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15:一時の平和
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工房にいるのは男二人に女が一人、燃える窯を囲んでいた。
「リタ、お前またここに来たのかよ」
リタに対して悪態をついたのはジークだ。彼は工房の窯をかき混ぜながらうんざりした顔をした。
「私はアヒムのお世話をまかせられてるんだからいいでしょ別に。この工房の主もいいって言ってるんだし」
リタがそう言うとアヒムは笑った。
彼女はアヒムが大方回復した今でもこうして世話役として側にいた。それはアヒムにとってはありがたいことであった。
アヒムが倒れて以来、夜の王の訪れはあれど手酷く抱くことはなく、ただ添い寝をする程度であり王の行動に戸惑いを覚えていた。
「ねえ、アヒム。今度はどんな面白いことを見せてくれるの?」
「そうだな。今日は炎の色を変えてみようか」
工房の中にあるものから適当な材料をとった。いくつかの燭台を用意して火をつける。
「わっ! 青色になったわ! 魔法みたいね」
用意した燭台はそれぞれ青や黄、緑の炎をあげて燃えている。
「特定の物質を炎の中にいれると特有の色をだすんだ。花火もその原理を用いているんだよ」
アヒムは息をかけて火を消した。リタが少し残念そうな声をあげる。
「不思議ね。あー! またジークが割ってる」
「し、仕方ないだろ。高温で焼くと割れやすいんだ」
窯から取り出した試作品たちはどれも失敗したようで、思った色や固さ、質感ではなかった。白いものを粘土に混ぜるのは誤っているのだろうか。
「うーん。それなら火に強いものを使えば? たとえば鉄とか。磁器って金属器な音するし」
「お前、馬鹿だろ。そんなことしても白くなんねーんだよ」
ジークに馬鹿にされたリタはアヒムに腕を絡めて庇護欲をそそるような素振りをした。
そんなリタを憎からず思うアヒムは彼女の頭を撫でてなだめる。
「アヒムもそう思うだろ?」
「いや、リタの意見もなかなか面白いんじゃないかな。このさい、色など関係なく目標温度で焼きを完成してみるのも悪くない。何かの突破口になるかもしれないしね」
アヒムの擁護するような意見に本気なのかとジークは訝しげな表情をした。だがアヒムは彼の行動を歯牙にも掛けなかった。
どうせ行き詰まっているのだから、何か新しいことをやってみるのも悪くない。
「鉄を含んだ土を探さないと。オスヴァルト卿に頼めば持ってきてくれるだろう。鉄を含むとなると赤い土だから……」
深く考え込むアヒムの手をリタは退屈そうに玩んだ。その姿がなんだか構ってほしい猫のようで愛らしく感じる。
「急がば回れだ。まずは高温に耐えうるものをつくってみよう。リタ、ありがとう」
「へへへ、どういたしまして」
リタは嬉しそうに笑った。
彼女はアヒムにとっての精神的な支柱となっていた。この地獄のような城で手を取り癒してくれた彼女を愛さないわけがなかった。
情けない姿を見せても彼女は決して見放さず、アヒムの気持ちを受け入れてくれた。
「アヒムの役に立てたのなら嬉しいわ」
リタはアヒムの頬にキスをした。その返事をするようにアヒムも彼女の頬にキスをした。
祖国にいた頃は研究一筋で人との交流を疎かにしており、ラニス国に来たら城に幽閉され王の相手をしていた。これがまともな恋愛なのだろうと実感した。
彼女は砂漠にあらわれたオアシスのようにアヒムの乾きを潤し命を繋いでくれた存在なのだ。
一抹の不安は、ただ王が二人の関係を知って恐ろしい行動にでないかということだけだった。
しかしアヒムの不安とは裏腹に王は異様なまでに静かだった。夜の訪れの頻度も減り、関心が薄れていったのだと喜びと希望を覚えた。一方でどこか漠然とした不安と寂しさも感じていた。
