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プロローグ(後編)
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どうやら気絶しているだけのようだ。
それが確認できて、その青年、折窪 優弥はほっと胸を撫で下ろした。
攻撃力が高いのも考えものだ。
優弥は右手に持っている聖槍ファイスホーンをじっと見つめた。
しかし、この槍の力のお陰で生き残れているのだ。
要は自分の使い方次第。
自分の力の使い方を間違えるな。
仲間によく言われる言葉を思い出し、優弥は苦笑した。
仲間と言っても、この異世界、ヴァルデールに来て知り合ったのだから、付き合いとしてはまだ短いはずなのに。
やはり、元の世界でも暴力の世界に生きていた者の言葉は違う。
弱ければ生き残れない。
「まーた、怖い顔してるよ?」
つい今しがた、優弥のそばに駆け寄って来た少女に言われた。
少女と言っても、優弥よりも一つ下なのだが、整った顔立ち、長い黒髪がどうしても年上だと勘違いさせてしまう。
元の世界ではトップアイドルグループに所属していて、優弥よりも人生経験が豊かだから、というのもあるかもしれない。
「あの人の言うことをあんまり気にしないで。優弥君はすごく強いよ。あんなユニーク魔法が使えるんだから」
先程の戦いで、聖槍を出したり、相手の剣を消したりしたのが、優弥のユニーク魔法。
確かにとても便利な魔法だが、万能というわけではない。
「ケッ、あの程度のザコを瞬殺できないようじゃ、まだまだ弱い赤ちゃんのままだ」
そう答えのは、いつのまにか二人の後ろにいた男だった。
顔はイタリア系で、銀髪。その切れ目の奥から放たれる威圧感と高級そうなスーツをキッチリと着こなしている姿のおかげで、一目で堅気の人間ではないとわかる。実際、元の世界ではとあるマフィアの幹部だった。
その言葉に優弥は複雑な顔をするが、
「確かにこの世界では弱いかもしれない。しかし、あちらの世界では、殺さないということが、強いことでもあるのだぞ」
マフィア男の隣にいた男性に励まされた。
優弥よりも頭一つ大きいマフィア男よりも、更に頭一つ大きい男性だった。筋骨隆々なので更に大きく見える。しかし顔付きは優しそうで、皺が深く、年は相当重ねていそうである。
「儂からしたら、お前もまだまだ子供だよ」
そう言って、笑いながら隣にいるマフィア男の頭をわしわしと撫でる。
「だからそれやめろっつってんだろっ! 撃ち殺すぞクソジジイ!」
そのマフィア男の手に銀色の魔方陣が浮かび上がり、消えたと思ったらマフィア男の手にはこの異世界ヴァルデールにはない武器が握られていた。
銀の拳銃である。
それを突き付けられて、筋骨隆々の男は一層大きく笑いだした。
「そんな銃で撃ち殺せるもんなら撃ち殺してみろ」
がははははと豪快に笑いながら、さらにぐしゃぐしゃと頭を撫でていた。
「いつか絶対に撃ち殺してやる……!」
苦虫を噛み締めるようにマフィア男は頭を撫で続ける筋骨隆々の男を睨む。
その鋭い眼光と殺気だけで、一般人ならば撃ち殺されてしまうのではないかと思う程だった。
そんなやり取りを苦笑気味に眺めている優弥とアイドル。
どうやら、このパーティーではこの程度は日常茶飯事らしい。
その時、びゅうと強い風が吹いた。
舞っていた戦塵が強風に飲まれて飛ばされていき、辺りが見渡せるようになる。
いまだにそこかしこで戦闘は続いているが、遠くに今回の戦争の原因となった建物が見えた。
実物を見るまでは信じられなかったが、本当に、そこには“それ”があった。
「私、初めて本物見た……って言っていいのかな?」
アイドルが困惑気味に呟いた。
それに答えたのは、意外にもマフィア男だった。
「俺はニューヨークに取引をしに行った時に遠くから見たことがあるが、それとまったく同じように見えるな」
「儂は登ったこともあるぞ」
つまらなそうに答えるマフィア男とは逆に、豪快な笑い声と共に筋骨隆々の男も答えた。
しかし、“それ”を見つめる二人の眼差しは真剣そのものだった。
「まったく……」
槍を持っている右手に自然と力が込もる。
優弥もアイドルと同じで、“それ”の本物を見たことはなかったが、日本で小さいものを見たことがあった。
しかし、それとはまったく違う圧倒的な大きさに、本物だと思ってしまう。
そう、ここが異世界なのにも関わらず。
「これで異世界なんて、どうかしてるっ……!」
その建物、薄緑色の女神像に聞かせるかのように優弥は呟いた。
* *
優弥がこの異世界ヴァルデールの危機を救うために呼び出されたのは、その生い立ちから優弥が誰にでも優しいせいでも、夜に倒れていた怪しい動物を助けたせいでも、ましてその動物が優弥を無理矢理この世界に連れてきたせいでもない。
