ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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一章

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 駅前の大型ビジョンが目に入る。


《アンドロイドウイルスにご注意を!所有機が感染した?と思ったら当研究所へ!》


 一昔前、強力なコンピュータウイルスが流行した。

 そのウイルスは、インフラ、銀行、医療機関といった生活に必要不可欠なシステムを崩壊させ、世界に甚大なる被害を及ぼした。“目には目を”“歯には歯を”という考えに基づき、“コンピュータ上の問題はコンピュータを”と、開発が進んだのが、人工知能技術だった。人々を守るようプログラミングされた人工知能。これがアンドロイドの始まりである。人々を救い、安全な生活に欠かせなくなった人工知能はアンドロイドとして様々な用途で使われるようになり、広く流通された。


《次のニュースです――》


 昨今“アンドロイドウイルス”という新しいウイルスが流行っているらしい。ネットニュースを開けばだいたいその話題だ。ウイルスの発生源は不明。感染したアンドロイドは所有主の命令を無視し、最悪のケースは人間を殺してしまうという。 感染を防ぐため、アンドロイド製造社は全国各地に研究所を設置し、何らかの不具合があればいつでも点検できるシステムを構築している。

  大型ビジョンを半目で見上げて、ぼんやり考えた。

 …点検しておいたほうがいいだろうか。しかし点検費用は結構かかるし、今月これ以上の出費は痛い…


「…はぁ……」
「真山さん、浮かない顔ですね」
「ひょぇ……!?」


  改札でICカードをかざした瞬間だった。ぞくっと背筋が凍った。
 「また遅くまで呑んでたんでしょう?独りで」という囁き声が耳朶に触れる。低くて良い声。微かに掠れたそれは色気を感じる。
 
 ぱっと振り返る。そこにいたのは会社の後輩の犬飼いぬかいだった。


「......き、昨日は呑んでない」
「へえ、珍しい」


  何がおかしいのか、彼はくすくすと笑う。それからホームに向かって歩く俺の後ろにぴったりとくっついて今日の天気や最近のニュースについてぺらぺらと語る。朝から元気な奴だ。ただでさえマイナスを推移してる俺の精力を吸い取られてる気分になった。げんなりとしていると「そういえば」と犬飼は俺の顔を覗き込んだ。


「所長が言ってましたよ。真山さんは潰れると“可愛く”なると」


 近い。


「......そうかよ」


  やんわりと距離を取りながらそう返した。その煌びやかな顔面を近づけるな。あまりの眩しさに変な声が出そうになったわ。


「ぜひ介抱してみたいですね。あ、普段の真山さんも可愛いですよ」
「余計なお世話だ」


 表情を崩さずにそう言えば、ぶわりと風が強く吹いた。
 その風で髪が靡き、犬飼の顔が露わになる。
 
 ......かっけぇ顔

  心の中で呟いた。

 犬飼 さとし。やや垂れた瞳が印象的な爽やか系イケメン。その外見からうちの会社の女性陣からモテにモテるこの男は営業成績も超優秀。配属1ヶ月で大口顧客の新規獲得を何十件も叩き出すハイスペック野郎である。

 この外見とスペックだと高嶺の花のような奴だが、話してみれば親しみやすさもある(俺は馬鹿にされてるだけだと思うが)ので、会社ではアイドル的な存在だ。端正な顔立ちに、艶やかな黒髪が眩しい。ほら。あそこのJK集団なんてぽーっと頬を赤く染めてこちらを見つめてる。イケメンっていいよな。立ってるだけで好感度爆上がりなんだから。俺なんて立ってるだけで職質を受ける始末だ。

 はぁ、と溜息を吐いた。ああ、比べるのはやめよう。悲しくなるだけだ。小さく頭を振ったとき、犬飼は「あれ?」と俺の前に出た。


「ん?」

 
 顔を上げた。

  朝の通勤ラッシュでごった返している中、犬飼はホームのど真ん中で自身の耳をおさえ、俺の頭からつま先まで舐めるように視線を上下に動かした。なんだそのポーズ。そこ邪魔になってるから退いたほうがいいぞ。そう言おうと、犬飼の腰を掴んで場所を移動させようとしたときだ。電車が到着した。その騒がしい音と同時に、手を引かれて、首筋を嗅がれた。

 生暖かい吐息が首筋にかかる。


「ぬぉ…っ!?」
「真山さん」
「な、なんだよ、く…くすぐってぇよ」
「……女でも出来ました?」


 びくりと肩を揺らした。犬飼の声があまりにも低かったからだ。
なんかキレてる?訳が分からず「女?」と間抜けな声を上げた。すると犬飼は心底面白く無さそうな顔をして、舌を鳴らした。

  ………は?

  ぽかんと口を開けた。

  え。今こいつ舌打ちした?


「な、なんだよ……」


  内心びくびく震えながら、強気にそう言って、唇を尖らせた。何が原因か分からんが犬飼の機嫌が最底辺を這ってる。学生時代、空気が読めない男と馬鹿にされてきた俺でも察せる。今の犬飼はとても不機嫌だ。



印付マーキングなんて、随分と嫉妬深い女ですね」
「うん?」


  なんだそれ、と首を傾げた。「さっきから煩いと思ってましたが、まさか真山さんから発生してたなんて」と呟く。


「知りませんか。最近のカップルで流行ってるんです。AI解析で、好意を持つ第三者を判別し、電磁波を流し込むんですよ」
「………は?電磁波?」


 なにそれ怖い。


「真山さんが装着してるその腕時計、携帯、…鞄のパソコンからも……俺が近寄ると強力な電磁波が発生してる……。耳鳴りがしてしょうがないです」


 犬飼は不快だと言わんばかりに表情を歪めた。

 左手首の時計を見下ろす。液晶画面には銀髪の美少年がふよふよ浮いていて、目が合えば、にこりと微笑む。

  ……まさか…

犬飼の言葉に心当たりがあった。
口角をひくりとさせて、数時間前の出来事を思い出した。
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