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過去の私は逃げ出したい
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元々私は自分に自信の無い子供だった。社交会の宝石と謳われた華やかな母と美丈夫な父に挟まれて、立っている地味な自分。髪も母のような輝くような金髪では無く、麦色の髪をしていたのが恥ずかしかった。
いつも髪は出来るだけまとめて、目立たせないようにしていた。
母様は私を小さい頃の自分そっくりだと褒めそやし、華美な洋服やアクセサリーを与えてくれた。大好きな母から貰ったものを否定するのも躊躇われ、パーティーに母とお揃いの格好で出席したこともある。
華やかな母様と比べられ、とても視線が痛かった。
けどある日転機が訪れた。10歳の時に参加した国中の高位貴族の子女だけが集められた王宮でのお茶会だ。公爵家でこの国の宰相である父の娘の私も当然参加することになった。
大規模な子女会であるにも関わらず、そこには一人だけ男の子が参加していた。この国の第二王子であるセヴァン・ログライト・アラント殿下だ。
王族特有の美しい白銀の髪に鼻筋の通った端正な顔立ち。長い睫毛に縁取られた、吸い込まれそうな美しいロイヤルブルーの瞳。人形のように整った容姿は父様の様に雰囲気が冷たくなりがちだが、殿下はずっと柔かや笑顔で、優しそうだった。
殿下の笑顔を見た瞬間から、頭に血が上り、殿下の事で頭が一杯になった。一目惚れだった。
公爵家の令嬢である私は王城に今までも来ることがあったし、年の近い殿下とも会う機会があったが、華やかな王城が苦手でいつも適当な理由をつけては逃げ回り、この歳までお会いすることがなかった。
もっと早くから出会えていたら、こんなキラキラした眩しい殿下と友達になることは出来なくても、遠くからその御姿を見ることができたというのに! 逃げ回っていた事を激しく後悔した。
お茶会の席は殿下の周りから順に位の高い貴族令嬢が割当られていた。私の席は殿下の斜め前だった。
公爵令嬢だから当然といえば当然なのだが、周りは高位貴族でこの日の為に精一杯着飾った輝かんばかりの御令嬢達、そして目の前には一目惚れした王子様。
ただでさえ今まで逃げ回っていた苦手なお茶会で、周りはとびきりキラキラした人達。内心緊張で吐きそうになりながら、周りを見渡すことも出来ず下の方を向いて固まっていた。
唯一の救いは、私も母様が用意した華やかな衣装に身を包んでいたことだ。もしいつも着ているような動きやすさ重視のシンプルなドレスを着ていたら、席に着くこともできずに逃げ帰っていただろう。
母様がよく「ドレスは女性の戦闘服であり、身を守る鎧よ!」と言っていた意味が分かった気がした。
お茶会が始まり、王妃様が初めの挨拶が始まった。このお茶会は第二王子の婚約者を見つける為のものだ。
「第二王子に見初められた者が婚約者になる」
と王妃様が仰った。
そんなことはこの茶会に参加した者は皆知っている。なんせ年齢層や性別、貴族の位を指定された絶対参加の王命のお茶会だ。この日の為に令嬢達は身体を磨き立派なドレスを仕立てて、遠い所からだと隣国の友好国からも来城しているのだ。
普通であれば王子の結婚となれば政略結婚。王の決めた家柄のあう令嬢と強制的に婚約となるはずなのだが、先代の王妃様、今の皇后様が前王様と身分違いの恋をして迎え入れられた関係で王子が婚約者を選べる幅を持たせているのだ。
皇后様は身分が低い男爵令嬢だったが、当時の皇太子である先代王に見初められ、その時婚約者だった性格の悪い悪役令嬢に婚約破棄を突き付けて一緒になったらしい。一時代に旋風を巻き起こしたラブロマンスだ。
