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6話 里

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「あそこが私の里です」

 城を出てから四日。
 男とバレないように女装して馬車に乗ったり宿に泊まったり、獣道のような所を通って帝都から脱出したりと、色々な苦労はあったけど、なんとか目的地には辿り着いたようだ。

 道中は誰に話を聞かれるか分からないから、アイリさんとの会話を控えていた。
 そして里があるという森の中に入ってからは、足場が悪いために歩くのに必死で、会話をする余裕なんて無かった。

 だから里がどんな所とかは全く聞けなかったから、物語に出てくるようなエルフの里を想像していたんだが、なんかイメージと違う。


「石造りの神殿のような建物だけが見えるけど、あの向こうに家が?」

「いえ、他に建物はありません。あれが私の里です」

「巨大な建物が一つだけ? 思ってたのとはだいぶ違うな」

「・・・どんなイメージだったのですか?」

「ん?」

 想像と違いすぎて思わず口に出てしまったが、俺のイメージは前世の記憶からなんだよな。
 でもそれは言えないから、そこは上手くボカシて。


「巨木が茂る森の中を歩いてきたから、巨木の中をくり貫いた家とか、木の上に建てた家に住んでるのかなって思ってた」

「ふふっ、すみません。そんな不思議な家じゃなくて」

「あっ、でも、俺のイメージとは違ったけど、あの神秘的で幻想的な建物は、エルフのイメージにピッタリだよ」

「神秘的で幻想的で、エルフにピッタリですか?」

「うん? そうだけど?」

「・・・・・・」

 あれ?
 どうして難しい顔をするんだ?
 何か変な事を言ったのか?
 全く、分からないんだが。

 しかしこの様子、明らかに俺は何かやらかしてる。

 まさかこの後、変な事を言われたから、里へ入れるのはやめておこうかしら・・・とかないよな?
 ここでサヨナラされたら、遭難して軽く死ねる。


「あの、エイジさん!」

「ひゃい!? 何ですか?」

「私の姿、どう思いますか?」

「え?」

「あの建物と同じように、神秘的で幻想的だと思いますか?」

 何、この質問?

 どうしてこんな事を訊くのか分からないが、ここは正直に。


「もちろん、そう思ってるけど」

「・・・・・・それじゃあ、あの・・・手を繋いでみても良いですか?」

 ?
 ??
 ???

 さっきからアイリさんは、一体何を言っているんだ?



 ◆◆◆



 女性と手を繋ぐなんて、幼稚園の時に保育士のお姉さんとした以来記憶にない。

 そんな俺が女性、それもエルフの女性であるアイリさんと手を繋ぐなんて、緊張してドキドキする。
 それにアイリさんが、どうしてそんな事をしたいのか分からない。

 だから少し躊躇したが、この状況で断るわけにもいかないから、意を決して手を繋いだんだが、手を繋ぐまで真剣だったアイリさんの目が、今度はパチクリしだした。


「アイリさん?」

「・・・」

「あの?」

「・・・あっ、すみません」

「これに何の意味が?」

「少し確認したかったのです」

「確認? 何の?」

「それは・・・建物の中を案内しながら話します。その方が分かりやすいと思いますから」

「俺は中に入って良いの?」

「え? もちろんですよ。それでは行きましょう、エイジさん」

「あー、はい」

 さっきまでのやり取りが一体何だったのか分からず、少しモヤモヤするが、中に入れば説明してくれるとアイリさんは言う。

 だから彼女に手を引かれながら、石畳の上を建物の中へと歩き始めた。
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