12 / 27
⑫優しいくせに
しおりを挟む
短い期間で色んな表情のカヤミを見た
鋭い視目つきだったり 作り笑顔だったり
安堵した顔 不貞腐れたような顔
戸惑った顔 恥ずかしそうな顔
⋯⋯俺に謝る辛い顔は させたくなかったけど
俺が 一番見たいのは ───
「あ~⋯⋯ やっと浜辺が見えてきた、あと少しだ」
朝日の中、あくびをしながらマントを揺らして早足で歩く。
ロティルは昨夜、森で薬草の採取に夢中で勤しんだ結果、日を跨いでしまった。そのまま野宿をして仮眠を取り、海辺の町へと向かっている最中である。
10日間で帰る と伝えて、現在11日目の早朝。
野宿なんて久しぶりだったな 身体が痛い⋯⋯
月明かりで手元が良く見えたから つい調子にのって採り過ぎた
夜だけ光る物もあったし あまり見かけない珍しい薬草が今回やたらと見つかって
⋯⋯色んなの カヤミに見せてあげたかったから
前回旅から戻って来た時より、荷物の量は格段に増えた。薬草や木の実ばかりなので、腰につけている剣に比べたら大した重量はないが、かなり かさ張る。
干して乾燥させれば体積を減らすのは可能ではあるが、それは納品先や使用者に任せで、時間も要するので自分で使用する分しか基本しない。
もう とっくに診察が始まってる時間か
海と町並みが近付いてくると、晴れた空に溶け込むような治療院の青い屋根が確認出来る。数日ぶりに感じる潮の香りがする風が、歩き疲れた身体に涼しく心地いい。
日の光の眩しさに、ロティルは反射的に目を閉じ、顔の前で片手をかざして遮った。再び景色に意識をやると、指の隙間から治療院の前にいる人影が目に入る。
風になびいている白く長い服は、前に教えてもらった白衣。眼鏡には光があたってキラリと輝く。片手をポケットに入れ、淡い色の青髪をかき上げながら辺りを見回しているようだった。
ロティルは思わず顔をほころばせ、駆け足でその人物の元へと走る。
「カヤミ!」
「あっ⋯⋯」
ロティルの声と走ってくる姿に気がついたカヤミは、少しの驚きと安堵が混じったような表情をしていた。
「ただいま! なんで外に? 白衣だし、眼鏡も したまま⋯⋯診察中に何かあったの?」
「⋯⋯患者さんは、まだです⋯⋯ 少し様子見に来ただけで。帰るの⋯⋯遅かったですね」
カヤミは そう口にすると、横を向いてロティルから視線をスッとそらす。
「薬草採ってたら夜中になっちゃって⋯⋯野宿してさ。心配かけたならゴメンね」
「何もなかったなら良かった。 じゃあ、中に戻ります」
「あぁ」
玄関の扉を開けたまま白衣の後ろ姿の動きが止まった。そして、振り返らないままロティルに声をかける。
「⋯⋯そういえば、言ってなかったですよね
⋯⋯おかえりなさい」
「!」
そう伝えるだけ伝えて、そのまま建物内へと消えてしまった。何か言う間も与えられなかったロティルだったが、喜びで胸がいっぱいになって、また笑みがこぼれてくる。
「フフ⋯⋯ 相変わらずだけど、何だかんだ ちゃんと言ってくれるんだ。
〝 いってらっしゃい 〟よりも〝 おかえりなさい 〟の方が嬉しいかもしれない⋯⋯」
玄関から治療院に入り、ポーラにも帰還の挨拶を済ませた。自宅玄関とは別に院の入り口は表に面した所に もう一つあり、患者が出入りするのは そちらの方になる。待合室には患者が数人いるのが見え、診察室からも診療中のジゼの声と、先ほど戻ったばかりのカヤミの声も聞こえてきた。
「⋯⋯さっき、患者は まだって⋯⋯」
「何が?」
ロティルの独り言に、側でお茶の準備をしているポーラが反応した。
「いや⋯⋯カヤミと玄関の外で会ったから」
「あぁ、あなたが長くても10日で帰るって話だったのに帰ってこないから⋯⋯随分気にかけてたわよ。
だから外で待ってみればって言ったの。まだ そんなに混んでなかったしね」
「⋯⋯そうなの?」
ロティルの顔と耳が熱くなってくる。頬を紅潮させ、手の甲を口元にあてた。胸の奥のあの妙な痛みは前よりも、一段と強くなっている。
外で帰りを待っててくれたの隠してた?