だが、現実にはそう身分違いの恋で王妃を決められては貴族社会が成り立たない。なので、一定の身分以上の令嬢の範囲から王子に自分で選んでもらうという方法をとっているのだ。
王妃様の挨拶が始まったら下を向いてもいられない。勇気を出して顔を上げると、セヴァン殿下と目が合った。ロイヤルブルーの瞳を大きく開いて、少し驚いた表情をしている。けどすぐに笑顔になって、綺麗な微笑みをくれた。
私はあまりのことに血が上り、頭が沸騰するかと思った。その後のお茶会の内容は緊張しすぎて、余り覚えていない。
けど、お茶会の後に奇跡が起こった。なんとセヴァン殿下が私を婚約者として指名してくれたのだ。私は喜びの余り気絶しそうなりながら、屋敷に帰ったのを覚えている。
セヴァン殿下が、私を見初めてくれたのだと思うと、身体が熱くなり、自分に自信がでてきた。
父様、母様も凄く喜んでくれてフワフワとした夢のような幸せな日だった。
その日から私の生活はセヴァン殿下一色だった。
セヴァン殿下はあの容姿に加えて、文武両道の完璧なお方。その殿下に見初められたのだ。セヴァン殿下の隣に立つに相応しい女性にならなくてはならない。好きだった町の散策も森での遊びもすべて投げ捨てて、美容と勉強に力を入れた。
並み居る美しい令嬢の中、セヴァン殿下に選んでいただけたということを思い出すと、身体に力が漲るのだ。
王子の婚約者が社交が苦手などとはあってはならない。苦手だったお茶会も積極的に参加するようにし、美容にいいものがあれば父様に強請って買ってもらい、それをお茶会で広めたりもした。
殿下が見初めた相手が優れてなければ、殿下に恥をかかせることになる。
気持ちの弱かった私はくじけそうになる時もあったが、殿下に見初めてもらったということをバネに頑張り続けた。
セヴァン殿下は最高の婚約者だった。お忙しいはずなのに、たまに私の屋敷を訪問してくれたり、季節やイベントごとにプレゼントをくれた。周りに興奮しながら伝えると、婚約者として当たり前の行為だっと呆れられた。
いつも殿下が来られる時は玄関で待ち構えて歓迎した。髪も服も母様直伝の華やかなドレスで。少しでも、殿下にいい印象を持ってもらいたかった。
「殿下! お忙しいのにいらしてくださって、ありがとうございます! お会いできてとてもうれしいです!」
「ありがとう、僕も会えて嬉しいよ。婚約者に会いに来るのは、当たり前のことだからね。今日も綺麗な服を着ているね」
「ありがとうございます! 殿下にそう言ってもらえて、すごく、嬉しいです」
だけど、一度たまたま近くに寄ったからと立ち寄ってくださったことがあった。その時は私は完全に油断していて、いつも頑張っているご褒美とばかりに以前のような動きやすいラフな服装で、庭に転がっていた。それを殿下に見られてしまった。
その時の殿下は驚いた表情をしていたが、すぐに優しい笑顔に戻ってくれた。そういう姿もいいねと褒めてくださったが、私は顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくて、その後何を話したのかさえ覚えていない。一時も気を抜いてはいけないと心に誓った。
セヴァン殿下はなんでも器用にこなされる方だった。武芸も勉強も人付き合いも。そういったところも素晴らしいが、何よりセヴァン殿下は穏やかで気品があり、優しかった。
至らない事の多い私に優しく接してくれて、話を聞いてくれた。最初は一目惚れだったが、殿下と接するたびに殿下の人柄や優しさに惹かれていった。
髪色に自信が無いとつい溢してしまった時は、私の髪色が好きだと言ってくれた。麦色の髪は成長と共に金色になることもあると教えてくれた。
その日から私は殊更髪のケアを念入りにして、髪を伸ばし始めた。すると、本当に成長すると共に私の髪は黄金色の輝きを持ち始めた。
セヴァン殿下の優しい笑顔を見るだけで、胸が一杯になって幸せだった。
