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二話:最初の活動
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月光は冷たく、世界の罪を照らし出す刃のようだった。ヴェスパー家の屋敷、その書斎の重い扉の向こうで、父親は歴史の鎖を背負い、沈黙を破る。空気は鉛のように重く、言葉は墓碑銘のように刻まれる。
「ラスティ。お前も闇を知る年齢になった。明かそう、我が家の闇と繁栄の歴史を」
「それは『麻薬』と『暗殺』と『奴隷』ですか?」
「どこでそのことを!?」
「書斎に置いてある本にすべて載っていました。まずは麻薬の密売で資金を得て、水面下で暗殺者を雇って敵対者を始末する。更に敵対者の領地から攫った人間や亜人種を奴隷として、市場の奴隷交易で売り捌き、安定した収入と労働力を得る……良く考えられている。しかし下種なやり口と言わざる得ません」
「否定するか?我が家を」
ラスティの首が揺れる。それは風にそよぐ枯葉のようでありながら、どこか鋼のような意志を秘めていた。静かで、しかし揺るぎない。
闇そのものを抱きしめるように、彼の瞳は父親を見据える。
「肯定も否定もしません。私は既に闇の恩恵を預かって成長しました。裕福な家庭、十分な勉学と訓練ができる組織に所属している」
「それもすべて麻薬と暗殺と奴隷によるものだ」
「人を不幸にして得た幸福ならば、この先の人生、それで得たものを返す為に生きるとしましょう」
その視線は剣だった。闇を切り裂き、光を宿す刃。ラスティの言葉は、運命を再定義する呪文のように響く。
「奴隷で成り上がった悪徳貴族のイメージ改善を目指す慈善活動……という名目での活動なら、救済措置を取る口実にもなるのではないでしょうか。『釣り合い』が取れた落とし所でしょう」
「妹のメーテルリンクはどうするつもりだ?」
「知らぬままが幸せと思います。不幸の責任は、私が背負い、負債を支払います」
「すまない。情けない父親で」
ラスティの笑みは、夜空に瞬く星のようだった。柔らかく、どこか儚い光を湛えて。世界の悲しみを一身に引き受ける覚悟を秘めた輝きだ。
「仕方がない事です。昔から続いてきたことを急に変えるなんて難しい。それに領民たちを飢えさせるわけにはいかない。お父様も立場と良心の板挟みだったことは想像できます。私は、弱いことを悪いことだとは思いません。真なる悪は、弱者を踏みつけるシステムと、何もしない事にあると考えます」
「お前は、私を許すのか?」
「許す許さないは問題ではありません。お父様は、悪を成して私達を善とあれと育てた。ならばその蒔いた種は幸福を実らすことこそ、本懐と言えましょう」
「お前は賢い。優しい性格をしている。だからこのまま、人に優しくあってくれ、誰かを助けてあげてくれ。涙を流している者達に、安寧を届けてやってほしい。悪徳貴族だと蔑まれても、人を慈しむ心を失わずにいてくれ」
ラスティは胸に手を当て、膝を折る。その仕草は、古の騎士が主君に忠誠を誓う儀式のようだった。だが、彼の誓いは、誰かではなく、己の魂そのものに向けられていた。
「我が命に代えても、その命題。成し遂げましょう」
◆
静寂の中で、ラスティの息は世界の脈動と共鳴する。
「すう、ふうう……」
それはまるで、宇宙の始まりと終わりを繰り返す呼吸だった。体内で魔力が奔流となり、血と混じり合い、彼の存在を別の次元へと押し上げる。光が溢れ、肉体は神秘の器と化す。
神々の詩を刻む彫刻のように、彼の姿は輝きを帯びた。
「属性変形・雷槍穿ち」
雷は天の裁きそのものだった。指先から迸る光は、空間を貫き、運命を突き破る槍となる。
「属性変形・炎舞一閃」
炎は舞い、刃となる。空間を切り裂き、まるで世界の理を焼き尽くすかのように燃え上がる。その動きは、死と再生を繰り返す輪舞曲のようだった。
「属性変形・水鳥飛来」
水は鳥の形を取り、空を舞う。それは詩の一節が具現化したかのような美しさで、木々に触れ、静かに溶け合う。
「属性変形・冷冷気」
吐息は氷となり、世界を白く染める。冬の神が降臨し、時間を凍てつかせるかのようだった。ラスティは魔力を操る。それは己の魂を楽器とし、宇宙の旋律を奏でる行為だった。
集中と拡散、変形と制御。肉体は単なる器を超え、魔力そのものが彼の意志となる。
「肉体の魔力強化。……ふっ!!」
拳と足が空を裂く。空間が震え、木々が砕け、大地が割れる。彼の動きは嵐そのもの。世界を揺さぶる存在感は、神話の英雄が現世に降り立ったかのようだ。
「装備の魔力強化」
剣を抜き、魔力を流し込む。剣舞は始まり、空間と大地が再び切り裂かれる。それはまるで、世界の境界を再定義する儀式だった。
「魔力変形・空間指定・時戻し」
荒れ果てた大地が、時間を巻き戻すように再生する。炎、肉体、武器、時空操作。ラスティの魔力は、神話の領域に踏み込む一歩手前の力を宿していた。
この異世界に生まれ、十年の歳月が流れた。ラスティはヴェスパー家の長男として、妹メーテルリンクの支えとなるべく、自己研鑽を重ねる。
『慈善活動』という名目で、新たな道を切り開きつつあった。
「魔導兵装の準備もできているし……良い調子だ」
魔力は体内では流れる川の如く滑らかだが、剣に伝えるとなると話は別だ。鉄の剣に100の魔力を流しても、10しか伝わらない。9割が虚空に消える。
ミスリルの剣でも、50伝われば上等だ。だが、ラスティは限界を超える。ゴーレムのコア、心臓と呼ばれるその核を利用したのだ。
ゴーレムは土と岩の塊だが、人の形を成し、魔力を効率的に伝える。コアを加工し、胸に装着すれば、硬質なパワードスーツに変身。
武器にもコアを通せば、魔力のロスは限りなくゼロに近づく。これがラスティの創り上げた『魔導兵装ゴーレムギア』だ。あとは実戦でその力を示すのみ。
