それを見越して凪沙が雫から矢の提供をして貰っていた。用意周到である。
:前瑠華ちゃんが作った矢は?
:あのチート矢か……。
「あれは駄目。あれに慣れたら大変な事になる」
瑠華が作った矢というのは、以前矢が足りなくなった際に〖魔法板〗を応用して作った矢の事である。
これ以上無い程使い易い矢ではあるが、瑠華が居なければ使えないという欠点がある上、歪みが一切無い矢に慣れてしまうと、普通の矢を使った時に感覚のズレが生じてしまいかねない。なので既に凪沙が要らないと瑠華に伝えていた。
……それを聞いて瑠華がちょっと残念そうにしていたのは、全くの余談である。
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