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149話 閑話 後日談
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これは瑠華達が卒業し、【姫森中学校】に新入生が入学してきた頃のお話である。
この学校の入学式は一般的なものと然程変わりないが、その後に行われる説明会に関しては他の学校とは少し毛色が異なる。
「ではこれより部活紹介の映像を流します。もし興味がある部活があれば何時でも仮入部を受け入れているので、気軽に参加してみて下さい」
講壇した先生が体育館に集まった新入生にそう告げると、早速照明を落として舞台上のスクリーンに映像を投影する。
『どうも! 男子サッカー部です!』
最初に映ったのは男子サッカー部の現三年生の二人。キャプテンと副キャプテンだ。
軽く自己紹介をした後に、練習風景の場面へと移る。
「まぁ俺はサッカー部かなぁ」
「お前も?」
そんな映像を眺めながら、新入生達が思い思いに会話を交わす。周りに迷惑が掛からない程度の声量ならば、私語も許されている。
初めての部活。初めての先輩後輩という関係性に沸き立つ新入生達。その空気感が変わったのは、紹介映像が中盤に差し掛かった頃の事だ。
『―――何故妾が喋るのじゃ?』
「「「っ!?」」」
突然の特異な口調と透き通った声に談笑していた皆が驚愕し、一瞬で辺りが静まり返る。
『絶対インパクトあるんで!』
『…まぁそなたらが良いならば構わんが…あー、聞こえておるかの? この紹介映像は女子サッカー部に関してじゃ』
『放課後にグラウンドの右側の方で活動してますっ!』
瑠華の説明を現キャプテンが引き継ぎ、今までと同じく練習風景へと映っていく。しかし皆の興味はと言えば最初に出てきた瑠華の存在で。
「あれ誰!?」
「あんな真っ白な髪見た事ない…」
「私知ってる!」
ザワザワと一段と騒がしくなり、その中には瑠華の存在を知っている声もチラホラと。しかしそんな状態でも、瑠華の声は良く通るもので。
『最後に魅せプレイを…必要かのぅ?』
『聞きましたよ。他の部活でもしてたって』
『………』
不服そうな表情を浮かべて溜息を吐きつつも、瑠華がゴールの正面へと立つ。その様子を、トリックショットという単語に沸き立つ新入生達が熱視線を向ける。
瑠華の元へとボールがパスされ、それをその勢いのまま爪先で蹴り上げる。そして瑠華の頭上を超えるほどにまで打ち上がったボールにいきなり背を向けると、膝を軽く曲げて飛び上がりバク宙。高く持ち上がった瑠華の脚が空中のボールを捉え、一気に加速したボールがゴールネットを揺らした。
「「「おぉっ!」」」
体育館内のテンションは鰻登りだ。特に男子たちの目はキラキラと輝いていた。
『これで良いか?』
肩越しに振り返りながらそう訊ねる。その成功する事を疑わず、それを誇示する事すらしない様子に、カメラの向こう側から色めき立つ声が僅かに聞こえた。
『ばっちりです。えと…という訳で、是非お待ちしてます!』
最後に部員全員が集まった映像でその動画は締められ、次の部活紹介へと移る。
しかしながらその次の動画にも瑠華の姿が映り、思わず皆が困惑する。
「え、あれ?」
「さっきも居たよね?」
部活の掛け持ちは一応認められていると説明はされているとはいえ、一般的ではない。実際瑠華が出るまで、同一人物が別の動画に出てくる事は無かった。
『……恐らく困惑しておる者が大半じゃろうから、ここらで説明しておこうかの。妾は部活には所属しておらん。所謂助っ人というものじゃな。故に他の部活の動画にも出演しておる』
そんな事態を予想していたのか、動画内の瑠華が説明を行った。テロップによる説明も行われ、困惑は一旦の収束を迎える。
だがどの部活紹介でも最後の方には瑠華の凄技や魅せプが挟まれ、部活紹介はかつてない程の盛り上がりを見せた。
「サッカー部いいなぁ」
「私はテニス!」
「吹奏楽にしようかな」
それぞれが思い思いに所属する部活を話す中、とうとう最後の動画がスクリーンに映る。その瞬間騒がしかった体育館が、あっという間に静まり返った。
