伯爵と勝負

牧野きうい

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国王視点

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 ローギル伯から謁見の申し込みがあったので自室へ招いた。

 顔を見ると「これは何かあったな」と思わせる顔色だった。少し青白く疲れているような印象を受ける。

 この国で1、2を争う男前も2割減、いや5割減である。半年程前に「結婚する」と意気揚々と報告していたものの今はその影もない。

「ローギル伯」
「陛下」

 臣下の礼をとったローギル伯に頭を上げるように言う。そして目線で人払いをした。
 最後の1人が出て行くのを確認した後、口を開いた。

「どうしたラルフ。今日はエマ嬢を連れてきたんじゃないのか?」

 ぐっと苦しそうな表情で、拳を握りしめている。やはりその件か。

「定期的に抱いているんだろ。報告は届いている」
「なっ! どうしてそれを!」

 ローギル本邸の執事と私の侍従は旧知の仲だ。だいたいの情報は私の耳に入ってくる。

「エマ嬢に会えると思って楽しみにしてたんだが」
「ご期待に沿えず申し訳ありません。陛下」

 む。いきなり慇懃になったな。それでは面白くない。

「せっかく2人きりなんだから、いつものように呼べよ」

 じっと目を見て訴え、やがて根負けしたのかひとつ息を吐き、砕けた口調で喋りはじめた。

「分かったよ。ロズ兄」

 私とラルフは幼い頃より兄弟のようにして育った。まぁ実際従兄でもあるので、他人より血は近い。
 私の方が5歳上であるので、ラルフは昔からロズ兄と呼んで慕ってくれている。

「それでどうしたんだ。その死にそうな顔は」
「……」
「お前らしくないな。そんなに難しい条件ではない筈だと思うんだが」

 半年前、エマ・ノックスと結婚すると決めたラルフは(一応)国王である私に許しを求めてきたのだ。
 この国の主要貴族の結婚には国王の許可がいる。

 その結婚が政治に影響しないか、金銭が絡んでいないか見極めてから判断をする。

 何代か前まではその逆だっただろうが。ほとんどが政略的なものだったと聞く。

 今はそういう時代ではない。やはり結婚は愛し合った2人がしなければ!私はロマンチストなのだ。

 エマ・ノックスであれば父親は誠実で商売もやり手。且つ準男爵という地位もある。本当はもっと上の爵位を与えたかったが、他の貴族の目もある為、準男爵に収まった。

 エマ本人も幼い頃から淑女教育を受け礼儀は完璧。美人で性格も良いと噂で聞いている。反対する理由はないのだが、そろそろラルフには幸せになってもらいたい。

 それで一つだけ条件を出したのだ。お互い想い合っていれば結婚の許可を出す、と。

「何が問題なんだ? 身体の関係があるということは、相手も憎からず思っているのではないのか? それともお前のエマは誰とでも寝るような女なのか?」

 わざとそう言って煽ると、ラルフは分かりやすく激昂した。

「違う!エマはそんなではない!」
「では、何故この場にエマ嬢がいないんだ」

 黙り込むラルフ。話し始めるのを辛抱強く待つ。

「エマは真面目で、私のする事に逆らえないだけ、かもしれない」
「それでも嫌であれば流石に断るだろう」

 エマの性格が噂通りなら尚更だ。

「それで、エマに勝負を持ち出した。エマが勝った場合は何でも言うことを聞くと」

 そうか。読めてきたぞ。

「なるほど。それはお前にかなり有利な勝負で、何度エマ嬢が挑戦しても勝つ事はない。少なくともお前が勝っている間は否定的な言葉を聞かなくて済む、という訳か?」

 馬鹿かこいつは。問題が先送りになっている事に何故気が付かない?仕事には手腕を発揮するローギル伯も、恋愛は形なしだな。

「何故言葉にしないんだ。そんなに自信が無いのか」
「……」
「エマ嬢はベスとは違う。早くケリをつけないと逃げられるぞ」

 ベス、のところでびくりと体を震わせこちらを睨んでいる。昔の事を引っ張り出すのは悪いとは思ったが、発破をかけるためにもわざと言った。

 はっきり言ってふぬけているラルフはこれ以上見たくはない。

「分かっている」

 おざなりに挨拶をし帰ろうとするラルフにとどめを刺した。

「あそうそう。年頃の娘と部屋に籠るのはもう止した方がいい。

 2人きりじゃなくても誰かが勘違いするかもしれない。やりすぎると本当に嫌われるぞ。



 ギリギリと噛み締めると心なしかドアを乱暴に閉め出て行った。私は一応国王なんだが。まぁいいか。

 これであいつの恋がいい方向に向かってくれれば。
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