上 下
14 / 37

14:落ちた心

しおりを挟む
「陛下、アヒム・ファーベルクをお連れしました」

兵士に連れられてやってきたアヒムはまさに望んだ人物そのものだった。

「アヒムと申します」

彼は臆することなく挨拶をして、怯むことなく勇敢に王と交渉した。

それは自分を売ったジークという男の助命をし、磁器をつくるために城に入った。

謁見の間でアヒムの顎を持ち上げてその美貌を鑑賞した。瞳にはまだ生気と希望がはらんでいた。なんとも美しく高潔だ。

「東洋の神秘を解き明かした暁には罪を不問として、解放してください」

アヒムの要望にランプレヒトは笑った。

この磁器でできた像のように理想的な男が、その手で磁器を産み出すというのがいかに滑稽で耽美であるかを知らないのだ。

「いいだろう」

その時が来る頃にはすでにランプレヒトに溺れているだろう。


どうやって堕とすかを考えていると、アヒムが磁器のギャラリーをみたいという願いが上がった。

計画はすぐに思いつき、そして野うさぎは簡単には罠にはまった。

ただ予想外だったのは彼が存外熱心に研究にうちこみ、そして磁器を本気で完成させようとしていることであった。

「白くてけれど透明感がある。それに滑らかだ」

興味深そうに磁器に触れて質感や材質を触感で確かめようとしていた。

「これ、割れたものなんかありますか?」

研究者のような好奇心が押さえきれないといった表情をしていた。

そして彼の好奇心が交渉材料の一つとなってくれた。

「ない。どれか一つ割ってやろうか」

「はい!?」

予想外の返答に驚いた声をあげていたが、そんな姿もまた愛らしい。

「ただし条件がある」

「……条件ですか?」

アヒムに近づき、その強ばる体を抱き寄せて、その頬を撫で唇を軽くおす。それだけの戯れにアヒムは頬を赤く染めて、顔を反らした。なんとも初な反応に笑みがこぼれる。

「今宵、余の相手をしろ」

「あ、相手というと」

「決まっているだろう」

「陛下にはすでに王妃さまも、夜の相手をする女性もいます。僕みたいな男を侍らせるなど可笑しいです」

「何を言う。そなたは、粉をまぶした女たちよりも、透明で白い肌をもっている。滑らかな触り心地は磁器のようでいて、血のかよった温かさがある。このような美しいものは他にいないだろう」

アヒムの反応は男も女もしらない真っ白なベールのようなものだった。

「そのような初な反応を示して」

思わずと言ってもよいかもしれない。衝動的にその唇を奪い、貪った。

手慣れた女とは違う、初で拙いものであったがそれがさらにランプレヒトを魅せた。

しかし拒否をしようとするので望みどおりに手をはなしてやった。すると予想どおりに勢いがあまったアヒムが後ろにある磁器の壺にぶつかってそれを落とした。

絶望に染まった顔はなんとも哀れで美しかった。

「ああ、これは余の気に入りだったのだが」

アヒムが割ったそれはテッヘド王から譲り受けた、ランプレヒトを魅了したあの磁器の壺であった。

だが、それが割れてしまって全く惜しいと感じなかった。

「どうかお許しください!」

アヒムがその場に跪く。そしてなんということだろう。恐怖から失禁しているではないか。

「余は先ほど言ったな。一つ割るかわりに余の相手をしろと。しかし、そなたが割ったのは余のお気に入りだ。一度の相手で釣り合うことではない」

「な、なんでも致します!」

パニックになったアヒムから言質をとった。まさに望んだ展開だ。あとは彼が堕ちるだけだ。

「ああ、アヒムよ。なんと哀れで愛おしいのだ。粗相をしてしまったのか」

アヒムの染みたズボンと濡れた床をみた。不快感はなかった。それどころか加虐心を初めて刺激された。

ランプレヒトはアヒムの濡れた股間を踏んだ。

「あ゛ぁーッ!!」

悲鳴とも喘ぎ声ともわからない声が回廊に響き渡る。まるで美しい旋律を聞いているようだ。

アヒムの表情は苦悶の中に微かに熱を帯びていた。瞳の奥はねだる女のような色をしていた。


アヒムの体は全てが白く美しい。それを隠す体毛だけが芸術を汚しており、毛の手入れを定期的にさせた。

そうしてランプレヒトは政務で忙しくない時は毎晩のようにアヒムを抱いた。かつての女たちなどすっかり忘れてしまうほどに溺れた。

アヒム自身も性技に慣れ始めた頃だ。オスヴァルトの報告に衝撃を受けた。

「陛下、アヒム殿が倒れられました」

「なんだと!? 宮廷侍医を遣わせろ。すぐに回復させるんだ」

王の錬金術師に対する愛欲と執着はすでに知れ渡っており、王直属の侍医を送っても誰もなにも言わなかった。

「ストレスと栄養失調によるものです。それと陛下」

侍医がどこか言いづらそうに口を動かす。

「なんだ。言ってみろ」

「毎晩の営みでアヒム様の中に欲液をお放ちだと思います。それを処理されず常時中にあるため腹をくだしやすくなっております」

大病ではないことに安心してアヒムの寝るベッドに座り込む。さながらスリーピングビューティーとでも言うべき姿だ。

「つまり控えろと言っているのか」

「アヒム様の体調が戻られるまでは…」

びくびくする侍医にため息をつく。そのような事で殺しはしないというのに。

「もうよい。さがれ」

侍医は安心したように退出した。

「しばらくアヒム殿を世話する者をつけてはいかがでしょう」

オスヴァルトの提案に頷く。ランプレヒトが常に彼の側にいれるわけでもない。はやく体調を回復できるようにサポートする者が必要だろう。

「男はダメだ。女から選べ。できるだけしたたかで権力欲の強い女だ」

「わかりました」

オスヴァルトは相変わらず表情の読めない顔をしていた。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:639pt お気に入り:3

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:79,045pt お気に入り:3,888

男の子たちの変態的な日常

M
BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:338

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:1

【完結】アダルトビデオの様な真実の愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42,104pt お気に入り:2,785

書捨て4コマ的SS集〜思いつきで書く話

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:2

淫乱エリートは今日も男たちに愛される

BL / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:830

処理中です...