彼らの物語

ことは

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鈴の音色のレクイエム

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「さっさとしなさいよこのグズ!」

「申し訳ございません。」

「ちょっと!しゃべらないでくれる!?バイキンが飛ぶじゃない!」

「………。」

「あんたごときが私の言葉を無視しないでくれる!?」

 怒るなら意見を統一してくれないかなぁ。あと、『喋る』くらい漢字で話しなよ。そんなことを思っても、バチは当たらないと思う。

 実母は私が3歳の時に他界した。あまり記憶に残っているわけではないけれど、優しい母だった。
 母が亡くなったあと、父は浮気していた女と再婚した。母を悼む気持ちなんて欠片も持ち合わせていない。親戚の人はみんな母を素晴らしい人だったと言うけれど、父と結婚したことは母の最大の過ちだったと思う。

 再婚相手の女の第一印象は、化粧ゴテゴテのおばさん。私より一つ下の女の子を連れていた。彼女もまた腹黒で、食器を割っては私のせいにしてくる。
 私はこの女二人と父から虐待を受けている。暴力、食事抜きは日常茶飯事。食事をまともに取れるのは、学校の給食くらいだ。しかも今は冬休みだから、最後にまともな食事をしたのは何日前だったかな………。

「ちょっと!私の話聞いてたの!?」

 しまった。考え事に没頭して聞いてなかった………。

「申し訳ございません。聞いておりませんでした。」

「あなたごときが私の話を聞かないなんて!私が話をしている時は集中して聞きなさいと言ったでしょう!」

 バシン、という音と共に右頬に感じる衝撃。痛い。

「ふん、私は女神のように優しいからもう一度話してあげるわ。感謝なさい!」

 いや、あなたが女神なんて何かの間違いだと思う。あと、その話し方は何?お嬢様気取りか何かかな?

「ありがとうございます。」

「今日クリスマスでしょ。私と娘とあの人とパーティーをするから家を出ていきなさい。安心していいわよ、明日覚えていたら家に入れてあげるから。」

「え、あの、それは……」

「いつあなたが口答えを許されたの?さっさと出ていきなさい!」

 問答無用で外に出されてしまった。今は夜中の11時。天気は大雪、最低気温は-3℃。
 今までしぶとく生き残ってきたけれど、今回は死ぬかもしれない。もう眠たくなってきた。こういう時に目を閉じたら死ぬんだっけ。
 死ぬのは怖いし、嫌だ。けど、お母さんのところに行けるって考えたら別にいいかな。
 そして私はそっと目を閉じた。


 その日の夜、その町にどこからか鈴の音色が響いた。その町の住人全員が聞いたその音は、少女を弔う鎮魂歌レクイエム
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