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昇格の報酬
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「いやはや、たまげた」
起きながらエバスポが豪快に笑った。
「まさかこんなにあっさり負けるとは思わなかった」
負けたというのに楽しそうに笑っている。
エバスポは一等兵筆頭という肩書きを長年保っている。兵長になる実力もあるし、何度も打診されてもいる。しかしエバスポには昇格するつもりはまったくなかった。
自分は若手の育成を楽しみにしているのだと言って。若者が育てるのが楽しいし、その若者が自分を越えるのが楽しいのだと。
今こうして、若者が自分を越える瞬間を味わえるのが醍醐味だとすら思っているのだ。
「おめでとうございます、ユウヤ殿」
審判である隊長が労いの言葉を掛けてくれた。
「これでユウヤ殿は兵長となり、兵を連れて出兵することが出来ます」
そう、それこそが優弥がこの試験を受けた理由、受けなければいけない理由だった。
軍隊というのは厳格な規律の元に成り立つ縦社会である。少しでも自由に、自分のやりたいようにやるには地位がなければならない。
この軍もなかなかの厳しい規律で、今までいた等級兵では自由に任務を受けることはできないし、好きな場所に出兵することもできない。
しかし兵長になればある程度の制限はあるが好きな任務を受けられるし、好きな場所に出兵することもできる。しかも、兵を引き連れて。
この広大な世界の異変を調査するとなるとどうしたって人手がいる。優弥が一人で現地調査などでき得るはずもない。数人でも兵を引き連れて行ければ、かなり効率的になる。
そういった理由で優弥は兵長になることを勧められた。
「デルバー、これなら文句がないだろう?」
隊長は今の試合を鍛錬場の隅から見ていた人物に声を掛ける。
優弥の昇格に反対していたデルバー副隊長だ。
長身痩躯で切れ目の男性で、第三部隊の魔法部隊を指揮している。サーベルブラックジャガーを倒そうとして放った魔法『溶炎の投石』を唱えた五人の内の一人で、その中核を担っていた人物である。
サーベルブラックジャガーを討伐した直後は、「隊長を守ってくれてありがとう」と泣きそうになりながら感謝してくれて、王都への旅路の途中でも優弥を色々と気遣ってくれし、魔法の基礎など様々なことを教えてくれた。王都に辿り着き、王との謁見を終えた後、この第三部隊に所属するとなった時も歓迎してくれた。
だが、優弥がめきめきと頭角を現し、かつてない早さで等級を上げていくと、どんどんと邪険に扱われるようになっていった。
優弥には優弥の目的があったが、早くこの隊の一員として認められるように頑張っていたつもりなのだが、一体何がいけなかったのか。優弥には見当も付かなかった。
「まあ、いいでしょう。不馴れな得物とはいえ、エバスポをああも簡単に捩じ伏せるとは」
デルバー副隊長はつまらなそうに言った。
「確かにその通りだが、もし私が剣を持っていたとしても結果は同じだったろうな」
エバスポの笑い声が響く。
デルバー副隊長の言う通り、エバスポは普段から槍を使っているわけではなく、剣で戦う兵士である。クラスも隊長と同じ剣闘士だ。しかし一等兵筆頭ともあれば戦術によって武器を変えることも多々あるので、槍も多少の心得はあった。槍使いの優弥と戦うには剣では不利と考えて、今回は槍同士の戦いとなった。
優弥は戦闘にまだ慣れていないし、槍でも遅れをとることはないだろうと思っていたがステータスの差で負けてしまった。もう気持ちいいくらいにはっきりとした負けだった。
しかしそんなエバスポの態度も気に入らないのかデルバー副隊長はさらに不機嫌そうになる。
「デルバー、同じ隊の仲間にその態度は何だ」
ヴェルディス隊長がデルバーを副隊長を注意する。
自分にそんなことを言われるのが心外だったのか、デルバー副隊長は驚き、優弥を恨めしそうに睨んだ。
「悪かったな。昇格おめでとう。兵長としてこれからも第三部隊のために頑張ってくれ」
言葉自体は労いのものだが、態度はとてもそんな風には思えなかった。
「デルバー!」
ヴェルディス隊長が注意をしようとするが、デルバー副隊長は身を翻し、逃げるようにすたすたと去っていった。
本当に、なんでここまで嫌われてしまったのか。
優弥は本当に思い当たることがなく、苦笑して見送ることしかできなかった。
「ユウヤ殿、申し訳ない。デルバーには私からちゃんと言っておくので」
「いえ、気にしないでください」
昇格したとは言っても優弥は兵長で、立場的にはデルバー副隊長より下である。波風を立てたくはないし、関係をこれ以上悪化させたくはない。優弥が実績を積めばきっと認めてくれるだろうと、楽観的な考えをしていた。
こほん、とヴェルディス隊長が咳払いをした。
「では、改めて。ユウヤ殿、兵長昇格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ヴェルディス隊長はかしこまって話している。
普段は割りと親しく接してくれてはいるが、やはり隊長という立場がある。こういった折りには堅く話すのは当然なのだろう。
「昇格のお祝い、というわけではないですが、良い知らせがあります。ある意味、悪い知らせにもなりますが……」
真剣な表情に影が落ちる。
「王から頂いた情報です」
「はい」