まさに嵐の前の静けさだ。
「リタ、お前またここに来たのかよ」
リタに対して悪態をついたのはジークだ。彼は工房の窯をかき混ぜながらうんざりした顔をした。
「私はアヒムのお世話をまかせられてるんだからいいでしょ別に。この工房の主もいいって言ってるんだし」
リタがそう言うとアヒムは笑った。
彼女はアヒムが大方回復した今でもこうして世話役として側にいた。それはアヒムにとってはありがたいことであった。
アヒムが倒れて以来、夜の王の訪れはあれど手酷く抱くことはなく、ただ添い寝をする程度であり王の行動に戸惑いを覚えていた。
「ねえ、アヒム。今度はどんな面白いことを見せてくれるの?」
「そうだな。今日は炎の色を変えてみようか」
工房の中にあるものから適当な材料をとった。いくつかの燭台を用意して火をつける。
「わっ! 青色になったわ! 魔法みたいね」
用意した燭台はそれぞれ青や黄、緑の炎をあげて燃えている。
「特定の物質を炎の中にいれると特有の色をだすんだ。花火もその原理を用いているんだよ」
アヒムは息をかけて火を消した。リタが少し残念そうな声をあげる。
「不思議ね。あー! またジークが割ってる」
「し、仕方ないだろ。高温で焼くと割れやすいんだ」
窯から取り出した試作品たちはどれも失敗したようで、思った色や固さ、質感ではなかった。白いものを粘土に混ぜるのは誤っているのだろうか。
「うーん。それなら火に強いものを使えば? たとえば鉄とか。磁器って金属器な音するし」
「お前、馬鹿だろ。そんなことしても白くなんねーんだよ」
ジークに馬鹿にされたリタはアヒムに腕を絡めて庇護欲をそそるような素振りをした。
そんなリタを憎からず思うアヒムは彼女の頭を撫でてなだめる。
「アヒムもそう思うだろ?」
「いや、リタの意見もなかなか面白いんじゃないかな。このさい、色など関係なく目標温度で焼きを完成してみるのも悪くない。何かの突破口になるかもしれないしね」
アヒムの擁護するような意見に本気なのかとジークは訝しげな表情をした。だがアヒムは彼の行動を歯牙にも掛けなかった。
どうせ行き詰まっているのだから、何か新しいことをやってみるのも悪くない。
「鉄を含んだ土を探さないと。オスヴァルト卿に頼めば持ってきてくれるだろう。鉄を含むとなると赤い土だから……」
深く考え込むアヒムの手をリタは退屈そうに玩んだ。その姿がなんだか構ってほしい猫のようで愛らしく感じる。
「急がば回れだ。まずは高温に耐えうるものをつくってみよう。リタ、ありがとう」
「へへへ、どういたしまして」
リタは嬉しそうに笑った。
彼女はアヒムにとっての精神的な支柱となっていた。この地獄のような城で手を取り癒してくれた彼女を愛さないわけがなかった。
情けない姿を見せても彼女は決して見放さず、アヒムの気持ちを受け入れてくれた。
「アヒムの役に立てたのなら嬉しいわ」
リタはアヒムの頬にキスをした。その返事をするようにアヒムも彼女の頬にキスをした。
祖国にいた頃は研究一筋で人との交流を疎かにしており、ラニス国に来たら城に幽閉され王の相手をしていた。これがまともな恋愛なのだろうと実感した。
彼女は砂漠にあらわれたオアシスのようにアヒムの乾きを潤し命を繋いでくれた存在なのだ。
一抹の不安は、ただ王が二人の関係を知って恐ろしい行動にでないかということだけだった。
しかしアヒムの不安とは裏腹に王は異様なまでに静かだった。夜の訪れの頻度も減り、関心が薄れていったのだと喜びと希望を覚えた。一方でどこか漠然とした不安と寂しさも感じていた。
まさに嵐の前の静けさだ。
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