これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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不可思議なことだらけ

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「うわっ、あああ!」

 優弥の悲痛な叫びが響く。
 優弥を取り囲んでいる兵士達は、何事かと盾から大きく顔を出して覗きこんできて、皆一様にぎょっとした。
 盾の向こう側がそのようなことになっているとは思いもしなかったようだ。

「あああああっ!」

 優弥の両腕は光の粒子となった。淡い光が辺りを照らす。

 ただ叫ぶことしかないできない優弥だが、ふと変な違和感に気付く。

(痛くない?)

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしているが、とりあえず叫ぶことはしなくなった。
 あまりの出来事でつい取り乱したが、痛くないという違和感に気付いたらまた新しいことに気付く。

 右手に持っていた槍と左手に持っていたきんつばが入っているビニール袋もなくなっていた。
 いや、どうやらその二つも優弥の両腕と同じように光の粒子になっていたようだった。

 槍は、先程子馬からから槍になる時に似たような現象が起きたが、きんつばはどういうことなのか。

(まさかこのきんつばがこの世界のものだった、だなんてことがあるわけ……いや、ないな)

 優弥は馬鹿馬鹿しいことを考えながらも、目の前の状況から目が離せなかった。

 光の粒子は最初は優弥の腕、槍、ビニール袋の形に留まっていたが、混ぜ合うように渦を巻き、再び優弥の腕を形成するかのように集まってきた。

 そして突如として光が収まると、そこにはしっかりと優弥の両腕があった。

 あっという間の出来事だった。時間にしたら五秒も経っていない。
 優弥には時間など気にする余裕などなかったが。

 優弥は自分の手を自分の手を見つめ、恐る恐る握る。
 何事もないのを確かめ、もう何度か開いて閉じてを繰り返す。

「何にも、なってない……?」

 痛みもなければ、何の違和感もない。
 ただ一度だけ光の粒子となって、また戻った。

 槍ときんつばはなくなったままだが。

 しばらく呆然としていたのは優弥だけではなく、優弥を取り囲んでいた盾の兵士達もだった。
 彼らにしても、今目の前で起きたことが何だったのか理解できないらしい。

「かかれっ!」

 しかし、後ろに構えていた本隊からそんな声が投げ掛けられると、全員がはっとして、優弥に飛び掛かった。

「やああああ!」

「覚悟しろっ!」

「今のは何だっ!」

 などと声を上げながら飛び掛かってくる盾達を、槍を失った優弥は成す術もなく受け入れるしかなかった。
 そもそも反撃をするなんて発想が沸かない。今起こったことで頭の中はいっぱいだ。
 しかも、またしても不可思議なことが起きている。

(言葉が、わかる……?)

 六枚の盾に押し倒され、地面に押さえつけられたまま、手を後ろに回されて縄で拘束されてしまう。
 抵抗する様子もなく拘束された優弥を見て安心したのか、盾が離れていく。

 すると目の間に足があった。人のではなく、馬のであるが。
 見上げると、見事な葦毛の馬に乗った一人の兵士がいた。
 一人だけ馬に乗っていることもあるが、少しだけ装飾が施された青色の鎧を着ていることも含め、きっとこの人がこの軍隊の隊長だろう。

 青鎧の兵士は馬に乗りながら優弥に声を掛けた。

「お前は何者だ?」

 その声は盾の兵士達に命令を出した声だった。
 やはりこの青鎧の兵士が隊長のようだ。

「自分は……」

 しかしその問いにどう答えれば良いのか、優弥は迷った。
 正直に答えるべきか、それともある程度の事情だけ話して異世界から来たのは黙っているべきか。
 突如として言葉が通じるようになったことに困惑しながらも、優弥は必死に答えを絞り出す。

「自分は、道端に倒れていた光る子馬に触れたら、急にこの草原に連れてこられたんです」

 自分のような異世界から来た人間がどのような扱いを受けるのかわからない以上、まだ話すべきではない。目の前の人物が信用できるのかもまだわからないのだし。
 そう考え、優弥は出来るだけ本当のことを話すことに決めた。

「光る子馬?」

「はい、しかもその子馬は自分をここに連れてきた途端に先程持っていた槍になりました。その槍も、ご覧になっていた通りに光となって消えてしまいました」

「ふむ」

 そこで隊長は思案顔になる。依然として警戒心が解かれるわけではないが、先程まで厳しい目付きではなく、優弥を見定めるように見ている。

「持っていた槍と袋がなくなったのはお前の魔法か」

「いえ、私は魔法の使い方がわかりませんので」

 魔法という言葉が当たり前のように出てきた。
 優弥もなるべく違和感なく言ったつもりだが、使い慣れていないので少し不安になる。

「しかし、先程何やら呪文を唱えていたようだが?」

 先程適当に叫んだ各国の挨拶のことらしい。
 確かに、意味がわからなければ呪文のように聞こえただろう。

「あれは、どの言葉が通じるのかわからなかったので、知っている国の挨拶を言っていただけです」

「では、どこの国の者なのだ?」

(また面倒な質問を……)

 優弥は頭をフル回転させて、答えを作り出す。
 嘘っぽく聞こえないように、出来るだけ本当のことを言って……。

「自分は村から出たことがなくて、地理などは詳しくわからないんですが、東の方にある島国だと聞いたことがあります」

 自分の国がよくわからないだなんて常識外れもいいとこだが、この世界での教養がどれくらいかわからないのでつい言ってしまった。これは賭けだ。

「なるほど。では、国の名はわかるか?」

「はい……」

 どうやらギリギリセーフのようだったが、また次の問題だ。
 今度はこの隊長の教養がどれくらいかに賭けるしかない。

「ニホン、という小さな島国です」

 優弥は恐る恐る口にした。
 隊長がこの世界の地理に詳しかったら、嘘だとばれてしまうだろう。

 しかし、隊長の反応は意外なものだった。

「ニホン、だと?」

 驚きながら、もう一度確認してくる。

「はい……」

 その反応がどういう意味かわからず、優弥は俯いてしまう。
 どうやらアウトだったのだろうか……。

 しばらくの沈黙の後、再び隊長が口火を切った。

「お前、アイナーだな?」

「アイナー?」

 思わず隊長に顔を向けてしまう。
 理解の出来ない言葉が出てきた。恐らくこの世界特有の言葉なのだろう。
 見ると隊長は優弥に驚きの眼差しを向けていた。

「異世界から来た者を指す言葉だ」

「は?」

 優弥の努力虚しく、すぐにばれてしまった。
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