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二ヶ月後。
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マクルスト王国軍第三部隊兵舎、その鍛錬場。
優弥はそこに立っていた。右手には訓練用の木製の槍。着込んでいるのは同じく訓練用の簡単な鎧。
その優弥と三メートル程の距離を置いて向かい合うように立つ男がいた。
第三部隊一等兵筆頭、エバスポという。
マクルスト王国軍の階級は一番下が三等兵、その上に二等兵、一等兵とあり、一等兵の上は兵長となる。第三部隊には八人の兵長がいて、その上に二人の副隊長、そしてその全てを指揮するのがヴェルディス・マクワーレン隊長だ。
一等兵筆頭、というのは一等兵の中で一番の実力者ということ。
それが今日の優弥の相手。
優弥と背丈は同じくらいだが、体つきは大分逞しい。筋骨粒々というわけではなく、無駄無く絞られている感じ。左目の上に大きな傷があるが、視力は問題ないらしい。
面倒見も良く、優弥も一等兵に成り立てのころは彼に多くのことを教わった。
「まさかこんなに早くこの日がやって来ようとはな」
エバスポは楽しそうににまりと笑った。
優弥はこれから昇格試験を受ける。これは異例の早さだった。通常、三等兵から二等兵に上がるのでも半年はかかる。しかし優弥は既に一等兵で、これからその上、兵長になるため試験を受ける。
優弥が王都マクルストにやって来てから二ヶ月が経った。王都に来た目的の司祭がいなかったからだ。
その間、優弥は様々な経験をした。他の兵に混じって訓練をしたり、第三部隊の任務に同行して魔物と戦ったり、同化魔法を試してみたり、この世界の常識などを学んだりしていた。
新しいことだらけのこの世界で、二ヶ月はあっという間に過ぎていった。
レベルは26まで上がり、槍術士のランクもBになっている。
試している間に何度も使っていたからか同化魔法のランクもDになり、さらに使い勝手が良くなった。
どのくらい良くなったかというと。
「試験では魔法の使用は一切禁止だが、よろしいかな?」
エバスポがたずねてきて、優弥は勿論と首肯する。
本来、昇格試験にそのような決まりはない。魔法も個人の実力の内、戦術として成立するなら積極的に使用すべきである。
しかし優弥の同化魔法に限ってはその限りにはならない。あまりにも汎用性が高いため、使用したら試験が一瞬で終わってしまう可能性もある。
それ程のユニーク魔法を持つ者が第三部隊にはいなかったので対応に困ったのだが、結局は使用禁止ということになった。
それでも、優弥のステータスならまず間違いなく負けるなんてことはあり得ないのだが。
優弥とエバスポが槍を構えた。二人とも左前半身構えである。
審判を務めるヴェルディス隊長の声が響く。
「始めっ!」
合図と同時にエバスポが槍を突き出して優弥に襲い掛かる。優弥はそれを迎え撃とう、槍を軽く前に突き出した。
二人の槍先がぶつかりそうな瞬間、エバスポは一瞬にして優弥の左に回り込んだ。左前半身構えだと、死角になる方である。
優弥に向かって行く速度よりも回り込む速度の方が圧倒的に早かったため、目の前で一瞬にして消えたかのようにも見えただろう。
しかし、優弥のステータス的に優弥の回避率の方が高かった為、優弥の目で捉えきれていた。優弥は身体を回し、エバスポを身体の正面で捉える。
完全に捉えられていたというのにエバスポは微塵も動揺せず、優弥の体勢が整う前に槍を叩き込もうと突きを繰り出す。しかし優弥はそれを簡単にいなす。
エバスポは突きを繰り返し、優弥がそれをいなし続ける。
何合か突き続けていると変化が現れた。攻撃しているはずのエバスポの方が押され始めたのだ。
これはさすがのエバスポも動揺した。攻撃力の差が出たのだが、攻撃している側のエバスポが押されるとは思わなかった。
(強いとは思っていたが、まさかここまでとは……!)