結局のところ、優弥が姉達に頼まれたきんつばを買い忘れたせいなのだ。
それが確認できて、その青年、折窪 優弥はほっと胸を撫で下ろした。
攻撃力が高いのも考えものだ。
優弥は右手に持っている聖槍ファイスホーンをじっと見つめた。
しかし、この槍の力のお陰で生き残れているのだ。
要は自分の使い方次第。
自分の力の使い方を間違えるな。
仲間によく言われる言葉を思い出し、優弥は苦笑した。
仲間と言っても、この異世界、ヴァルデールに来て知り合ったのだから、付き合いとしてはまだ短いはずなのに。
やはり、元の世界でも暴力の世界に生きていた者の言葉は違う。
弱ければ生き残れない。
「まーた、怖い顔してるよ?」
つい今しがた、優弥のそばに駆け寄って来た少女に言われた。
少女と言っても、優弥よりも一つ下なのだが、整った顔立ち、長い黒髪がどうしても年上だと勘違いさせてしまう。
元の世界ではトップアイドルグループに所属していて、優弥よりも人生経験が豊かだから、というのもあるかもしれない。
「あの人の言うことをあんまり気にしないで。優弥君はすごく強いよ。あんなユニーク魔法が使えるんだから」
先程の戦いで、聖槍を出したり、相手の剣を消したりしたのが、優弥のユニーク魔法。
確かにとても便利な魔法だが、万能というわけではない。
「ケッ、あの程度のザコを瞬殺できないようじゃ、まだまだ弱い赤ちゃんのままだ」
そう答えのは、いつのまにか二人の後ろにいた男だった。
顔はイタリア系で、銀髪。その切れ目の奥から放たれる威圧感と高級そうなスーツをキッチリと着こなしている姿のおかげで、一目で堅気の人間ではないとわかる。実際、元の世界ではとあるマフィアの幹部だった。
その言葉に優弥は複雑な顔をするが、
「確かにこの世界では弱いかもしれない。しかし、あちらの世界では、殺さないということが、強いことでもあるのだぞ」
マフィア男の隣にいた男性に励まされた。
優弥よりも頭一つ大きいマフィア男よりも、更に頭一つ大きい男性だった。筋骨隆々なので更に大きく見える。しかし顔付きは優しそうで、皺が深く、年は相当重ねていそうである。
「儂からしたら、お前もまだまだ子供だよ」
そう言って、笑いながら隣にいるマフィア男の頭をわしわしと撫でる。
「だからそれやめろっつってんだろっ! 撃ち殺すぞクソジジイ!」
そのマフィア男の手に銀色の魔方陣が浮かび上がり、消えたと思ったらマフィア男の手にはこの異世界ヴァルデールにはない武器が握られていた。
銀の拳銃である。
それを突き付けられて、筋骨隆々の男は一層大きく笑いだした。
「そんな銃で撃ち殺せるもんなら撃ち殺してみろ」
がははははと豪快に笑いながら、さらにぐしゃぐしゃと頭を撫でていた。
「いつか絶対に撃ち殺してやる……!」
苦虫を噛み締めるようにマフィア男は頭を撫で続ける筋骨隆々の男を睨む。
その鋭い眼光と殺気だけで、一般人ならば撃ち殺されてしまうのではないかと思う程だった。
そんなやり取りを苦笑気味に眺めている優弥とアイドル。
どうやら、このパーティーではこの程度は日常茶飯事らしい。
その時、びゅうと強い風が吹いた。
舞っていた戦塵が強風に飲まれて飛ばされていき、辺りが見渡せるようになる。
いまだにそこかしこで戦闘は続いているが、遠くに今回の戦争の原因となった建物が見えた。
実物を見るまでは信じられなかったが、本当に、そこには“それ”があった。
「私、初めて本物見た……って言っていいのかな?」
アイドルが困惑気味に呟いた。
それに答えたのは、意外にもマフィア男だった。
「俺はニューヨークに取引をしに行った時に遠くから見たことがあるが、それとまったく同じように見えるな」
「儂は登ったこともあるぞ」
つまらなそうに答えるマフィア男とは逆に、豪快な笑い声と共に筋骨隆々の男も答えた。
しかし、“それ”を見つめる二人の眼差しは真剣そのものだった。
「まったく……」
槍を持っている右手に自然と力が込もる。
優弥もアイドルと同じで、“それ”の本物を見たことはなかったが、日本で小さいものを見たことがあった。
しかし、それとはまったく違う圧倒的な大きさに、本物だと思ってしまう。
そう、ここが異世界なのにも関わらず。
「これで異世界なんて、どうかしてるっ……!」
その建物、薄緑色の女神像に聞かせるかのように優弥は呟いた。
* *
優弥がこの異世界ヴァルデールの危機を救うために呼び出されたのは、その生い立ちから優弥が誰にでも優しいせいでも、夜に倒れていた怪しい動物を助けたせいでも、ましてその動物が優弥を無理矢理この世界に連れてきたせいでもない。
結局のところ、優弥が姉達に頼まれたきんつばを買い忘れたせいなのだ。
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