これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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どうかしてるっ!

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 優弥は足がすくんで動けなかった。
 こんな見通しの良い草原だ。どこかに隠れてやり過ごすこともできない。
 そもそも、人と出会えたのだからその機会を逃すわけにもいかない、のだが。

 多くの松明を掲げ、圧倒的な存在感を放ちながらどんどんと近付いてくる軍隊。

 足音が聞こえてくる距離まで近付いて来た。
 自分の心臓の鼓動もどんどん大きくなっている。

 どうやら、先頭を歩いている重装備の鎧を着ている人物が自分に気付いたようだ。
 指を指して、後ろに向かって何かを叫んでいる。

「おーい!」

 優弥は思いっきり右手を降った。
 槍を持っていたので、ぶんぶんと小気味の良い音が鳴る。
 
 軍隊は警戒するように優弥の前までやって来て、止まった。
 何度か優弥に言葉を投げ掛けてきたが……

「~~~~~~~!」

 何を言っているのかまったくわからなかった。
 声が聞こえないわけではない。言語が理解できないのだ。
 
「ハロー! ボンジュール! ニーハオ!」

 全然理解は出来なかったが、こちらに警告をしているのは雰囲気でわかる。
 こちらは敵意がないということをわかってもらおうと、優弥はとにかく知っている世界の挨拶を言ってみる。

「ボンジョルノ! ブエナスタルデス! フーテミッターフ! ドブリジェン!」

 ちなみに、優弥は今挨拶した数ヵ国語をペラベラしゃべれるわけではない。
 英語の教科書の最後の方におまけで載っていたのを覚えていただけで、正直、フーテミッターフがどこの国かも覚えていない。

「ヨーナポット! ヘレテ! シャローム!」

「~~~~~~~~~~!」

 どうやらどれも通じてないようで、相手の警戒心がますます強まっていく。
 六人の兵士が横一列になって、じりじりとにじり寄ってくる。

 彼らは大きな盾を構えていた。
 ニュースや何かで見たことがる、まるで機動隊や警察が犯人や暴動者を取り押さえようとしているかのような大きな盾。
 元の世界だと半透明で相手が見えるようになっているが、今、優弥の目の前にある大盾は木で作られているようで相手を見透せない、簡素な作りになっている。
 しかし、六枚の大盾はまるで動く壁かのように思えた。

 優弥は降参しているという意思表示で手を挙げるが、右手には槍がしっかりと握られている。
 それがまずいのだが、優弥にはこんな経験はなく、そこに思い至らない。

「~~~~~!」

 後方から何かの指示が発せられたようで六枚の盾は見事な連携で優弥をぐるりと取り囲んだ。

 一定の距離を取り、なおも優弥に何か言葉を投げ掛けてくる。

「~~~~~!」

「~~~~~~~!」

「~~~~~!」

 しかし全然意味がわからない。
 盾の包囲網がじりじりと狭くなっていく。

 優弥は恐怖とパニックで失神しそうだった。
 自分はただ、きんつばを買い忘れていただけなのに。
 意識したわけではないのだが、左手で掲げているビニール袋がカサリと鳴った。
 ビックリして、適当に持っていたコートと学ランを落としてしまった。

 盾の兵士達もビクリと止まったが、何も起きないと知るとまたにじり寄ってくる。

「~~~~~!」

「~~~!」

「~~~~~~~~~!」

 とうとう一歩踏み込めば槍で突ける距離まで来た。
 無論、優弥はそんなことはしないし、そんなことをしようという考えにも至っていない。
 しかし、間合いに入ったということで相手の警戒心は痛い程伝わってくる。

 頭がどうにかなりそうだ。
 自分はただ、きんつばを買い忘れて、月が綺麗だから公園に寄って、あの子馬を助けようとしただけなのに。
 ただそれだけなのに、こんな状況に陥るだなんて。

「~~~!」

「~~~!」

「~~~~!」

 もはや怒号と言っても良い程の言葉をぶつけられる。
 意味はまったくわからないが、盾はあと一歩で優弥を取り押さえられるという距離まで来て止まった。

 あの時、子馬を助けようとしなければ。
 そんな不毛な考えが浮かんだ。
 自分の性格を考えたら、そんな選択肢などあり得ないのに。

 公園に寄らなければ。月を見上げなければ。きんつばを買い忘れなければ。
 こんなことにはならなかったのに。

 ただ、きんつばを買い忘れただけなのに、こんなことになるなんて。

 再びビニール袋がカサリと鳴った。
 盾を持っている兵士達が優弥を取り押さえようと、ぐっと足に力を込めた。

 本当に、きんつばのせいでだなんて笑い話にもならない。
 誰に聞かせるわけでもなく、独り言ちた。

「これで異世界なんて、どうかしてるっ……!」

 そして、優弥は両腕を失った。
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