ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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一章

2b

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 今朝のことだ。


「おっかしいなぁ………」


 俺は床に顔を押し付けた。ベッドの下、棚の下、机の下、どこを探しても目当てのモノが見つからない。


『ヒロ、何をしてるの?』
「ん~………お前の取扱説明書がなくなっちゃってさ……」


 変だな。昨夜まであったのに。

 どこにいってしまったのか。捨てた記憶はないが、ゴミ箱も確認する。…ない。部屋のどこにもない。絶対どこかにあるはずなんだが……。

 顔を上げ、顎に手を当てていると、『大丈夫です』と、ひんやりとした感触がぴたりとくっつく。


『初期設定は済んでますし、あれはもう必要ありません。分からないことがあれば僕が教えます。あんな紙切れより、僕のことは僕が一番分かってる』
「んー、まあ、そうだなぁ…」
『そんな事より』
「ん?」


 アンドロイドは少し頬を膨らませた。

 まるで怒ってるみたいな表情だ。感情を持たないアンドロイドが怒るなんて変な話だが、俺にぴったり寄り添うそいつは、すっと目を細めて言った。


『僕は“お前”じゃありません。“ナオ”です』
「あー…あははは、ごめんごめん」


  俺は頬を掻いて、苦笑いした。

 このアンドロイドの型番はVIL-701というらしい。

 耳の下辺りの首筋にそう刻まれてる。だから名付けろと言われたとき、適当に“VIL”をそのまま読んで、ヴィルと名付けた。昔ハマってたゲームに登場するキャラと同じ名前で、結構良い名前だと思ったんだが、速攻却下された。なんでも俺と同じ二文字で日本人っぽい名前が良いそうだ。我儘だな…と呆れながら、考えたのが“ナオ”だった。

 特に意味はない。昔ネットで仲良くなった子のハンドルネームを引用した。なんとなくその子とこのアンドロイドが重なって見えた。それだけだ。


「悪かったよ、ナオ。拗ねないでくれ」
『…そんな顔で言われたら許してしまいます』


 ぎゅっと抱き締められた。

 …ああ、ほんとに、最新のアンドロイド技術は凄い。本物の人間みたいだ。恋人型だからだろうか、妙にリアルというか…。今の会話だって、拗ねた彼女の機嫌をとってるみたいじゃないか。勿論、俺にはそんな経験はないが、ギャルゲーでこういうシーンをよく見た。


『ヒロ…暖かい』
「……」
『こんな日が来るなんて…夢のようです』


 ふと思った。そういえばこのアンドロイド、昨日よりやけに流暢に喋ってる気がする。

 俺が寝るまで熱心にテレビを見ていたから「テレビ好きなのか?」と聞けば、ナオは首を横に振り『ハツオン ヲ ガクシュウ  シテマス』と言っていた。まさか一晩でこんなに喋れるようになるとは…。声も人間っぽくなってるし…。昨今のAIはとんでもないな。


「うお。もうこんな時間か。ううう。今日の会議やだなぁ……」


 ナオの腕からするりと抜けて、立ち上がる。

 今日も社畜は通常運転だ。朝から会議、昼は内勤、夕方は外勤……。ああ。会議嫌だなぁ。詰められるんだろうなぁ。そういえば資料がまだ出来上がってないんだった。出社したら高速で作成しなくてはいけない。ああ、嫌だ。面倒臭い。って言っても、時間は待ってくれない。うだうだ考えてないで、さっさと出発しよう。早めに行けば、上司の機嫌が多少良くなるしな。

 ネクタイを結んで、髪を整える。


『ヒロ、どうぞ』
「ああ、ありがとう」


 ナオはスーツの上着を広げて着せてくれる。
なんだか本当に嫁を貰った気分だ。すると、ナオは『そうだ』と口から俺の携帯を出した。

  …いや、どっから出してんだよ…。


『ヒロの携帯に僕の分身を埋め込みました』
「……お、おう……?」


 携帯を受け取る。

 そのまま画面を見れば、画面の中にはナオを幼くしたような美少年がふよふよと浮いていた。画面に指を置くと、すりすりと甘えるように寄ってくる。頭を撫でるように指を動かせば、周りには大量のハートマークが飛び交った。

 …なんだこれ可愛い。

「これ……おま…じゃなくて、ナオ?」
『はい。僕の分身です。これでいつでもヒロと一緒です』


 ナオは小首を傾げ、ニコニコと微笑む。


『困ったときは僕に話しかけてください。ヒロの助けになります』
「困ったとき、かぁ。……具体的にどんな事をしてくれるんだ?パワハラ上司を懲らしめて欲しい、生意気な後輩を黙らせて欲しい、とか?あはは、なんて......」


 冗談半分で言った。するとナオは笑顔をおさめて、真っ直ぐと俺の瞳を捉える。

 その瞬間、


『ヒロが望むなら』


 ゾクっと背筋が凍り、


「い、いやいや。冗談だ。実行するな、よ…?」


 声が震えた。


『ヒロ、怯えないで。ヒロが冗談を言ってることは、ヒロの脈拍、汗の量、目の動きで知覚しています。安心して。ヒロが望むまで、あの男たちに何もしない』
「ああ…うん、なら、良かった」


 いや。良かったのか?俺が望むまでって……。望むなら何かするのかよ。なんか引っかかる言い方だな。
 てか、脈拍だとか汗の量で冗談だと分かるって、嘘発見器じゃねぇか。そういう性能まであるのか。若干慄きながら、鞄を手に持ち、玄関に向かった。後ろからぴったりと付いてくるナオは『ちなみに』と、俺の鞄に手を添えた。


「?」
『僕の分身はヒロの業務用パソコンにも接続した。簡単な雑務ならこなせる。資料作成に活用して』


 俺は目を見開いた。そんなことまでやってくれるのか。資料作りが苦手な俺には朗報だ。思わず「まじ!?」とナオの手を握った。


『!』
「へぇ~!すげぇ!便利だな!」


 そう言うと、ナオはキョトンと目を瞬かせ、動きを止める。いきなり手を握って驚かせてしまっただろうか。彼は、ぽおっと頬を桃色に染め、瞳を輝かせた。


『ヒロ、喜んでる?嬉しい?』
「超嬉しいよ。俺、無能だからそういう機能はめちゃくちゃ助かる。早速、今日使ってみるな。ありがとう」


 ナオは瞳をぱちぱちと瞬かせた。ルビーのような真っ赤な瞳が燃え上がるように点滅してる。

 昨日から思っていたが、アンドロイドの瞳ってこんなに赤かったか?広告とかホームページで見たアンドロイドは青い瞳をしていた気がしたが、俺の見間違いだろうか。


『嬉しい… ―“マーキング機能”がこんなに喜ばれるなんて』
「え?」


 玄関の扉が閉まるときだった。ナオはうっとりと呟く。


『いってらっしゃい、ヒロ。早く帰ってきてくださいね』
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