『こんにちわ。ここからは弓道部の紹介になります』
現主将たる生徒が矢面に立って説明を行うも、新入生達の目線はその奥に立つ人物に釘付けだった。
緩やかな風によって揺れる純白の髪。弓道衣とは異なる鮮やかな赤い袴に黒地の白衣を身に纏い、静かに的を見据えるその姿。それはまるで浮世離れした神秘さで。
「きれ…」
思わずと言った様子で呟かれたその言葉はそよ風で掻き消えてしまう程の小ささだったが、静まり返った体育館には十分過ぎるものだった。
『この挨拶は本編の撮影後に撮ったものなので一応言っておくのですが……これから流れる映像に嘘偽りは一切ありません。それを踏まえて、ご覧下さい』
その注意事項の真意を理解する間もなく、映像が切り替わる。
風の音。衣擦れの音。そして、弓が引き絞られる音。静かな体育館に響くそれに、生徒達が映像の世界へと一瞬で惹き込まれる。
甲高い弦音が響き渡り、遠くに見える的へと真っ直ぐ突き刺さる。それに見惚れるのも束の間で、もう一度放たれた矢が的に突き刺さった矢の矢筈にぶつかった。
「……は?」
それは誰の声だったのか。いや、全員の心の声だったのかもしれない。誰しもが目の前の映像を理解出来ず、しかしこれまでの瑠華の映像を考えればそれが絶対的に有り得ないと言い切れない。
だがそんな事情など露知らず、映像は止まらない。今度は矢を一度に三本番えた瑠華に、まさかという気持ちと期待が鬩ぎ合う。
『ふぅ…』
瑠華がゆっくりと息を吐き、次の瞬間には弓から三本の矢が一斉に放たれる。
後はもう、誰もが予想していた通りに。しかし誰もが信じていなかった光景がしっかりと映像に映し出された。
『……ふぅ、案外何とかなるものじゃの』
誰もが思った。そんな訳あるか、と。
「……えー、これにて部活紹介の動画上映は終了となります。後は好きに気になった部活の見学や体験を行ってもらっても構いません」
そのアナウンスがされた瞬間、皆が向かった先は同じだった。
……しかし、そこで新入生達は知る事になる。当の本人たる瑠華は、既に卒業してもうこの学校には居ないという事実に。
そして結局、弓道部は【姫森中学校】において最大の部員数を抱えてしまう事になるのだが……それはまた別のお話。
この学校の入学式は一般的なものと然程変わりないが、その後に行われる説明会に関しては他の学校とは少し毛色が異なる。
「ではこれより部活紹介の映像を流します。もし興味がある部活があれば何時でも仮入部を受け入れているので、気軽に参加してみて下さい」
講壇した先生が体育館に集まった新入生にそう告げると、早速照明を落として舞台上のスクリーンに映像を投影する。
『どうも! 男子サッカー部です!』
最初に映ったのは男子サッカー部の現三年生の二人。キャプテンと副キャプテンだ。
軽く自己紹介をした後に、練習風景の場面へと移る。
「まぁ俺はサッカー部かなぁ」
「お前も?」
そんな映像を眺めながら、新入生達が思い思いに会話を交わす。周りに迷惑が掛からない程度の声量ならば、私語も許されている。
初めての部活。初めての先輩後輩という関係性に沸き立つ新入生達。その空気感が変わったのは、紹介映像が中盤に差し掛かった頃の事だ。
『―――何故妾が喋るのじゃ?』
「「「っ!?」」」
突然の特異な口調と透き通った声に談笑していた皆が驚愕し、一瞬で辺りが静まり返る。
『絶対インパクトあるんで!』
『…まぁそなたらが良いならば構わんが…あー、聞こえておるかの? この紹介映像は女子サッカー部に関してじゃ』
『放課後にグラウンドの右側の方で活動してますっ!』
瑠華の説明を現キャプテンが引き継ぎ、今までと同じく練習風景へと映っていく。しかし皆の興味はと言えば最初に出てきた瑠華の存在で。
「あれ誰!?」
「あんな真っ白な髪見た事ない…」
「私知ってる!」
ザワザワと一段と騒がしくなり、その中には瑠華の存在を知っている声もチラホラと。しかしそんな状態でも、瑠華の声は良く通るもので。
『最後に魅せプレイを…必要かのぅ?』
『聞きましたよ。他の部活でもしてたって』
『………』
