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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくの欲望塗れな偽善行動

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「……あ、レック? ……アレック!」

目に見えて狼狽える側妃様だが、どう探しても、アレック王子と思しき人物はいない。


「王子も来ていたのですか?」
「確かに、一緒にいたのに……どうしてっ!」

側妃様は唇を震わせて、王妃様からの問い掛けにちゃんと答える事も出来ないでいる。
その様子は少々大仰に過ぎるような気がするが、彼の表情や仕草を見る限り、わざと事件を起こして言い掛かりを付けようとしているんじゃなさそうだ。

ガーデンハウスの入り口までは一緒にいたはずのアレック王子が、何故か今はいない。という事で理解して良さそうかな。

「まさか、居なくなるなんて……。……っ! し、失礼させて貰うっ!」

焦った表情の側妃様は、ブリオを翻して踵を返す。
余りにも急で、慌ただしくて、ぼく以外の人達は呆気に取られたようだ。


だが、ぼくは。

「待ってください、側妃様。」

立ち上がり、足早に去ろうとする側妃様に追い付いた。
一体どうする気なのかと、周囲が固唾を呑む気配がする。

「……な、なぁに? 急いでるんだけど。」
「王子殿下のお姿が見えないんですよね?」

ぼくが確認すると、側妃様の『エロエロしい』な垂れ眉がぴくりと上がる。
普段がしどけなく下がった状態だから、こういう少しの変化も真新しくて悪くないね。

「これから探されるんでしょう? 宜しければ、ぼくもお手伝いします。」

ハッと息を呑む側妃様。
さっきまで吊り上がっていた瞳が揺れて、頼ろうかどうしようか迷っているようだ。

「あぁ、ぼくはアドル・カーネフォードと申します。正式なご挨拶はまた改めて……。今は、王子を見付け出す事を先にしましょう。」

すっかり手伝うという方向で話を進めるぼくに、側妃様は一度だけ頷いた。
そして、ほんの少しだけ、微笑ってくれた。
口元に弧を描くまでも行かないぐらいの、小さな笑み。

それを目にして、ぼくは、アレック王子を探す申し出をして良かったと思う。

ぼくがそんな事を言い出したのは、別に善なる親切心からじゃない。
単純に側妃様の外見が良かったからだ。
サトル的な美形の王妃様の息子が、同じように美形な王子様二人だから。
アドル的に良いと思える側妃様の息子も、きっと良いだろう。

アレック王子を探す手伝いをすれば、今ここに居ない彼の姿を見られるし、話し掛けたりする事も許されるだろうという、ぼくの計算だ。




   *   *   *   *   *   *




アレック王子を探して、ぼくは王城内の広い庭を歩いていた。
ぼくの隣には、案内と同行を提案してくれたアンドリュー王子……じゃなくて、アリアノール王子がいる。
そうするよう言い出したのはアンドリュー王子だ。

きっとぼく達が少しでも会話なり、何かしらの行動で打ち解けるように、計らってくれたんだろう。
弟王子から見ても、兄王子のぼくへの態度はぎこちないんだね。


「アレック王子は、何処に居るでしょうね……。」

口先だけ心配しながら、ぼくは探している素振りで周囲を見回した。


そう。この時点でぼくは、別にアレック王子の事を心配してはいなかった。
それは恐らく、アリアノール王子も同じだろう。


アレック王子は、ガーデンハウスの入り口までは一緒に居たというんだから。
はぐれたとは言え、ここは王城の敷地内。
さほど心配するような事もないだろうに、側妃様は心配性……あるいは過保護だな。
それともアレック王子は子供なんだろうか。
どちらにしても、よっぽど息子が可愛いのだろう。

もしアレック王子が、ガーデンハウスにいた何者かに悪意を以って攫われたんだとしたら。
そこまで大きな話になってしまえば、もうぼくの出る幕は無い。



「あの……。」

おずおずとアリアノール王子が口を開いた。

「アレック王子は……アレクセイ、です……。」

あーうん、アレックのちゃんとした名前はアレクセイ、ね。
もちろん知っているよ、王子の名前ぐらいは。
引き篭もり時代でもそれぐらいの事は学んでいる。

知っていてアレック王子と呼んでいたよ、側妃様がそう言っていたからね。


「うん、アレックは愛称だね。」
「……。あの、私の愛称、は……あ、アリー。……と、言います。」
「じゃあ、アリー王子。」
「あの……出来れば、呼び…捨て、で……。」

少し俯き加減で、ほんのりと頬を染めるアリアノール……いや、アリー王子……いやいや、アリー。

アレック王子が愛称呼びだから、自分も愛称で呼ばれたがるなんて……可愛いな。


「じゃあ、アリー。お互いにもう少し、距離を近くして話そうか。……二人でいる時だけ、でも。」

最後の一言は、ぼくの保険だ。
急にアリーと親し気な態度になっている所を、誰かに見られた所為で窮地に陥る。……という事にもなりかねないからな。


「……うんっ。」

ぼくの言葉に、アリーは嬉しそうに微笑んだ。よし、素直で良かった。
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