優しい殿下、私は彼の虜だった。
私は殿下を心からお慕いしていたし、殿下も私を見初めてくれた。それが何より嬉しかったし、ずっと続くものだと信じて疑っていなかった。
いつも髪は出来るだけまとめて、目立たせないようにしていた。
母様は私を小さい頃の自分そっくりだと褒めそやし、華美な洋服やアクセサリーを与えてくれた。大好きな母から貰ったものを否定するのも躊躇われ、パーティーに母とお揃いの格好で出席したこともある。
華やかな母様と比べられ、とても視線が痛かった。
けどある日転機が訪れた。10歳の時に参加した国中の高位貴族の子女だけが集められた王宮でのお茶会だ。公爵家でこの国の宰相である父の娘の私も当然参加することになった。
大規模な子女会であるにも関わらず、そこには一人だけ男の子が参加していた。この国の第二王子であるセヴァン・ログライト・アラント殿下だ。
王族特有の美しい白銀の髪に鼻筋の通った端正な顔立ち。長い睫毛に縁取られた、吸い込まれそうな美しいロイヤルブルーの瞳。人形のように整った容姿は父様の様に雰囲気が冷たくなりがちだが、殿下はずっと柔かや笑顔で、優しそうだった。
殿下の笑顔を見た瞬間から、頭に血が上り、殿下の事で頭が一杯になった。一目惚れだった。
公爵家の令嬢である私は王城に今までも来ることがあったし、年の近い殿下とも会う機会があったが、華やかな王城が苦手でいつも適当な理由をつけては逃げ回り、この歳までお会いすることがなかった。
もっと早くから出会えていたら、こんなキラキラした眩しい殿下と友達になることは出来なくても、遠くからその御姿を見ることができたというのに! 逃げ回っていた事を激しく後悔した。
お茶会の席は殿下の周りから順に位の高い貴族令嬢が割当られていた。私の席は殿下の斜め前だった。
公爵令嬢だから当然といえば当然なのだが、周りは高位貴族でこの日の為に精一杯着飾った輝かんばかりの御令嬢達、そして目の前には一目惚れした王子様。
ただでさえ今まで逃げ回っていた苦手なお茶会で、周りはとびきりキラキラした人達。内心緊張で吐きそうになりながら、周りを見渡すことも出来ず下の方を向いて固まっていた。
唯一の救いは、私も母様が用意した華やかな衣装に身を包んでいたことだ。もしいつも着ているような動きやすさ重視のシンプルなドレスを着ていたら、席に着くこともできずに逃げ帰っていただろう。
母様がよく「ドレスは女性の戦闘服であり、身を守る鎧よ!」と言っていた意味が分かった気がした。
お茶会が始まり、王妃様が初めの挨拶が始まった。このお茶会は第二王子の婚約者を見つける為のものだ。
「第二王子に見初められた者が婚約者になる」
と王妃様が仰った。
そんなことはこの茶会に参加した者は皆知っている。なんせ年齢層や性別、貴族の位を指定された絶対参加の王命のお茶会だ。この日の為に令嬢達は身体を磨き立派なドレスを仕立てて、遠い所からだと隣国の友好国からも来城しているのだ。
普通であれば王子の結婚となれば政略結婚。王の決めた家柄のあう令嬢と強制的に婚約となるはずなのだが、先代の王妃様、今の皇后様が前王様と身分違いの恋をして迎え入れられた関係で王子が婚約者を選べる幅を持たせているのだ。
皇后様は身分が低い男爵令嬢だったが、当時の皇太子である先代王に見初められ、その時婚約者だった性格の悪い悪役令嬢に婚約破棄を突き付けて一緒になったらしい。一時代に旋風を巻き起こしたラブロマンスだ。
だが、現実にはそう身分違いの恋で王妃を決められては貴族社会が成り立たない。なので、一定の身分以上の令嬢の範囲から王子に自分で選んでもらうという方法をとっているのだ。
王妃様の挨拶が始まったら下を向いてもいられない。勇気を出して顔を上げると、セヴァン殿下と目が合った。ロイヤルブルーの瞳を大きく開いて、少し驚いた表情をしている。けどすぐに笑顔になって、綺麗な微笑みをくれた。