「お兄様、おはようございます。朝が早いですね」
「おはよう、メーテルリンク。今起きたところか。随分と寝坊助さんだ。母上に怒られるぞ」
「それは怖いですね。でも時間通りですよ? お兄様が早すぎるのです」
「私は寝るのが不得意だからな、どうしても目が覚めてしまう」
「ふふっ、だからといって手加減して差し上げませんよ?」
「兄の威厳があるからね。負けないさ」 メーテルリンクの剣技は、ラスティの指導により鋭さを増していた。制限状態での手合わせは、互いの刃が空気を切り裂き、決着がつかぬまま続く。 「う、うう……二人とも俺より強いとか父の、ヴェスパー家の主の威厳が……」
「まぁまぁ……子はいずれ、親を超えるものじゃない」
「早過ぎなんですけどっ!?」
「貴方が情けないのよ。悔しかったら政治は任せて剣の腕も磨きなさい」
木刀が弾き飛ばされ、ラスティはメーテルリンクを押し倒す。黒い魔力の腕――【魔力変形・腕】――が彼女を締め付け、苦悶の呻きが漏れる。
「私の勝ちだ」
「降参します」
ラスティは立ち上がり、彼女を解放し、手を差し出す。メーテルリンクは一瞬躊躇するが、泥だらけの手を握り返す。互いに剣を納め、一礼する。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「それじゃ、今日もお願いして良いですか?」
「構わないよ」
風呂で汗を流し、フロアで待つメーテルリンクが髪を梳いてほしいとねだる。きっかけは、跳ねた髪をラスティが整えたこと。今では櫛を手に、妹の髪を梳くのが日課だ。絆を紡ぐ時間。ラスティにとって、それは魂の安らぎだった。
「ん……ふふ、どんどん上手くなっていきますね。おにいさま。流石です」
メーテルリンクの微笑みは、まるで春の陽光のように温かい。ラスティの心もまた、静かに溶ける。
「それはこちらとしても嬉しい限りだ。我が愛しの妹の喜ぶ顔が見れるのは言葉にできない喜びが胸に湧き上がる」
「いずれは恋人にもこれをやってあげるようになるんですよね……そう簡単にはお兄様はあげたりしないですけど! 私が見込んだ女性しか駄目です!」
一人で盛り上がるメーテルリンクに、ラスティは苦笑する。
「気が早いな。どちらかといえばメーテルリンクの方に悪い虫が寄ってきそうで落ち着かない」
「いいえ、私よりお兄様です。それに早すぎる事なんてないです。このままだと絶対、ラスティは将来、多くの女性にモテるようになってしまいます」
「それは男冥利に尽きることこの上ないな。私を好きになって、駄目になった、なんて事を女性達に味わせるわけには行かない。これからも自己研鑽は怠らないようにしないと」
「これ以上格好良くなったら、家族の一線を越えてしまいそうです」
「大丈夫さ。メーテルリンクとなら夜をともにしても泣かせる結末には至らない」
「~~~~!! もうお兄様!!」 抱きついてきたメーテルリンクを、ラスティは優しく抱き返す。兄妹の絆は、永遠に砕けぬ城壁のように揺るぎなかった。
◆
ヴェスパー家領内を蝕む犯罪者集団。
違法な奴隷取引を繰り返し、貴族たちの名を穢す存在。他の貴族の陰謀か、あるいは悪徳貴族の汚名をさらに深めるための駒か。
その目的は定かではないが、統制された魔法戦士を擁する組織は、看過できぬ脅威だった。 『慈善活動』の名の下、彼らを排除することは必須だ。幸福を増やす志が、闇に飲み込まれる前に。
ノブレス・オブリージュを果たす覚悟があるなら、この試練はラスティにとって朝餉の前の軽い運動に過ぎない。実力で示す。それが彼の誓いだった。
深夜、廃村に揺れる灯りは、亡魂の囁きのように儚い。商隊を襲い、血と略奪に浴する盗賊団の宴。
その喧騒を、ラスティは白の礼服に身を包み、闇の中から見つめる。月光に照らされた彼の姿は、死を司る天使のようだった。
「心を殺して完遂しろ、己の使命を」
ゴーレムギアを纏い、剣を握る。初めての殺人。その重さを胸に刻み、彼は闇に溶ける。
「魔導兵装ゴーレムギア、セットアップ」
魔力が奔流となり、バトルスーツと剣に流れ込む。背中から金色の光が溢れ、ラスティは閃光となって宴会場に突入する。
「んだぁ? テメェは!?」
盗賊の叫びは、剣閃によって断ち切られる。
「偽善者」
剣は舞い、血と肉が飛び散る。断末魔の叫びは夜に溶け、盗賊たちは瞬く間に塵と化す。油断しきった彼らに、抵抗の余地はなかった。
「命失われた者に魂の救済を」
魔導兵装を解除し、白い十字架を立てる。商隊の死体を埋葬し、馬車の荷台を運ぼうとした時、ガタリと音がした。
檻の中には、金髪のエルフの少女。首輪、手枷、足枷、猿轡。奴隷として売り払われる運命だった。
「君は……奴隷か」
傷だらけの身体。虐待の痕。ラスティの声は、凍てついた湖のように静かだった。
「ひどい傷だ……虐待でもされていたのか……まずは傷を治そう」
少女に触れようとすると、彼女は獣のように身をよじる。
「暴れないでくれ、君の傷を治したいだけなんだ」
腕をつかみ、魔力を流す。
「魔力変形・治療」
じゅじゅじゅ、と傷が消える。少女の抵抗も静まる。
「傷は治した。枷を解く」
小さな剣で檻を壊す。
「貴方は……何者なの?」
「ヴェスパー家長男のラスティだ。今は慈善活動組織『アーキバス』の一員としてここに来ている。といっても一人だけだがね」
「助けてくれて、ありがとう」
「君だけでも助けられて良かった。まずは家につれて帰って、家族を探してもらおうか」
「いないわ」
「いない?」
「みんな殺された」
「……そう、か。なら、君はどうしたい? ある程度の融通はきけるはずだ」
「……住む場所も、名前も、記憶も、お金も、全部ない」
「なら、私が雇おう。完全週休二日制、6時間に1時間の休憩、高水準の宿泊施設と設備、1時間2000ギル、残業なし」
「?????」
少女の戸惑いに、ラスティは柔らかな微笑みを返す。闇に差し込む一筋の光のように温かかった。