このまま押されていてまずいと思いって大きな賭けに出る。柄先を地面に叩きつけて大きく跳躍した。
優弥の背丈よりも大きく飛び上がったエバスポは槍を精一杯伸ばして突き下ろす。エバスポの体重や重力の力も加わり、かなり重くなった突きが優弥を襲う。
しかし優弥は慌ててはいなかった。自分の回避率なら躱せるとわかっていたからだ。そしてそのままカウンターを叩き込めば、それで優弥の勝ちとなる。
だが、優弥の行動は違った。迎え撃つかのように槍を突き出す。
これはエバスポも訝しむ。優弥は自分の渾身の突きを避けて、カウンターを叩き込もうとするだろうと読んでいたからだ。懐に入っての反射神経の勝負、武器捌きの速度の勝負に持ち込もうとしていたのだ。攻撃力では負けていても、武器の扱いに関してはエバスポの方に一日の長、どころか百日の長はあるだろうと思っていたから。
しかし優弥は自分を迎え撃とうとしている。しかも自分は優弥に向かって落下しているのだ。これが実戦ならまだしも、訓練となると二人とも大怪我をする可能性があるので褒められた手ではない。
(そこまではまだ考えられないか)
確かに優弥はこの二ヶ月でめきめきと腕を上げた。こうしてエバスポの試験を受ける程に。しかし、経験に関してはまだまだ浅かったか。
と観戦している誰もが思っていた時、優弥は腕に力を込めてエバスポの持っていた槍の柄を突いた。
柄はあっさりと突き破れ、槍は真っ二つに折れてしまった。
「なっ!」
両手でしっかりと持っていたのが仇となり、エバスポは空中でバランスを崩してしまう。
優弥は落ちてくるエバスポを柄で受け止め、力に逆らわずに地面に叩きつけ、捩じ伏せる。
「勝負あり!」
ヴェルディス隊長の声が響く。
第三部隊に九人目の兵長が誕生した瞬間だった。
優弥はそこに立っていた。右手には訓練用の木製の槍。着込んでいるのは同じく訓練用の簡単な鎧。
その優弥と三メートル程の距離を置いて向かい合うように立つ男がいた。
第三部隊一等兵筆頭、エバスポという。
マクルスト王国軍の階級は一番下が三等兵、その上に二等兵、一等兵とあり、一等兵の上は兵長となる。第三部隊には八人の兵長がいて、その上に二人の副隊長、そしてその全てを指揮するのがヴェルディス・マクワーレン隊長だ。
一等兵筆頭、というのは一等兵の中で一番の実力者ということ。
それが今日の優弥の相手。
優弥と背丈は同じくらいだが、体つきは大分逞しい。筋骨粒々というわけではなく、無駄無く絞られている感じ。左目の上に大きな傷があるが、視力は問題ないらしい。
面倒見も良く、優弥も一等兵に成り立てのころは彼に多くのことを教わった。
「まさかこんなに早くこの日がやって来ようとはな」
エバスポは楽しそうににまりと笑った。
優弥はこれから昇格試験を受ける。これは異例の早さだった。通常、三等兵から二等兵に上がるのでも半年はかかる。しかし優弥は既に一等兵で、これからその上、兵長になるため試験を受ける。
優弥が王都マクルストにやって来てから二ヶ月が経った。王都に来た目的の司祭がいなかったからだ。
その間、優弥は様々な経験をした。他の兵に混じって訓練をしたり、第三部隊の任務に同行して魔物と戦ったり、同化魔法を試してみたり、この世界の常識などを学んだりしていた。
新しいことだらけのこの世界で、二ヶ月はあっという間に過ぎていった。
レベルは26まで上がり、槍術士のランクもBになっている。
試している間に何度も使っていたからか同化魔法のランクもDになり、さらに使い勝手が良くなった。
どのくらい良くなったかというと。
「試験では魔法の使用は一切禁止だが、よろしいかな?」
エバスポがたずねてきて、優弥は勿論と首肯する。