私はあまりのことに血が上り、頭が沸騰するかと思った。その後のお茶会の内容は緊張しすぎて、余り覚えていない。
けど、お茶会の後に奇跡が起こった。なんとセヴァン殿下が私を婚約者として指名してくれたのだ。私は喜びの余り気絶しそうなりながら、屋敷に帰ったのを覚えている。
セヴァン殿下が、私を見初めてくれたのだと思うと、身体が熱くなり、自分に自信がでてきた。
父様、母様も凄く喜んでくれてフワフワとした夢のような幸せな日だった。
その日から私の生活はセヴァン殿下一色だった。
セヴァン殿下はあの容姿に加えて、文武両道の完璧なお方。その殿下に見初められたのだ。セヴァン殿下の隣に立つに相応しい女性にならなくてはならない。好きだった町の散策も森での遊びもすべて投げ捨てて、美容と勉強に力を入れた。
並み居る美しい令嬢の中、セヴァン殿下に選んでいただけたということを思い出すと、身体に力が漲るのだ。
王子の婚約者が社交が苦手などとはあってはならない。苦手だったお茶会も積極的に参加するようにし、美容にいいものがあれば父様に強請って買ってもらい、それをお茶会で広めたりもした。
殿下が見初めた相手が優れてなければ、殿下に恥をかかせることになる。
気持ちの弱かった私はくじけそうになる時もあったが、殿下に見初めてもらったということをバネに頑張り続けた。
セヴァン殿下は最高の婚約者だった。お忙しいはずなのに、たまに私の屋敷を訪問してくれたり、季節やイベントごとにプレゼントをくれた。周りに興奮しながら伝えると、婚約者として当たり前の行為だっと呆れられた。
いつも殿下が来られる時は玄関で待ち構えて歓迎した。髪も服も母様直伝の華やかなドレスで。少しでも、殿下にいい印象を持ってもらいたかった。
「殿下! お忙しいのにいらしてくださって、ありがとうございます! お会いできてとてもうれしいです!」
「ありがとう、僕も会えて嬉しいよ。婚約者に会いに来るのは、当たり前のことだからね。今日も綺麗な服を着ているね」
「ありがとうございます! 殿下にそう言ってもらえて、すごく、嬉しいです」
だけど、一度たまたま近くに寄ったからと立ち寄ってくださったことがあった。その時は私は完全に油断していて、いつも頑張っているご褒美とばかりに以前のような動きやすいラフな服装で、庭に転がっていた。それを殿下に見られてしまった。
その時の殿下は驚いた表情をしていたが、すぐに優しい笑顔に戻ってくれた。そういう姿もいいねと褒めてくださったが、私は顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくて、その後何を話したのかさえ覚えていない。一時も気を抜いてはいけないと心に誓った。
セヴァン殿下はなんでも器用にこなされる方だった。武芸も勉強も人付き合いも。そういったところも素晴らしいが、何よりセヴァン殿下は穏やかで気品があり、優しかった。
至らない事の多い私に優しく接してくれて、話を聞いてくれた。最初は一目惚れだったが、殿下と接するたびに殿下の人柄や優しさに惹かれていった。
髪色に自信が無いとつい溢してしまった時は、私の髪色が好きだと言ってくれた。麦色の髪は成長と共に金色になることもあると教えてくれた。
その日から私は殊更髪のケアを念入りにして、髪を伸ばし始めた。すると、本当に成長すると共に私の髪は黄金色の輝きを持ち始めた。
セヴァン殿下の優しい笑顔を見るだけで、胸が一杯になって幸せだった。
優しい殿下、私は彼の虜だった。
私は殿下を心からお慕いしていたし、殿下も私を見初めてくれた。それが何より嬉しかったし、ずっと続くものだと信じて疑っていなかった。
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