「大丈夫。君の安全を保証する。慈善活動組織『アーキバス』とヴェスパー家の名にかけて」
月光は冷たく、世界の罪を照らし出す刃のようだった。ヴェスパー家の屋敷、その書斎の重い扉の向こうで、父親は歴史の鎖を背負い、沈黙を破る。空気は鉛のように重く、言葉は墓碑銘のように刻まれる。
「ラスティ。お前も闇を知る年齢になった。明かそう、我が家の闇と繁栄の歴史を」
「それは『麻薬』と『暗殺』と『奴隷』ですか?」
「どこでそのことを!?」
「書斎に置いてある本にすべて載っていました。まずは麻薬の密売で資金を得て、水面下で暗殺者を雇って敵対者を始末する。更に敵対者の領地から攫った人間や亜人種を奴隷として、市場の奴隷交易で売り捌き、安定した収入と労働力を得る……良く考えられている。しかし下種なやり口と言わざる得ません」
「否定するか?我が家を」
ラスティの首が揺れる。それは風にそよぐ枯葉のようでありながら、どこか鋼のような意志を秘めていた。静かで、しかし揺るぎない。
闇そのものを抱きしめるように、彼の瞳は父親を見据える。
「肯定も否定もしません。私は既に闇の恩恵を預かって成長しました。裕福な家庭、十分な勉学と訓練ができる組織に所属している」
「それもすべて麻薬と暗殺と奴隷によるものだ」
「人を不幸にして得た幸福ならば、この先の人生、それで得たものを返す為に生きるとしましょう」
その視線は剣だった。闇を切り裂き、光を宿す刃。ラスティの言葉は、運命を再定義する呪文のように響く。
「奴隷で成り上がった悪徳貴族のイメージ改善を目指す慈善活動……という名目での活動なら、救済措置を取る口実にもなるのではないでしょうか。『釣り合い』が取れた落とし所でしょう」
「妹のメーテルリンクはどうするつもりだ?」
「知らぬままが幸せと思います。不幸の責任は、私が背負い、負債を支払います」
「すまない。情けない父親で」
ラスティの笑みは、夜空に瞬く星のようだった。柔らかく、どこか儚い光を湛えて。世界の悲しみを一身に引き受ける覚悟を秘めた輝きだ。
「仕方がない事です。昔から続いてきたことを急に変えるなんて難しい。それに領民たちを飢えさせるわけにはいかない。お父様も立場と良心の板挟みだったことは想像できます。私は、弱いことを悪いことだとは思いません。真なる悪は、弱者を踏みつけるシステムと、何もしない事にあると考えます」
「お前は、私を許すのか?」
「許す許さないは問題ではありません。お父様は、悪を成して私達を善とあれと育てた。ならばその蒔いた種は幸福を実らすことこそ、本懐と言えましょう」
「お前は賢い。優しい性格をしている。だからこのまま、人に優しくあってくれ、誰かを助けてあげてくれ。涙を流している者達に、安寧を届けてやってほしい。悪徳貴族だと蔑まれても、人を慈しむ心を失わずにいてくれ」
ラスティは胸に手を当て、膝を折る。その仕草は、古の騎士が主君に忠誠を誓う儀式のようだった。だが、彼の誓いは、誰かではなく、己の魂そのものに向けられていた。
「我が命に代えても、その命題。成し遂げましょう」
◆
静寂の中で、ラスティの息は世界の脈動と共鳴する。
「すう、ふうう……」
それはまるで、宇宙の始まりと終わりを繰り返す呼吸だった。体内で魔力が奔流となり、血と混じり合い、彼の存在を別の次元へと押し上げる。光が溢れ、肉体は神秘の器と化す。
神々の詩を刻む彫刻のように、彼の姿は輝きを帯びた。
「属性変形・雷槍穿ち」
雷は天の裁きそのものだった。指先から迸る光は、空間を貫き、運命を突き破る槍となる。
「属性変形・炎舞一閃」
炎は舞い、刃となる。空間を切り裂き、まるで世界の理を焼き尽くすかのように燃え上がる。その動きは、死と再生を繰り返す輪舞曲のようだった。
「属性変形・水鳥飛来」
水は鳥の形を取り、空を舞う。それは詩の一節が具現化したかのような美しさで、木々に触れ、静かに溶け合う。
「属性変形・冷冷気」
吐息は氷となり、世界を白く染める。冬の神が降臨し、時間を凍てつかせるかのようだった。ラスティは魔力を操る。それは己の魂を楽器とし、宇宙の旋律を奏でる行為だった。
集中と拡散、変形と制御。肉体は単なる器を超え、魔力そのものが彼の意志となる。
「肉体の魔力強化。……ふっ!!」
拳と足が空を裂く。空間が震え、木々が砕け、大地が割れる。彼の動きは嵐そのもの。世界を揺さぶる存在感は、神話の英雄が現世に降り立ったかのようだ。
「装備の魔力強化」
剣を抜き、魔力を流し込む。剣舞は始まり、空間と大地が再び切り裂かれる。それはまるで、世界の境界を再定義する儀式だった。
「魔力変形・空間指定・時戻し」
荒れ果てた大地が、時間を巻き戻すように再生する。炎、肉体、武器、時空操作。ラスティの魔力は、神話の領域に踏み込む一歩手前の力を宿していた。
この異世界に生まれ、十年の歳月が流れた。ラスティはヴェスパー家の長男として、妹メーテルリンクの支えとなるべく、自己研鑽を重ねる。
『慈善活動』という名目で、新たな道を切り開きつつあった。
「魔導兵装の準備もできているし……良い調子だ」
魔力は体内では流れる川の如く滑らかだが、剣に伝えるとなると話は別だ。鉄の剣に100の魔力を流しても、10しか伝わらない。9割が虚空に消える。
ミスリルの剣でも、50伝われば上等だ。だが、ラスティは限界を超える。ゴーレムのコア、心臓と呼ばれるその核を利用したのだ。
ゴーレムは土と岩の塊だが、人の形を成し、魔力を効率的に伝える。コアを加工し、胸に装着すれば、硬質なパワードスーツに変身。
武器にもコアを通せば、魔力のロスは限りなくゼロに近づく。これがラスティの創り上げた『魔導兵装ゴーレムギア』だ。あとは実戦でその力を示すのみ。
「お兄様、おはようございます。朝が早いですね」
「おはよう、メーテルリンク。今起きたところか。随分と寝坊助さんだ。母上に怒られるぞ」
