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二章
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しおりを挟む誰かの話し声で目が覚めた。
『“はい。なので―……というわけです。…その件の資料ならメールで送ると言いましたよね?…ええ。―……ええ。その他の資料も併せて送りますよ。もういいですか?”』
「………?」
『“ええ。わざわざお忙しいところご対応いただきありがとうございました”』
まだ夢を見てるのか。自分と似た声がすぐそこで聞こえる。
『“それでは失礼します。結城所長”』
…やっぱり俺の声、だよな……?
ゾッとした。耳に届いた声は、自分のものなのに自分じゃない。それはそうだ。今の俺は口を閉ざしていて、声を出してない。それなのに俺の声がすぐ傍で空気を揺らす。嫌味たらしい、棘のある言い方で。
訳が分からず目を開けて辺りを見渡した。しかし部屋は真っ暗だ。カーテンは締め切られていて、電気もついていない。分かるのは、自分がベッドの上にいることだけだ。どうやら俺は全裸のままシーツにくるまっていたようだ。体を起こせば、ひんやりとした空調が肌を撫でる。
『―ああ、ヒロ。起きた?』
ベッドから下りようと足を伸ばしたとき、砂糖をふんだんに絡めたような甘い声が耳に届く。腰をグッと掴まれて、その瞬間、パッと部屋の明かりがつく。
「あ、ああ……ナオ……」
驚いた。ナオはどこだろう、と思っていたが、想像よりも近くにいたようだ。
ナオはベッド縁に腰掛けていた。
俺の腰に手を回したナオは、俺を離すまいと、腕の力を強める。
『どうしたの?不安そうな顔だよ?』
「……い、いや―」
言い淀んだ。
ナオがいた位置から“自分と似た声が聞こえた”と言えば良い話だが、言ったところで何にもならないと思ったからだ。聞こえたから何?と言われるのが普通の反応だろう。
「―……なんでもない」
息を吐いて首を振る。起きたばかりで寝ぼけていただけかもしれない。
すると、ナオの唇は耳輪をなぞった。
『困った顔のヒロも好き』
「…っ」
密着するナオ。直に触れる衣服で思い出す。自分が一糸纏わぬ姿であること、…そして、ナオに口淫をされたということを。
『ヒロ好き…もう大好き…』
「あ、あの…ナオ……」
ナオの唇が、鎖骨に、胸に、臍に、降り注ぐ。そのたびに全身の血管が喜びに打ち震えるかのように、ドクドクと大きく脈打つ。でも何か物足りなかった。…違う。そこじゃない。触れて欲しいのはそこじゃない。もっと―……
息が荒くなってきたとき、ふいにナオは自らが纏う衣服に手をかける。
『ねえ、もっと愛し合おう?』
そう囁いたナオは、艶かしく脱ぎ去った衣服を床に落とす。ごくりと喉仏が上下した。露わになったナオの裸体は圧倒されるほど均整が取れていて、しなやかでありながら程良く厚みのある筋肉が白晳の肌に陰影を描く。
『―…時間ならたっぷりあるから』
ひたすらに愛を乞うナオは、そんな肉体を俺に押し付け、蜜のように甘い声を脳に注ぐ。顎を掬われ、迫り来る唇が自分のそれと重なったとき、理性が綻ぶ音を聞いた気がした。
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