本来、昇格試験にそのような決まりはない。魔法も個人の実力の内、戦術として成立するなら積極的に使用すべきである。
しかし優弥の同化魔法に限ってはその限りにはならない。あまりにも汎用性が高いため、使用したら試験が一瞬で終わってしまう可能性もある。
それ程のユニーク魔法を持つ者が第三部隊にはいなかったので対応に困ったのだが、結局は使用禁止ということになった。
それでも、優弥のステータスならまず間違いなく負けるなんてことはあり得ないのだが。
優弥とエバスポが槍を構えた。二人とも左前半身構えである。
審判を務めるヴェルディス隊長の声が響く。
「始めっ!」
合図と同時にエバスポが槍を突き出して優弥に襲い掛かる。優弥はそれを迎え撃とう、槍を軽く前に突き出した。
二人の槍先がぶつかりそうな瞬間、エバスポは一瞬にして優弥の左に回り込んだ。左前半身構えだと、死角になる方である。
優弥に向かって行く速度よりも回り込む速度の方が圧倒的に早かったため、目の前で一瞬にして消えたかのようにも見えただろう。
しかし、優弥のステータス的に優弥の回避率の方が高かった為、優弥の目で捉えきれていた。優弥は身体を回し、エバスポを身体の正面で捉える。
完全に捉えられていたというのにエバスポは微塵も動揺せず、優弥の体勢が整う前に槍を叩き込もうと突きを繰り出す。しかし優弥はそれを簡単にいなす。
エバスポは突きを繰り返し、優弥がそれをいなし続ける。
何合か突き続けていると変化が現れた。攻撃しているはずのエバスポの方が押され始めたのだ。
これはさすがのエバスポも動揺した。攻撃力の差が出たのだが、攻撃している側のエバスポが押されるとは思わなかった。
(強いとは思っていたが、まさかここまでとは……!)
このまま押されていてまずいと思いって大きな賭けに出る。柄先を地面に叩きつけて大きく跳躍した。
優弥の背丈よりも大きく飛び上がったエバスポは槍を精一杯伸ばして突き下ろす。エバスポの体重や重力の力も加わり、かなり重くなった突きが優弥を襲う。
しかし優弥は慌ててはいなかった。自分の回避率なら躱せるとわかっていたからだ。そしてそのままカウンターを叩き込めば、それで優弥の勝ちとなる。
だが、優弥の行動は違った。迎え撃つかのように槍を突き出す。
これはエバスポも訝しむ。優弥は自分の渾身の突きを避けて、カウンターを叩き込もうとするだろうと読んでいたからだ。懐に入っての反射神経の勝負、武器捌きの速度の勝負に持ち込もうとしていたのだ。攻撃力では負けていても、武器の扱いに関してはエバスポの方に一日の長、どころか百日の長はあるだろうと思っていたから。
しかし優弥は自分を迎え撃とうとしている。しかも自分は優弥に向かって落下しているのだ。これが実戦ならまだしも、訓練となると二人とも大怪我をする可能性があるので褒められた手ではない。
(そこまではまだ考えられないか)
確かに優弥はこの二ヶ月でめきめきと腕を上げた。こうしてエバスポの試験を受ける程に。しかし、経験に関してはまだまだ浅かったか。
と観戦している誰もが思っていた時、優弥は腕に力を込めてエバスポの持っていた槍の柄を突いた。
柄はあっさりと突き破れ、槍は真っ二つに折れてしまった。
「なっ!」
両手でしっかりと持っていたのが仇となり、エバスポは空中でバランスを崩してしまう。
優弥は落ちてくるエバスポを柄で受け止め、力に逆らわずに地面に叩きつけ、捩じ伏せる。
「勝負あり!」
ヴェルディス隊長の声が響く。
第三部隊に九人目の兵長が誕生した瞬間だった。
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