「それは怖いですね。でも時間通りですよ? お兄様が早すぎるのです」
「私は寝るのが不得意だからな、どうしても目が覚めてしまう」
「ふふっ、だからといって手加減して差し上げませんよ?」
「兄の威厳があるからね。負けないさ」 メーテルリンクの剣技は、ラスティの指導により鋭さを増していた。制限状態での手合わせは、互いの刃が空気を切り裂き、決着がつかぬまま続く。 「う、うう……二人とも俺より強いとか父の、ヴェスパー家の主の威厳が……」
「まぁまぁ……子はいずれ、親を超えるものじゃない」
「早過ぎなんですけどっ!?」
「貴方が情けないのよ。悔しかったら政治は任せて剣の腕も磨きなさい」
木刀が弾き飛ばされ、ラスティはメーテルリンクを押し倒す。黒い魔力の腕――【魔力変形・腕】――が彼女を締め付け、苦悶の呻きが漏れる。
「私の勝ちだ」
「降参します」
ラスティは立ち上がり、彼女を解放し、手を差し出す。メーテルリンクは一瞬躊躇するが、泥だらけの手を握り返す。互いに剣を納め、一礼する。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「どうでした? 私の技量は?」
「保留」
「保留!? そうですか。あ、今日もお願いして良いですか?」
「構わないよ」
風呂で汗を流し、フロアで待つメーテルリンクが髪を梳いてほしいとねだる。きっかけは、跳ねた髪をラスティが整えたこと。今では櫛を手に、妹の髪を梳くのが日課だ。絆を紡ぐ時間。ラスティにとって、それは魂の安らぎだった。
「ん……ふふ、どんどん上手くなっていきますね。おにいさま。流石です」
メーテルリンクの微笑みは、まるで春の陽光のように温かい。ラスティの心もまた、静かに溶ける。
「それはこちらとしても嬉しい限りだ。我が愛しの妹の喜ぶ顔が見れるのは言葉にできない喜びが胸に湧き上がる」
「いずれは恋人にもこれをやってあげるようになるんですよね……そう簡単にはお兄様はあげたりしないですけど! 私が見込んだ女性しか駄目です!」
一人で盛り上がるメーテルリンクに、ラスティは苦笑する。
「気が早いな。どちらかといえばメーテルリンクの方に悪い虫が寄ってきそうで落ち着かない」
「いいえ、私よりお兄様です。それに早すぎる事なんてないです。このままだと絶対、ラスティは将来、多くの女性にモテるようになってしまいます」
「それは男冥利に尽きることこの上ないな。私を好きになって、駄目になった、なんて事を女性達に味わせるわけには行かない。これからも自己研鑽は怠らないようにしないと」
「これ以上格好良くなったら、家族の一線を越えてしまいそうです」
「大丈夫さ。メーテルリンクとなら夜をともにしても泣かせる結末には至らない」
「~~~~!! もうお兄様!!」 抱きついてきたメーテルリンクを、ラスティは優しく抱き返す。兄妹の絆は、永遠に砕けぬ城壁のように揺るぎなかった。
◆
ヴェスパー家領内を蝕む犯罪者集団。
違法な奴隷取引を繰り返し、貴族たちの名を穢す存在。他の貴族の陰謀か、あるいは悪徳貴族の汚名をさらに深めるための駒か。
その目的は定かではないが、統制された魔法戦士を擁する組織は、看過できぬ脅威だった。 『慈善活動』の名の下、彼らを排除することは必須だ。幸福を増やす志が、闇に飲み込まれる前に。
ノブレス・オブリージュを果たす覚悟があるなら、この試練はラスティにとって朝餉の前の軽い運動に過ぎない。実力で示す。それが彼の誓いだった。
深夜、廃村に揺れる灯りは、亡魂の囁きのように儚い。商隊を襲い、血と略奪に浴する盗賊団の宴。
その喧騒を、ラスティは白の礼服に身を包み、闇の中から見つめる。月光に照らされた彼の姿は、死を司る天使のようだった。
「心を殺して完遂しろ、己の使命を」
ゴーレムギアを纏い、剣を握る。初めての殺人。その重さを胸に刻み、彼は闇に溶ける。
「魔導兵装ゴーレムギア、セットアップ」
魔力が奔流となり、バトルスーツと剣に流れ込む。背中から金色の光が溢れ、ラスティは閃光となって宴会場に突入する。
「んだぁ? テメェは!?」
盗賊の叫びは、剣閃によって断ち切られる。
「偽善者」
剣は舞い、血と肉が飛び散る。断末魔の叫びは夜に溶け、盗賊たちは瞬く間に塵と化す。油断しきった彼らに、抵抗の余地はなかった。
「失われた命に魂の救済を」
魔導兵装を解除し、白い十字架を立てる。商隊の死体を埋葬し、馬車の荷台を運ぼうとした時、ガタリと音がした。
檻の中には、金髪のエルフの少女。首輪、手枷、足枷、猿轡。奴隷として売り払われる運命だった。
「君は……奴隷か」
傷だらけの身体。虐待の痕。ラスティの声は、凍てついた湖のように静かだった。
「ひどい傷だ……虐待でもされていたのか……まずは傷を治そう」
少女に触れようとすると、彼女は獣のように身をよじる。
「暴れないでくれ、君の傷を治したいだけなんだ」
腕をつかみ、魔力を流す。
「魔力変形・治療」
じゅじゅじゅ、と傷が消える。少女の抵抗も静まる。
「傷は治した。枷を解く」
小さな剣で檻を壊す。
「貴方は……何者なの?」
「ヴェスパー家長男のラスティだ。今は慈善活動組織『アーキバス』の一員としてここに来ている。といっても一人だけだがね」
「助けてくれて、ありがとう」
「君だけでも助けられて良かった。まずは家につれて帰って、家族を探してもらおうか」
「いないわ」
「いない?」
「みんな殺された」
「……そう、か。なら、君はどうしたい? ある程度の融通はきけるはずだ」
「……住む場所も、名前も、記憶も、お金も、全部ない」
「なら、私が雇おう。完全週休二日制、6時間に1時間の休憩、高水準の宿泊施設と設備、1時間2000ギル、残業なし」
「?????」
少女の戸惑いに、ラスティは柔らかな微笑みを返す。闇に差し込む一筋の光のように温かかった。
