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二章
21a
しおりを挟むふわりと漂う石鹸の香りから、自分がすでにシャワーを浴びたのだと分かった。意識を失ってる間、ナオが甲斐甲斐しく体を洗ってくれたのだろう。
「ん……」
『ヒロ…もっと欲しい?』
「………欲し、い…」
はしたなく舌を突き出す俺と、そんな俺を組み敷くナオ。ベッドの上で唇を重ね続けてどれくらい経ったんだろう。互いの舌の先端を押し付け、ぐにゅりと湾曲した表面を合わせて、くちゅくちゅと擦り合わせる。暫くそんなキスの繰り返しだ。
「はあ、んっ……」
『ヒロ…ヒロ…』
…こんな淫らなキスに抵抗を感じないなんて、俺はどうしてしまったんだ。俺が俺じゃないみたいだ。しかしそんな不安よりも欲求が勝る。今はただ、ナオの唇が欲しくて欲しくて堪らない。ナオの口から溢れる甘い液体が欲しい。もっと体の奥底にまで注いで欲しい。まだ足りない……もっと奥に……奥に―……
焦点の定まらない視界のなか、ナオの首に手を回して、引き寄せる。そうすれば歓喜のような高い声を上げたナオは、べったりと胸板を押し付けてきた。
『ヒロ…嬉しい。…もっと、もっともっと僕を求めて…』
「……もとめ、へ…っ…?」
『ふふ。少し飛んじゃってるね。僕とのキスが良すぎた?』
『可愛い…』と髪を撫でられた。熱っぽい肌にナオのひんやりとした肌が心地良い。
『僕のこと好き?』
「……ん」
熱い吐息を零しながら頷く。そうすれば、目元に影を落としたナオは夢心地に唇を吊り上げる。
『―…ああ。依存度を高めておいて正解だった。あのハイエナどもに無効化された反動で僕への欲求が増幅している。いっそこのまま快楽漬けにしようか…。この状態はあと数時間も持たないだろうから………』
「…?」
何を言ってるのか、乱れた呼吸のなかでは聞き返す気力がなかった。そんな事より、じわじわと身体を侵食する熱をおさめて欲しい。
「…ナオ……」
縋るように呼ぶ。そうすれば、鎖骨から首筋に沿うように舌を這わせていたナオはふわりと顔を上げた。
『ヒロ、どうされたいのか教えて?』
耳までのぼった唇はそんな優しい声を注ぐ。しかしその優しさが毒にも感じられた。理性を惑わす毒。そんな響きを孕ませている。至近距離で囁かれてしまえば、思考がどろどろに蕩けてしまう。
「…ここ……熱い…から……擦って…」
『ここ?…ああ、大変』
前から気付いていただろうに。視線を落としたナオはたった今気付いたようなわざとらしい口ぶりで言う。
『ヒロったら、また勃起しちゃったんだ?』
「ぅ、ううっ……」
羞恥で目に涙が溜まった。先程あんなに精を吐き出したというのにまだ足りないのか。そう言われている気分だった。
『ヒロ泣かないで。僕になら何度だって欲情していいんだよ』
「ぁぁっ……」
ナオの細くてしなやかな指が、勃ち上がった肉茎を撫でる。その刺激だけでも堪らなくて、目をぎゅっと閉じた。
『ここを擦るのも良いけど…もっと気持ち良いところを教えてあげる』
「…っ…ぇ…?」
目を開ける。両膝を立てるようにされたかと思えば、跪いたナオが両脚を割り開く。「何」と問う前に、じゅぷっ…と尻の窪みに異物感が走った。背筋がゾクッと震えて、恐る恐る視線を落とす。
「…っあ……」
口をぱくぱくさせた。
指だ。ナオの指が尻の孔に栓をしているのだ。
第一関節ほどで動きを止めたナオは、俺の様子を窺う。
『ここ。もう少し指を沈めると前立腺があるんだ。男の人はそこを突かれると気持ち良いんだよ』
「ぁ、ぁ……」
『この前はいきなり挿れようとしてごめんね…。怖がらせたいわけじゃないんだ。ヒロが嫌ならこの指を今すぐに抜くよ。―…でも何も言わないならこのまま指を沈める』
口をはくはく開閉させながら、みっともなく脚を開く。拒絶するなら今しかない。そう頭の中で叫ぶ俺がいる。しかし何故だ。ずぷずぷ…と沈み込む指を見つめることしかできない。
指が奥に突き進むたびに、腰がビクビクと痙攣する。それは拒絶からじゃない。早く…!早く…!俺が欲しいのはそこだ…!と全身が悦びに震えているんだ。
ハァハァと呼吸を乱す。体はすでに熱く蕩けていた。あまりにもゆっくりと沈む指がもどかしくて腰を動かしてしまう。
そうすれば、ナオはくすりと微笑んだ。
『嫌じゃないみたいだね』
その瞬間だ。ナオの中指がクイッと曲がり、ぐりゅッ!と肉壁の一点を押し潰した。
「――~ッ……!!」
同時に、電撃が脳髄を駆け抜ける。
まるで最初からそこが良いところだと把握してたかのように、ナオはその一点をトントンと指で弾く。
「ぁ、あ、あっ……!」
ナオの指先はヌメヌメとした液体で覆われている。それが肉壁に塗布されるたびに、体が疼いて仕方ない。
本来排泄をする器官だというのに、指を突っ込まれて悦ぶなんてどうかしてる。しかし快感のために用意されたようなその一点のせいで、そんな考えは打ち消されてしまう。淫らに喘ぐことしかできない。
『ヒロ、腰へこへこしてる。気持ちいい?ああ。そうだ。ヒロのお望み通り。おちんちんも擦ってあげなきゃね』
「ひ、ぃっ…んッ…」
『ふふ。ぷるぷる震えて可愛い…』
「ぁあッ―……」
目の前に星が瞬く。
親指でカリの部分を引っ掻かれ、茎をやわやわと揉み込まれる。先端からどぷりどぷりと噴き出す先走り汁を泡立たせるように、ナオの手が上下に動く。
孔を弄られるだけで女のような嬌声が漏れてしまうのに、肉茎まで擦り上げられてしまえば、声にならない叫びを上げてしまう。
そうすれば、ナオは陶酔したように息を零す。
『はぁ、ヒロ。すごいよ。僕の指を美味しそうに下のお口で咥えてるの。分かる?』
「…わ、わかんなっ……ぁ…ん」
『僕の指が気に入ったみたいだよ。抜こうとすると、ぎゅうっとしてくるんだ。指ちぎれちゃいそう…』
「そこぐりぐりッ…したら…ぁぁッ」
彫刻のような肉体美を存分に見せつけたまま俺の肉茎を扱くナオ。もう一方の手は器用にも俺の孔を弄んでいる。その指が次々に増やされ、やがて小指と親指以外の三本の指がずぷりと根本まで沈んだ。
「ぁっ…ぁあ」
『ヒロになら僕の指の何本でもあげる。この人差し指も、中指も、薬指も。全部ヒロのものだよ』
「ふ、んぅっ…ぅ……」
『僕をいっぱい咥えて気持ち良くなって?』
足の指でシーツを掴む。指一本の刺激で発狂していたのに、複数の指でぐりぐりと押し潰されて正気でいられるはずがなかった。ましてや、はち切れんばかりに血管を浮かばせ聳り立つ肉棒まで止めどなく扱かれてるのだ。
絶頂はすぐそこだった。
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