優弥はごくりと喉を鳴らした。ヴェルディス隊長はとても話しにくそうだ。一体どんな情報なのだろうか。
鬼が出るか、蛇が出るか。あるいはその両方か。
「最近、四つの異変があったそうです」
起きながらエバスポが豪快に笑った。
「まさかこんなにあっさり負けるとは思わなかった」
負けたというのに楽しそうに笑っている。
エバスポは一等兵筆頭という肩書きを長年保っている。兵長になる実力もあるし、何度も打診されてもいる。しかしエバスポには昇格するつもりはまったくなかった。
自分は若手の育成を楽しみにしているのだと言って。若者が育てるのが楽しいし、その若者が自分を越えるのが楽しいのだと。
今こうして、若者が自分を越える瞬間を味わえるのが醍醐味だとすら思っているのだ。
「おめでとうございます、ユウヤ殿」
審判である隊長が労いの言葉を掛けてくれた。
「これでユウヤ殿は兵長となり、兵を連れて出兵することが出来ます」
そう、それこそが優弥がこの試験を受けた理由、受けなければいけない理由だった。
軍隊というのは厳格な規律の元に成り立つ縦社会である。少しでも自由に、自分のやりたいようにやるには地位がなければならない。
この軍もなかなかの厳しい規律で、今までいた等級兵では自由に任務を受けることはできないし、好きな場所に出兵することもできない。
しかし兵長になればある程度の制限はあるが好きな任務を受けられるし、好きな場所に出兵することもできる。しかも、兵を引き連れて。
この広大な世界の異変を調査するとなるとどうしたって人手がいる。優弥が一人で現地調査などでき得るはずもない。数人でも兵を引き連れて行ければ、かなり効率的になる。
そういった理由で優弥は兵長になることを勧められた。
「デルバー、これなら文句がないだろう?」
隊長は今の試合を鍛錬場の隅から見ていた人物に声を掛ける。
優弥の昇格に反対していたデルバー副隊長だ。
長身痩躯で切れ目の男性で、第三部隊の魔法部隊を指揮している。サーベルブラックジャガーを倒そうとして放った魔法『溶炎の投石』を唱えた五人の内の一人で、その中核を担っていた人物である。
サーベルブラックジャガーを討伐した直後は、「隊長を守ってくれてありがとう」と泣きそうになりながら感謝してくれて、王都への旅路の途中でも優弥を色々と気遣ってくれし、魔法の基礎など様々なことを教えてくれた。王都に辿り着き、王との謁見を終えた後、この第三部隊に所属するとなった時も歓迎してくれた。
だが、優弥がめきめきと頭角を現し、かつてない早さで等級を上げていくと、どんどんと邪険に扱われるようになっていった。
優弥には優弥の目的があったが、早くこの隊の一員として認められるように頑張っていたつもりなのだが、一体何がいけなかったのか。優弥には見当も付かなかった。
「まあ、いいでしょう。不馴れな得物とはいえ、エバスポをああも簡単に捩じ伏せるとは」
デルバー副隊長はつまらなそうに言った。
「確かにその通りだが、もし私が剣を持っていたとしても結果は同じだったろうな」
エバスポの笑い声が響く。
デルバー副隊長の言う通り、エバスポは普段から槍を使っているわけではなく、剣で戦う兵士である。クラスも隊長と同じ剣闘士だ。しかし一等兵筆頭ともあれば戦術によって武器を変えることも多々あるので、槍も多少の心得はあった。槍使いの優弥と戦うには剣では不利と考えて、今回は槍同士の戦いとなった。
優弥は戦闘にまだ慣れていないし、槍でも遅れをとることはないだろうと思っていたがステータスの差で負けてしまった。もう気持ちいいくらいにはっきりとした負けだった。
しかしそんなエバスポの態度も気に入らないのかデルバー副隊長はさらに不機嫌そうになる。
「デルバー、同じ隊の仲間にその態度は何だ」
ヴェルディス隊長がデルバーを副隊長を注意する。
自分にそんなことを言われるのが心外だったのか、デルバー副隊長は驚き、優弥を恨めしそうに睨んだ。
「悪かったな。昇格おめでとう。兵長としてこれからも第三部隊のために頑張ってくれ」
言葉自体は労いのものだが、態度はとてもそんな風には思えなかった。
「デルバー!」
ヴェルディス隊長が注意をしようとするが、デルバー副隊長は身を翻し、逃げるようにすたすたと去っていった。
本当に、なんでここまで嫌われてしまったのか。
優弥は本当に思い当たることがなく、苦笑して見送ることしかできなかった。
「ユウヤ殿、申し訳ない。デルバーには私からちゃんと言っておくので」
「いえ、気にしないでください」
昇格したとは言っても優弥は兵長で、立場的にはデルバー副隊長より下である。波風を立てたくはないし、関係をこれ以上悪化させたくはない。優弥が実績を積めばきっと認めてくれるだろうと、楽観的な考えをしていた。
こほん、とヴェルディス隊長が咳払いをした。
「では、改めて。ユウヤ殿、兵長昇格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ヴェルディス隊長はかしこまって話している。
普段は割りと親しく接してくれてはいるが、やはり隊長という立場がある。こういった折りには堅く話すのは当然なのだろう。
「昇格のお祝い、というわけではないですが、良い知らせがあります。ある意味、悪い知らせにもなりますが……」
真剣な表情に影が落ちる。
「王から頂いた情報です」
「はい」
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