「大丈夫。君の安全を保証する。慈善活動組織『アーキバス』とヴェスパー家の名にかけて」
「ラスティ。お前も闇を知る年齢になった。明かそう、我が家の闇と繁栄の歴史を」
「それは『麻薬』と『暗殺』と『奴隷』ですか?」
「どこでそのことを!?」
「書斎に置いてある本にすべて載っていました。まずは麻薬の密売で資金を得て、水面下で暗殺者を雇って敵対者を始末する。更に敵対者の領地から攫った人間や亜人種を奴隷として、市場の奴隷交易で売り捌き、安定した収入と労働力を得る……良く考えられている。しかし下種なやり口と言わざる得ません」
「否定するか?我が家を」
ラスティの首が揺れる。それは風にそよぐ枯葉のようでありながら、どこか鋼のような意志を秘めていた。静かで、しかし揺るぎない。
闇そのものを抱きしめるように、彼の瞳は父親を見据える。
「肯定も否定もしません。私は既に闇の恩恵を預かって成長しました。裕福な家庭、十分な勉学と訓練ができる組織に所属している」
「それもすべて麻薬と暗殺と奴隷によるものだ」
「人を不幸にして得た幸福ならば、この先の人生、それで得たものを返す為に生きるとしましょう」
その視線は剣だった。闇を切り裂き、光を宿す刃。ラスティの言葉は、運命を再定義する呪文のように響く。
「奴隷で成り上がった悪徳貴族のイメージ改善を目指す慈善活動……という名目での活動なら、救済措置を取る口実にもなるのではないでしょうか。『釣り合い』が取れた落とし所でしょう」
「妹のメーテルリンクはどうするつもりだ?」
「知らぬままが幸せと思います。不幸の責任は、私が背負い、負債を支払います」
「すまない。情けない父親で」
ラスティの笑みは、夜空に瞬く星のようだった。柔らかく、どこか儚い光を湛えて。世界の悲しみを一身に引き受ける覚悟を秘めた輝きだ。
「仕方がない事です。昔から続いてきたことを急に変えるなんて難しい。それに領民たちを飢えさせるわけにはいかない。お父様も立場と良心の板挟みだったことは想像できます。私は、弱いことを悪いことだとは思いません。真なる悪は、弱者を踏みつけるシステムと、何もしない事にあると考えます」
「お前は、私を許すのか?」
「許す許さないは問題ではありません。お父様は、悪を成して私達を善とあれと育てた。ならばその蒔いた種は幸福を実らすことこそ、本懐と言えましょう」
「お前は賢い。優しい性格をしている。だからこのまま、人に優しくあってくれ、誰かを助けてあげてくれ。涙を流している者達に、安寧を届けてやってほしい。悪徳貴族だと蔑まれても、人を慈しむ心を失わずにいてくれ」
ラスティは胸に手を当て、膝を折る。その仕草は、古の騎士が主君に忠誠を誓う儀式のようだった。だが、彼の誓いは、誰かではなく、己の魂そのものに向けられていた。
「我が命に代えても、その命題。成し遂げましょう」
◆
静寂の中で、ラスティの息は世界の脈動と共鳴する。
「すう、ふうう……」
それはまるで、宇宙の始まりと終わりを繰り返す呼吸だった。体内で魔力が奔流となり、血と混じり合い、彼の存在を別の次元へと押し上げる。光が溢れ、肉体は神秘の器と化す。
神々の詩を刻む彫刻のように、彼の姿は輝きを帯びた。
「属性変形・雷槍穿ち」
雷は天の裁きそのものだった。指先から迸る光は、空間を貫き、運命を突き破る槍となる。
「属性変形・炎舞一閃」
炎は舞い、刃となる。空間を切り裂き、まるで世界の理を焼き尽くすかのように燃え上がる。その動きは、死と再生を繰り返す輪舞曲のようだった。
「属性変形・水鳥飛来」
水は鳥の形を取り、空を舞う。それは詩の一節が具現化したかのような美しさで、木々に触れ、静かに溶け合う。
「属性変形・冷冷気」
吐息は氷となり、世界を白く染める。冬の神が降臨し、時間を凍てつかせるかのようだった。ラスティは魔力を操る。それは己の魂を楽器とし、宇宙の旋律を奏でる行為だった。
集中と拡散、変形と制御。肉体は単なる器を超え、魔力そのものが彼の意志となる。
「肉体の魔力強化。……ふっ!!」
拳と足が空を裂く。空間が震え、木々が砕け、大地が割れる。彼の動きは嵐そのもの。世界を揺さぶる存在感は、神話の英雄が現世に降り立ったかのようだ。
「装備の魔力強化」
剣を抜き、魔力を流し込む。剣舞は始まり、空間と大地が再び切り裂かれる。それはまるで、世界の境界を再定義する儀式だった。
「魔力変形・空間指定・時戻し」
荒れ果てた大地が、時間を巻き戻すように再生する。炎、肉体、武器、時空操作。ラスティの魔力は、神話の領域に踏み込む一歩手前の力を宿していた。
この異世界に生まれ、十年の歳月が流れた。ラスティはヴェスパー家の長男として、妹メーテルリンクの支えとなるべく、自己研鑽を重ねる。
『慈善活動』という名目で、新たな道を切り開きつつあった。
「魔導兵装の準備もできているし……良い調子だ」
魔力は体内では流れる川の如く滑らかだが、剣に伝えるとなると話は別だ。鉄の剣に100の魔力を流しても、10しか伝わらない。9割が虚空に消える。
ミスリルの剣でも、50伝われば上等だ。だが、ラスティは限界を超える。ゴーレムのコア、心臓と呼ばれるその核を利用したのだ。
ゴーレムは土と岩の塊だが、人の形を成し、魔力を効率的に伝える。コアを加工し、胸に装着すれば、硬質なパワードスーツに変身。
武器にもコアを通せば、魔力のロスは限りなくゼロに近づく。これがラスティの創り上げた『魔導兵装ゴーレムギア』だ。あとは実戦でその力を示すのみ。
「お兄様、おはようございます。朝が早いですね」
「おはよう、メーテルリンク。今起きたところか。随分と寝坊助さんだ。母上に怒られるぞ」
「それは怖いですね。でも時間通りですよ? お兄様が早すぎるのです」
「私は寝るのが不得意だからな、どうしても目が覚めてしまう」
「ふふっ、だからといって手加減して差し上げませんよ?」