患者はまだ って 俺には嘘ついて
⋯⋯ホントあの人はさ
優しいくせに 俺に全部は見せてくれない
物思いにふけっていたい気分だが、野宿後の状態なので、ひとまずシャワーを優先。旅先で お土産として何となく購入した石けんを試してみる。ハチミツとジャスミンが入った物で、気持ちが落ち着く効果のある香りだと店主に説明された。
着替えた後、シャワー前に洗っておいた旅での洗濯物を外に干し終え 部屋へと戻る。ベッドに転がった瞬間、身体に纏ったジャスミンの香りがほんのり漂った。
隠していた事を改めて聞くなんて野暮なことはしないけど
今カヤミの顔を見るのは気恥ずかしいな⋯⋯
初めて会ってから俺の頭の中でカヤミの占めてる割合が
圧倒的に多い⋯⋯
説明出来ないけど ずっと 変だ
石けんの香りの効果があったのか、夜通しの採取と野宿の睡眠時間の少なさが相まって、ロティルは昼前にそのまま眠ってしまった。
鋭い視目つきだったり 作り笑顔だったり
安堵した顔 不貞腐れたような顔
戸惑った顔 恥ずかしそうな顔
⋯⋯俺に謝る辛い顔は させたくなかったけど
俺が 一番見たいのは ───
「あ~⋯⋯ やっと浜辺が見えてきた、あと少しだ」
朝日の中、あくびをしながらマントを揺らして早足で歩く。
ロティルは昨夜、森で薬草の採取に夢中で勤しんだ結果、日を跨いでしまった。そのまま野宿をして仮眠を取り、海辺の町へと向かっている最中である。
10日間で帰る と伝えて、現在11日目の早朝。
野宿なんて久しぶりだったな 身体が痛い⋯⋯
月明かりで手元が良く見えたから つい調子にのって採り過ぎた
夜だけ光る物もあったし あまり見かけない珍しい薬草が今回やたらと見つかって
⋯⋯色んなの カヤミに見せてあげたかったから
前回旅から戻って来た時より、荷物の量は格段に増えた。薬草や木の実ばかりなので、腰につけている剣に比べたら大した重量はないが、かなり かさ張る。
干して乾燥させれば体積を減らすのは可能ではあるが、それは納品先や使用者に任せで、時間も要するので自分で使用する分しか基本しない。
もう とっくに診察が始まってる時間か
海と町並みが近付いてくると、晴れた空に溶け込むような治療院の青い屋根が確認出来る。数日ぶりに感じる潮の香りがする風が、歩き疲れた身体に涼しく心地いい。
日の光の眩しさに、ロティルは反射的に目を閉じ、顔の前で片手をかざして遮った。再び景色に意識をやると、指の隙間から治療院の前にいる人影が目に入る。
風になびいている白く長い服は、前に教えてもらった白衣。眼鏡には光があたってキラリと輝く。片手をポケットに入れ、淡い色の青髪をかき上げながら辺りを見回しているようだった。
ロティルは思わず顔をほころばせ、駆け足でその人物の元へと走る。
「カヤミ!」
「あっ⋯⋯」
ロティルの声と走ってくる姿に気がついたカヤミは、少しの驚きと安堵が混じったような表情をしていた。
「ただいま! なんで外に? 白衣だし、眼鏡も したまま⋯⋯診察中に何かあったの?」
「⋯⋯患者さんは、まだです⋯⋯ 少し様子見に来ただけで。帰るの⋯⋯遅かったですね」
カヤミは そう口にすると、横を向いてロティルから視線をスッとそらす。
「薬草採ってたら夜中になっちゃって⋯⋯野宿してさ。心配かけたならゴメンね」
「何もなかったなら良かった。 じゃあ、中に戻ります」
「あぁ」
玄関の扉を開けたまま白衣の後ろ姿の動きが止まった。そして、振り返らないままロティルに声をかける。
「⋯⋯そういえば、言ってなかったですよね
⋯⋯おかえりなさい」
「!」