不服そうな表情を浮かべて溜息を吐きつつも、瑠華がゴールの正面へと立つ。その様子を、トリックショットという単語に沸き立つ新入生達が熱視線を向ける。
瑠華の元へとボールがパスされ、それをその勢いのまま爪先で蹴り上げる。そして瑠華の頭上を超えるほどにまで打ち上がったボールにいきなり背を向けると、膝を軽く曲げて飛び上がりバク宙。高く持ち上がった瑠華の脚が空中のボールを捉え、一気に加速したボールがゴールネットを揺らした。
「「「おぉっ!」」」
体育館内のテンションは鰻登りだ。特に男子たちの目はキラキラと輝いていた。
『これで良いか?』
肩越しに振り返りながらそう訊ねる。その成功する事を疑わず、それを誇示する事すらしない様子に、カメラの向こう側から色めき立つ声が僅かに聞こえた。
『ばっちりです。えと…という訳で、是非お待ちしてます!』
最後に部員全員が集まった映像でその動画は締められ、次の部活紹介へと移る。
しかしながらその次の動画にも瑠華の姿が映り、思わず皆が困惑する。
「え、あれ?」
「さっきも居たよね?」
部活の掛け持ちは一応認められていると説明はされているとはいえ、一般的ではない。実際瑠華が出るまで、同一人物が別の動画に出てくる事は無かった。
『……恐らく困惑しておる者が大半じゃろうから、ここらで説明しておこうかの。妾は部活には所属しておらん。所謂助っ人というものじゃな。故に他の部活の動画にも出演しておる』
そんな事態を予想していたのか、動画内の瑠華が説明を行った。テロップによる説明も行われ、困惑は一旦の収束を迎える。
だがどの部活紹介でも最後の方には瑠華の凄技や魅せプが挟まれ、部活紹介はかつてない程の盛り上がりを見せた。
「サッカー部いいなぁ」
「私はテニス!」
「吹奏楽にしようかな」
それぞれが思い思いに所属する部活を話す中、とうとう最後の動画がスクリーンに映る。その瞬間騒がしかった体育館が、あっという間に静まり返った。
『こんにちわ。ここからは弓道部の紹介になります』
現主将たる生徒が矢面に立って説明を行うも、新入生達の目線はその奥に立つ人物に釘付けだった。
緩やかな風によって揺れる純白の髪。弓道衣とは異なる鮮やかな赤い袴に黒地の白衣を身に纏い、静かに的を見据えるその姿。それはまるで浮世離れした神秘さで。
「きれ…」
思わずと言った様子で呟かれたその言葉はそよ風で掻き消えてしまう程の小ささだったが、静まり返った体育館には十分過ぎるものだった。
『この挨拶は本編の撮影後に撮ったものなので一応言っておくのですが……これから流れる映像に嘘偽りは一切ありません。それを踏まえて、ご覧下さい』
その注意事項の真意を理解する間もなく、映像が切り替わる。
風の音。衣擦れの音。そして、弓が引き絞られる音。静かな体育館に響くそれに、生徒達が映像の世界へと一瞬で惹き込まれる。
甲高い弦音が響き渡り、遠くに見える的へと真っ直ぐ突き刺さる。それに見惚れるのも束の間で、もう一度放たれた矢が的に突き刺さった矢の矢筈にぶつかった。
「……は?」
それは誰の声だったのか。いや、全員の心の声だったのかもしれない。誰しもが目の前の映像を理解出来ず、しかしこれまでの瑠華の映像を考えればそれが絶対的に有り得ないと言い切れない。
だがそんな事情など露知らず、映像は止まらない。今度は矢を一度に三本番えた瑠華に、まさかという気持ちと期待が鬩ぎ合う。
『ふぅ…』
瑠華がゆっくりと息を吐き、次の瞬間には弓から三本の矢が一斉に放たれる。
後はもう、誰もが予想していた通りに。しかし誰もが信じていなかった光景がしっかりと映像に映し出された。
『……ふぅ、案外何とかなるものじゃの』
誰もが思った。そんな訳あるか、と。
「……えー、これにて部活紹介の動画上映は終了となります。後は好きに気になった部活の見学や体験を行ってもらっても構いません」
そのアナウンスがされた瞬間、皆が向かった先は同じだった。
……しかし、そこで新入生達は知る事になる。当の本人たる瑠華は、既に卒業してもうこの学校には居ないという事実に。
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