「兄の威厳があるからね。負けないさ」 メーテルリンクの剣技は、ラスティの指導により鋭さを増していた。制限状態での手合わせは、互いの刃が空気を切り裂き、決着がつかぬまま続く。 「う、うう……二人とも俺より強いとか父の、ヴェスパー家の主の威厳が……」
「まぁまぁ……子はいずれ、親を超えるものじゃない」
「早過ぎなんですけどっ!?」
「貴方が情けないのよ。悔しかったら政治は任せて剣の腕も磨きなさい」
木刀が弾き飛ばされ、ラスティはメーテルリンクを押し倒す。黒い魔力の腕――【魔力変形・腕】――が彼女を締め付け、苦悶の呻きが漏れる。
「私の勝ちだ」
「降参します」
ラスティは立ち上がり、彼女を解放し、手を差し出す。メーテルリンクは一瞬躊躇するが、泥だらけの手を握り返す。互いに剣を納め、一礼する。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「それじゃ、今日もお願いして良いですか?」
「構わないよ」
風呂で汗を流し、フロアで待つメーテルリンクが髪を梳いてほしいとねだる。きっかけは、跳ねた髪をラスティが整えたこと。今では櫛を手に、妹の髪を梳くのが日課だ。絆を紡ぐ時間。ラスティにとって、それは魂の安らぎだった。
「ん……ふふ、どんどん上手くなっていきますね。おにいさま。流石です」
メーテルリンクの微笑みは、まるで春の陽光のように温かい。ラスティの心もまた、静かに溶ける。
「それはこちらとしても嬉しい限りだ。我が愛しの妹の喜ぶ顔が見れるのは言葉にできない喜びが胸に湧き上がる」
「いずれは恋人にもこれをやってあげるようになるんですよね……そう簡単にはお兄様はあげたりしないですけど! 私が見込んだ女性しか駄目です!」
一人で盛り上がるメーテルリンクに、ラスティは苦笑する。
「気が早いな。どちらかといえばメーテルリンクの方に悪い虫が寄ってきそうで落ち着かない」
「いいえ、私よりお兄様です。それに早すぎる事なんてないです。このままだと絶対、ラスティは将来、多くの女性にモテるようになってしまいます」
「それは男冥利に尽きることこの上ないな。私を好きになって、駄目になった、なんて事を女性達に味わせるわけには行かない。これからも自己研鑽は怠らないようにしないと」
「これ以上格好良くなったら、家族の一線を越えてしまいそうです」
「大丈夫さ。メーテルリンクとなら夜をともにしても泣かせる結末には至らない」
「~~~~!! もうお兄様!!」 抱きついてきたメーテルリンクを、ラスティは優しく抱き返す。兄妹の絆は、永遠に砕けぬ城壁のように揺るぎなかった。
◆
ヴェスパー家領内を蝕む犯罪者集団。
違法な奴隷取引を繰り返し、貴族たちの名を穢す存在。他の貴族の陰謀か、あるいは悪徳貴族の汚名をさらに深めるための駒か。
その目的は定かではないが、統制された魔法戦士を擁する組織は、看過できぬ脅威だった。 『慈善活動』の名の下、彼らを排除することは必須だ。幸福を増やす志が、闇に飲み込まれる前に。
ノブレス・オブリージュを果たす覚悟があるなら、この試練はラスティにとって朝餉の前の軽い運動に過ぎない。実力で示す。それが彼の誓いだった。
深夜、廃村に揺れる灯りは、亡魂の囁きのように儚い。商隊を襲い、血と略奪に浴する盗賊団の宴。
その喧騒を、ラスティは白の礼服に身を包み、闇の中から見つめる。月光に照らされた彼の姿は、死を司る天使のようだった。
「心を殺して完遂しろ、己の使命を」
ゴーレムギアを纏い、剣を握る。初めての殺人。その重さを胸に刻み、彼は闇に溶ける。
「魔導兵装ゴーレムギア、セットアップ」
魔力が奔流となり、バトルスーツと剣に流れ込む。背中から金色の光が溢れ、ラスティは閃光となって宴会場に突入する。
「んだぁ? テメェは!?」
盗賊の叫びは、剣閃によって断ち切られる。
「偽善者」
剣は舞い、血と肉が飛び散る。断末魔の叫びは夜に溶け、盗賊たちは瞬く間に塵と化す。油断しきった彼らに、抵抗の余地はなかった。
「命失われた者に魂の救済を」
魔導兵装を解除し、白い十字架を立てる。商隊の死体を埋葬し、馬車の荷台を運ぼうとした時、ガタリと音がした。
檻の中には、金髪のエルフの少女。首輪、手枷、足枷、猿轡。奴隷として売り払われる運命だった。
「君は……奴隷か」
傷だらけの身体。虐待の痕。ラスティの声は、凍てついた湖のように静かだった。
「ひどい傷だ……虐待でもされていたのか……まずは傷を治そう」
少女に触れようとすると、彼女は獣のように身をよじる。
「暴れないでくれ、君の傷を治したいだけなんだ」
腕をつかみ、魔力を流す。
「魔力変形・治療」
じゅじゅじゅ、と傷が消える。少女の抵抗も静まる。
「傷は治した。枷を解く」
小さな剣で檻を壊す。
「貴方は……何者なの?」
「ヴェスパー家長男のラスティだ。今は慈善活動組織『アーキバス』の一員としてここに来ている。といっても一人だけだがね」
「助けてくれて、ありがとう」
「君だけでも助けられて良かった。まずは家につれて帰って、家族を探してもらおうか」
「いないわ」
「いない?」
「みんな殺された」
「……そう、か。なら、君はどうしたい? ある程度の融通はきけるはずだ」
「……住む場所も、名前も、記憶も、お金も、全部ない」
「なら、私が雇おう。完全週休二日制、6時間に1時間の休憩、高水準の宿泊施設と設備、1時間2000ギル、残業なし」
「?????」
少女の戸惑いに、ラスティは柔らかな微笑みを返す。闇に差し込む一筋の光のように温かかった。
「大丈夫。君の安全を保証する。慈善活動組織『アーキバス』とヴェスパー家の名にかけて」
月光は冷たく、世界の罪を照らし出す刃のようだった。ヴェスパー家の屋敷、その書斎の重い扉の向こうで、父親は歴史の鎖を背負い、沈黙を破る。空気は鉛のように重く、言葉は墓碑銘のように刻まれる。
「ラスティ。お前も闇を知る年齢になった。明かそう、我が家の闇と繁栄の歴史を」