そう伝えるだけ伝えて、そのまま建物内へと消えてしまった。何か言う間も与えられなかったロティルだったが、喜びで胸がいっぱいになって、また笑みがこぼれてくる。
「フフ⋯⋯ 相変わらずだけど、何だかんだ ちゃんと言ってくれるんだ。
〝 いってらっしゃい 〟よりも〝 おかえりなさい 〟の方が嬉しいかもしれない⋯⋯」
玄関から治療院に入り、ポーラにも帰還の挨拶を済ませた。自宅玄関とは別に院の入り口は表に面した所に もう一つあり、患者が出入りするのは そちらの方になる。待合室には患者が数人いるのが見え、診察室からも診療中のジゼの声と、先ほど戻ったばかりのカヤミの声も聞こえてきた。
「⋯⋯さっき、患者は まだって⋯⋯」
「何が?」
ロティルの独り言に、側でお茶の準備をしているポーラが反応した。
「いや⋯⋯カヤミと玄関の外で会ったから」
「あぁ、あなたが長くても10日で帰るって話だったのに帰ってこないから⋯⋯随分気にかけてたわよ。
だから外で待ってみればって言ったの。まだ そんなに混んでなかったしね」
「⋯⋯そうなの?」
ロティルの顔と耳が熱くなってくる。頬を紅潮させ、手の甲を口元にあてた。胸の奥のあの妙な痛みは前よりも、一段と強くなっている。
外で帰りを待っててくれたの隠してた?
患者はまだ って 俺には嘘ついて
⋯⋯ホントあの人はさ
優しいくせに 俺に全部は見せてくれない
物思いにふけっていたい気分だが、野宿後の状態なので、ひとまずシャワーを優先。旅先で お土産として何となく購入した石けんを試してみる。ハチミツとジャスミンが入った物で、気持ちが落ち着く効果のある香りだと店主に説明された。
着替えた後、シャワー前に洗っておいた旅での洗濯物を外に干し終え 部屋へと戻る。ベッドに転がった瞬間、身体に纏ったジャスミンの香りがほんのり漂った。
隠していた事を改めて聞くなんて野暮なことはしないけど
今カヤミの顔を見るのは気恥ずかしいな⋯⋯
初めて会ってから俺の頭の中でカヤミの占めてる割合が
圧倒的に多い⋯⋯
説明出来ないけど ずっと 変だ
石けんの香りの効果があったのか、夜通しの採取と野宿の睡眠時間の少なさが相まって、ロティルは昼前にそのまま眠ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
目覚めたら隣に副官がいた。隊長として、あれは事故だと思いたい
そよら
BL
少佐として部隊を率いる桐生蓮は、
ある朝、目覚めたベッドの隣で副官・冴木響が眠っていることに気づく。
昨夜の記憶は曖昧で、そこに至る経緯を思い出せない。
「事故だった」
そう割り切らなければ、隊長としての立場も、部隊の秩序も揺らいでしまう。
しかし冴木は何も語らず、何事もなかったかのように副官として振る舞い続ける。
二年前、戦場で出会ったあの日から、
冴木は桐生にとって、理解できない忠誠を向ける危うい存在だった。
あれは本当に事故だったのか、それとも。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
異世界でΩを隠してバリスタになりました
花嗚 颺鸕 (かおう あげろ)
BL
絶対に元の世界に戻りたいΩ×絶対に結婚したいαの物語。
Ωを隠して働くことになったバリスタの悟と憲兵団に所属するαのマルファス。珈琲を作る毎日だったが、治癒の力を使い人々を癒す治癒士としての側面も。バリスタ兼治癒士として働く中で、二人は徐々に距離を縮めていく。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる