これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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戦いの後に

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「~~~~~~~~~!」

 すぐさま隊長が駆け寄ってくる。その顔は驚きと喜びに溢れていた。
 しかし何を言っているのかわからず、優弥は曖昧な笑顔を返すことしか出来なかった。

 サーベルブラックジャガーに突き刺さった槍を貫きながら考える。

(なんで今度はきんつばまで出てきたんだろう)

 とりあえず、何かと声を掛けてくる隊長に不審がられないように会話をしなければ。

「槍、同化」

 そこで気付いた。
 槍と右手は光の粒子となったが、今度は左手ときんつばはなっていない。

 最初に槍を出した時は、「槍、同化解除」と指定をした。
 サーベルブラックジャガーに止めを刺す時は「同化解除」と指定をしなかった。
 そして最初に言ったのは「同化」と言っただけで、今は「槍、同化」と指定をした。

 つまり、指定をした場合はそれを同化・解除でき、指定をしなかった場合は持っているもの全てを同化・解除できるわけだ。

 これで一つ謎が解明したが、まだまだわからないことだらけだ。

「ユウヤ殿、大丈夫ですか?」

 隊長が心配そうに声を掛けてくる。

「はい、大丈夫です。問題ありません」

 優弥はぎこちない笑顔で答えた。

「ちょっと気が抜けたというか、震えが止まらなくて」

 これは本当のことだった。
 自分の命が危険だったとはいえ、優弥は初めて自分の意思で生き物を殺した。
 踏ん張ってないと今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

「それはそうでしょう、相手が相手でしたので……」

 隊長は優弥を近くにあったテントに招き入れた。

「ここで休んでいてください。私は負傷者の確認をしてきますので」

 そう言って隊長はすぐに出ていってしまう。

 テントの中央に黄色に光る魔方陣がありその上に光る石が浮かんでいた。どうやらこれが照明の役割を果たしているらしい。
 テントの中は驚くほど広かった。外から見たらただの一人用のテントだったが、中は八畳ぐらいの広さがあった。一人用のベッド、簡易的なテーブルに椅子が二つあり、天幕には地図と何かの紋章が飾られている。地面は外と同じ地面だが、ここで生活ができるくらいだ。物が置いてない分、自宅の優弥の部屋より広く感じる。
 それに防音効果も高いようで、外の喧騒が遠くに感じられる。負傷者の確認など、怒号が飛び交っているであろうに、自分は蚊帳の外にいるように思えた。

 そんな静かな空間で、優弥は椅子に座って震えていた。
 この世界に来て初めて落ち着ける場所に着いて、自分の境遇を考えて、一人震えていた。

 急に知らない世界に放り出され、いきなり自分よりも大きな化け物と戦わさせられたのだ。
 一歩間違えていたら牙は優弥を貫き、地面に横たわっていたのは自分かも知れない。

 震えはだんだんと大きくなり、椅子もガタガタと音を立てる程となった。
 優弥はぎゅっと目を瞑る。

 すると、浮かんできたのはまた幼馴染みの横顔。
 蒸し暑い武道場の中で、一心不乱に薙刀を振るう姿。

 そういえば、一度聞いてみたことがある。
 どうしてそこまで頑張れるのかと。
 すると、不機嫌そうにだが答えてくれた。

「目的があるからよ。達成したい目標。それを達成したら、勇気が湧くんじゃないかと思って」

 全国大会まで駒を進めた人間が何を言ってるんだろうと思った。

「あんたは本当に愚鈍なやつね」

 彼女は苦々しく優弥を睨んで、また素振りを再開した。邪念を振り払うかのように激しく振り回していた。
 それがなんだ可笑しくて、優弥は頬を緩ませながらその姿をずっと見ていた。

 優弥が再び目を開けると、いつの間にか震えは止まっていた。

「目的、達成したい目標、か……」

 優弥は自分の右手を見つめた。
 
 とりあえず、王都とやらに行って異界人アイナーのことを調べる。元の世界に帰る方法も。

「姉さん達、きっと心配してしてるだろうな」

 あと、幼馴染みも。

「ほんと、由奈ゆなには頭が上がらないなあ」

 優弥は苦笑する。
 小さい頃からずっそそばにいてくれて、いつも大切なことを教えてくれる。世界を隔てた今でも、優弥を支えてくれる。

(帰ったら、ちゃんとありがとうって言おう)

 そのためにはまず、王都に行かなければ。

 優弥はぎゅっと力強く手を握った。
 当面の目標が出来た。これで歩き出せる。
 優弥はやる気に満ち溢れていた。

 そのやる気に呼応するかのように、外から隊長の声が聞こえた。

「ユウヤ殿、よろしいですか?」

「はい、どうぞ」

 と答えてみたものの、このテントは別に優弥の部屋などではなく、むしろこの部隊の物なのだから断りを入れる必要はないのでは、と不思議がる。

 隊長はテントに入って来て、テーブルを挟んで向かいに座る。

「すみません、お待たせしてしまって。思ったより重傷者が多くて……」

「あの、大丈夫でしょうか?」

 サーベルブラックジャガーの攻撃力は脅威だった。一体どれくらいの被害が出たのか、こういう経験のない優弥には想像もつかない。

「ええ、幸いなことに死者は出なかったのですが、出来るだけ早く本格的な治療をしなければいけない程の重傷者が数名。それ以外でも重傷者は多く、負傷者はこの部隊のほぼ全てと言ってもいいくらいです」

「そうですか……」

 確かに死者は出なかったの良かったが、被害は甚大のようだ。
 もし、もっと早く優弥が自分の力に気付いていたら、結果は違ったのかもしれない。

「そんな顔をしないでください。ユウヤ殿がいなかったら被害はもっと深刻で、全滅ということだって大いにありえたのです。ユウヤ殿には感謝してもしきれません」

 暗い顔の優弥を見て、隊長がフォローを入れてくる。
 確かにそれはそうかも知れないが、優弥の気分は晴れない。

 隊長は苦笑しながら続ける。

「それで先程も申し上げた通り、出来るだけ早く治療を受けさせなければならない者が何人かいるので、準備が整い次第、王都に戻ります。それでよろしいですか?」

「はい、勿論です」

 急展開だが、願ったり叶ったりだ。こちらは連れて行ってもらう立場なのだし、文句があるはずもない。

「では、この眼鏡でご自分のステータスを確認してください」

 なんか急に聞き慣れた言葉が出てきた。
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