「それは『麻薬』と『暗殺』と『奴隷』ですか?」
「どこでそのことを!?」
「書斎に置いてある本にすべて載っていました。まずは麻薬の密売で資金を得て、水面下で暗殺者を雇って敵対者を始末する。更に敵対者の領地から攫った人間や亜人種を奴隷として、市場の奴隷交易で売り捌き、安定した収入と労働力を得る……良く考えられている。しかし下種なやり口と言わざる得ません」
「否定するか?我が家を」
ラスティの首が揺れる。それは風にそよぐ枯葉のようでありながら、どこか鋼のような意志を秘めていた。静かで、しかし揺るぎない。
闇そのものを抱きしめるように、彼の瞳は父親を見据える。
「肯定も否定もしません。私は既に闇の恩恵を預かって成長しました。裕福な家庭、十分な勉学と訓練ができる組織に所属している」
「それもすべて麻薬と暗殺と奴隷によるものだ」
「人を不幸にして得た幸福ならば、この先の人生、それで得たものを返す為に生きるとしましょう」
その視線は剣だった。闇を切り裂き、光を宿す刃。ラスティの言葉は、運命を再定義する呪文のように響く。
「奴隷で成り上がった悪徳貴族のイメージ改善を目指す慈善活動……という名目での活動なら、救済措置を取る口実にもなるのではないでしょうか。『釣り合い』が取れた落とし所でしょう」
「妹のメーテルリンクはどうするつもりだ?」
「知らぬままが幸せと思います。不幸の責任は、私が背負い、負債を支払います」
「すまない。情けない父親で」
ラスティの笑みは、夜空に瞬く星のようだった。柔らかく、どこか儚い光を湛えて。世界の悲しみを一身に引き受ける覚悟を秘めた輝きだ。
「仕方がない事です。昔から続いてきたことを急に変えるなんて難しい。それに領民たちを飢えさせるわけにはいかない。お父様も立場と良心の板挟みだったことは想像できます。私は、弱いことを悪いことだとは思いません。真なる悪は、弱者を踏みつけるシステムと、何もしない事にあると考えます」
「お前は、私を許すのか?」
「許す許さないは問題ではありません。お父様は、悪を成して私達を善とあれと育てた。ならばその蒔いた種は幸福を実らすことこそ、本懐と言えましょう」
「お前は賢い。優しい性格をしている。だからこのまま、人に優しくあってくれ、誰かを助けてあげてくれ。涙を流している者達に、安寧を届けてやってほしい。悪徳貴族だと蔑まれても、人を慈しむ心を失わずにいてくれ」
ラスティは胸に手を当て、膝を折る。その仕草は、古の騎士が主君に忠誠を誓う儀式のようだった。だが、彼の誓いは、誰かではなく、己の魂そのものに向けられていた。
「我が命に代えても、その命題。成し遂げましょう」
◆
静寂の中で、ラスティの息は世界の脈動と共鳴する。
「すう、ふうう……」
それはまるで、宇宙の始まりと終わりを繰り返す呼吸だった。体内で魔力が奔流となり、血と混じり合い、彼の存在を別の次元へと押し上げる。光が溢れ、肉体は神秘の器と化す。
神々の詩を刻む彫刻のように、彼の姿は輝きを帯びた。
「属性変形・雷槍穿ち」
雷は天の裁きそのものだった。指先から迸る光は、空間を貫き、運命を突き破る槍となる。
「属性変形・炎舞一閃」
炎は舞い、刃となる。空間を切り裂き、まるで世界の理を焼き尽くすかのように燃え上がる。その動きは、死と再生を繰り返す輪舞曲のようだった。
「属性変形・水鳥飛来」
水は鳥の形を取り、空を舞う。それは詩の一節が具現化したかのような美しさで、木々に触れ、静かに溶け合う。
「属性変形・冷冷気」
吐息は氷となり、世界を白く染める。冬の神が降臨し、時間を凍てつかせるかのようだった。ラスティは魔力を操る。それは己の魂を楽器とし、宇宙の旋律を奏でる行為だった。
集中と拡散、変形と制御。肉体は単なる器を超え、魔力そのものが彼の意志となる。
「肉体の魔力強化。……ふっ!!」
拳と足が空を裂く。空間が震え、木々が砕け、大地が割れる。彼の動きは嵐そのもの。世界を揺さぶる存在感は、神話の英雄が現世に降り立ったかのようだ。
「装備の魔力強化」
剣を抜き、魔力を流し込む。剣舞は始まり、空間と大地が再び切り裂かれる。それはまるで、世界の境界を再定義する儀式だった。
「魔力変形・空間指定・時戻し」
荒れ果てた大地が、時間を巻き戻すように再生する。炎、肉体、武器、時空操作。ラスティの魔力は、神話の領域に踏み込む一歩手前の力を宿していた。
この異世界に生まれ、十年の歳月が流れた。ラスティはヴェスパー家の長男として、妹メーテルリンクの支えとなるべく、自己研鑽を重ねる。
『慈善活動』という名目で、新たな道を切り開きつつあった。
「魔導兵装の準備もできているし……良い調子だ」
魔力は体内では流れる川の如く滑らかだが、剣に伝えるとなると話は別だ。鉄の剣に100の魔力を流しても、10しか伝わらない。9割が虚空に消える。
ミスリルの剣でも、50伝われば上等だ。だが、ラスティは限界を超える。ゴーレムのコア、心臓と呼ばれるその核を利用したのだ。
ゴーレムは土と岩の塊だが、人の形を成し、魔力を効率的に伝える。コアを加工し、胸に装着すれば、硬質なパワードスーツに変身。
武器にもコアを通せば、魔力のロスは限りなくゼロに近づく。これがラスティの創り上げた『魔導兵装ゴーレムギア』だ。あとは実戦でその力を示すのみ。
「お兄様、おはようございます。朝が早いですね」
「おはよう、メーテルリンク。今起きたところか。随分と寝坊助さんだ。母上に怒られるぞ」
「それは怖いですね。でも時間通りですよ? お兄様が早すぎるのです」
「私は寝るのが不得意だからな、どうしても目が覚めてしまう」
「ふふっ、だからといって手加減して差し上げませんよ?」
「兄の威厳があるからね。負けないさ」 メーテルリンクの剣技は、ラスティの指導により鋭さを増していた。制限状態での手合わせは、互いの刃が空気を切り裂き、決着がつかぬまま続く。 「う、うう……二人とも俺より強いとか父の、ヴェスパー家の主の威厳が……」
「まぁまぁ……子はいずれ、親を超えるものじゃない」
「早過ぎなんですけどっ!?」
「貴方が情けないのよ。悔しかったら政治は任せて剣の腕も磨きなさい」
木刀が弾き飛ばされ、ラスティはメーテルリンクを押し倒す。黒い魔力の腕――【魔力変形・腕】――が彼女を締め付け、苦悶の呻きが漏れる。
「私の勝ちだ」
「降参します」
ラスティは立ち上がり、彼女を解放し、手を差し出す。メーテルリンクは一瞬躊躇するが、泥だらけの手を握り返す。互いに剣を納め、一礼する。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「どうでした? 私の技量は?」
「保留」
「保留!? そうですか。あ、今日もお願いして良いですか?」
「構わないよ」
風呂で汗を流し、フロアで待つメーテルリンクが髪を梳いてほしいとねだる。きっかけは、跳ねた髪をラスティが整えたこと。今では櫛を手に、妹の髪を梳くのが日課だ。絆を紡ぐ時間。ラスティにとって、それは魂の安らぎだった。
「ん……ふふ、どんどん上手くなっていきますね。おにいさま。流石です」
メーテルリンクの微笑みは、まるで春の陽光のように温かい。ラスティの心もまた、静かに溶ける。
「それはこちらとしても嬉しい限りだ。我が愛しの妹の喜ぶ顔が見れるのは言葉にできない喜びが胸に湧き上がる」
「いずれは恋人にもこれをやってあげるようになるんですよね……そう簡単にはお兄様はあげたりしないですけど! 私が見込んだ女性しか駄目です!」
一人で盛り上がるメーテルリンクに、ラスティは苦笑する。
「気が早いな。どちらかといえばメーテルリンクの方に悪い虫が寄ってきそうで落ち着かない」
「いいえ、私よりお兄様です。それに早すぎる事なんてないです。このままだと絶対、ラスティは将来、多くの女性にモテるようになってしまいます」
「それは男冥利に尽きることこの上ないな。私を好きになって、駄目になった、なんて事を女性達に味わせるわけには行かない。これからも自己研鑽は怠らないようにしないと」
「これ以上格好良くなったら、家族の一線を越えてしまいそうです」
「大丈夫さ。メーテルリンクとなら夜をともにしても泣かせる結末には至らない」
「~~~~!! もうお兄様!!」 抱きついてきたメーテルリンクを、ラスティは優しく抱き返す。兄妹の絆は、永遠に砕けぬ城壁のように揺るぎなかった。
◆
ヴェスパー家領内を蝕む犯罪者集団。
違法な奴隷取引を繰り返し、貴族たちの名を穢す存在。他の貴族の陰謀か、あるいは悪徳貴族の汚名をさらに深めるための駒か。
その目的は定かではないが、統制された魔法戦士を擁する組織は、看過できぬ脅威だった。 『慈善活動』の名の下、彼らを排除することは必須だ。幸福を増やす志が、闇に飲み込まれる前に。
ノブレス・オブリージュを果たす覚悟があるなら、この試練はラスティにとって朝餉の前の軽い運動に過ぎない。実力で示す。それが彼の誓いだった。
深夜、廃村に揺れる灯りは、亡魂の囁きのように儚い。商隊を襲い、血と略奪に浴する盗賊団の宴。
その喧騒を、ラスティは白の礼服に身を包み、闇の中から見つめる。月光に照らされた彼の姿は、死を司る天使のようだった。
「心を殺して完遂しろ、己の使命を」
ゴーレムギアを纏い、剣を握る。初めての殺人。その重さを胸に刻み、彼は闇に溶ける。
「魔導兵装ゴーレムギア、セットアップ」
魔力が奔流となり、バトルスーツと剣に流れ込む。背中から金色の光が溢れ、ラスティは閃光となって宴会場に突入する。
「んだぁ? テメェは!?」
盗賊の叫びは、剣閃によって断ち切られる。
「偽善者」
剣は舞い、血と肉が飛び散る。断末魔の叫びは夜に溶け、盗賊たちは瞬く間に塵と化す。油断しきった彼らに、抵抗の余地はなかった。
「失われた命に魂の救済を」
魔導兵装を解除し、白い十字架を立てる。商隊の死体を埋葬し、馬車の荷台を運ぼうとした時、ガタリと音がした。
檻の中には、金髪のエルフの少女。首輪、手枷、足枷、猿轡。奴隷として売り払われる運命だった。
「君は……奴隷か」
傷だらけの身体。虐待の痕。ラスティの声は、凍てついた湖のように静かだった。
「ひどい傷だ……虐待でもされていたのか……まずは傷を治そう」
少女に触れようとすると、彼女は獣のように身をよじる。
「暴れないでくれ、君の傷を治したいだけなんだ」
腕をつかみ、魔力を流す。
「魔力変形・治療」
じゅじゅじゅ、と傷が消える。少女の抵抗も静まる。
「傷は治した。枷を解く」
小さな剣で檻を壊す。
「貴方は……何者なの?」
「ヴェスパー家長男のラスティだ。今は慈善活動組織『アーキバス』の一員としてここに来ている。といっても一人だけだがね」
「助けてくれて、ありがとう」
「君だけでも助けられて良かった。まずは家につれて帰って、家族を探してもらおうか」
「いないわ」
「いない?」
「みんな殺された」
「……そう、か。なら、君はどうしたい? ある程度の融通はきけるはずだ」
「……住む場所も、名前も、記憶も、お金も、全部ない」
「なら、私が雇おう。完全週休二日制、6時間に1時間の休憩、高水準の宿泊施設と設備、1時間2000ギル、残業なし」
「?????」
少女の戸惑いに、ラスティは柔らかな微笑みを返す。闇に差し込む一筋の光のように温かかった。
「大丈夫。君の安全を保証する。慈善活動組織『アーキバス』とヴェスパー家の名にかけて」
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三大魔法剣姫とトッキロたちは、王女を救出するため、深夜、魔王軍の野営陣地に侵入するが……
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