【R18】再会した幼なじみの執着系弁護士に結婚を迫られても困ります!

前澤のーん

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9.話を聞いてください②

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◇◇◇

「おぉ、顔色が良くなってきている……」

 朝、顔を洗えば鏡に映る艶やかな肌。その肌に触れて感動してしまう。ここ三年間ずっと消えなかったクマがなくなっている。

「この化粧水と乳液、それに美容液やもろもろ、さすが高いだけあるわね。ありがとうございます」

 狭い三点ユニットに似つかわない高級デパコスの化粧水や乳液、美容液の瓶たち。手洗い場の前に並ぶそれを拝むように頭を下げる。
 なんやかんやありつつ、もう返送するのは諦めて使わせていただいている。どうせ返送したところで送り返されるのが目に浮ぶし、また宅配のお兄さんに怪訝な顔をされても嫌だ。

 あの後は送られてくる荷物も少なくなって、ゆっくりと食材の消費に励んでいる。それに一週間くらい経ったいまでも久世さんから連絡ない。
 というか連絡先教えてないな?と思ったけど、あの人のことだから既に手に入れているに違いない。

「いただきます」

 パンっと手を合わせて頭を下げる。時間や食材もたくさんあるので好きな料理を満喫してるおかげもあるのか健康体に戻ってきている気がする。

 目の前のダンボールの簡易テーブル上に乗せられたのは、美味しそうに湯気が立つご飯とお味噌汁、それに先程焼いた高級ホッケ。箸で身をほぐして柔らかなホッケを口に運べば、絶品すぎて頬が緩む。

(美味しすぎる~!)

 ────ピンポーン。

 もぐもぐと味わっていると、玄関のチャイム音。

「は~い、いつもご苦労さまで……っ!?」

 また宅配物かと諦めの境地にそのまま扉を開ければ、目の前にはにこやかに笑う久世さん。思わず扉を閉めようとしたけれどドアの間に足を挟まれて閉められない。

「どうして閉めるの? 傷つくなぁ」
「あぁ、ご、ごめんなさい……無意識で……」
「無意識な方がさらに傷つくんだけど」

 慌てて扉を開けば一人で来たようで他に誰もいない。いつも通り高級そうなスーツ姿で、ボロアパートの玄関先に似合わないその神々しい姿に朝から目がチカチカとしてしまう。

 『中に……』と伝えようとしたけれど、二人で座れる場所がない。ていうかそうしたのはこの人だから私は悪くない。そのことに久世さんが気がついたのか、ここでいいと笑みを返された。

「働くこと決めてくれた?」
「あっ、あぁ……」

 あの提案から一週間。連絡がその間なかったのは久世さんなりに私に考える時間を与えてくれていたみたいだ。そんな久世さんにゆっくりと頷く。

「ぜひとも、よろしくお願いします」

 頭を下げてお願いする。一週間色々と考えた結論。久世さんとの『婚姻届』の件の不安はあれど、あんなに良い条件を断る方が痛手だと考えた末の答え。

(婚姻届はうやむやにしてしまえばいいわ。それに酔わなければまた流されることもないだろうし……)

 できることなら、あの甘い思い出のまま終わらせたい。セフレや身代わりはごめんだ。なにを考えているのかわからないこの美しい男性とはある程度距離をおきながら接していこう。そんなことを思っていれば、久世さんが静かなことに気がついて頭を上げる。

 そこには頬を少し赤らめて微笑む久世さん。嬉しそうに笑うのにドクンとまた簡単な私の心臓は音を立てる。

「嬉しい、よろしく莉衣」
「ッ!」

 あの夜と同じように花が咲くように顔が綻ぶ。

(なんで……こんな嬉しそうに……)

 その美しさに息を飲んでしまう。いや、騙されたらだめだ。さきほど思い出で終わらせたいと思った自分を思い起こしてなんとか理性を保つ。

「よろしくお願いします。久世先生」
「距離が遠くなった気がするなぁ。二人のときはそれやめてよ」
「予行練習です。それに今後は二人になることもないですし」
「うーん、つれないな。まぁいいか。じゃあさっそくだけど一緒に来てくれる?」
「え!? いまからですか?」
「うん?」

 なにかおかしなことを言ったかといった顔をする久世さん。おかしすぎるでしょう。日雇い労働者じゃないんだから。

「軽く挨拶と労働契約書を書いてもらうだけだから」
「あぁ、なるほど。……って、そうじゃなくて! いま準備するので少し待っててください!」

(あぁもう! この人はなんでこんなにすべてが急なの!?)

 すぐ着替えて準備しなければと慌てて部屋の中に入って服を取り出す。シャツを脱ごうとすれば、目に入る玄関先でにこにこと笑う久世さんの姿。

「いや! なんで扉を開けたまま待ってるんですか!」
「え? 莉衣が勝手に慌てだして着替え出したから。可愛いなぁって」
「ッ!? なに言ってるんですかぁ!」

 ────バンッ!!

 扉を思いっきり閉める。さっきから心臓の鼓動がうるさい。まったくもってこの男性は心臓によろしくない。
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