これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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斯くして聖女は歌い出す

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 小屋の中はお昼も悲惨だけど、夜も悲惨なの。
 痛みや暗闇への恐怖で呻き声や叫び声が大きく響くの。それも、大人のよ?
 びっくりして、皆起きちゃうの。そんなことが一晩中ずーっと。
 だから夜はなかなか寝付けなくて、寝不足で朝を迎えるんだけど、お昼はお昼でお医者さんらしき人たちが来て、怪我人の手当てをしてバタバタしてるの。麻酔なんかないみたいで、治療を受けてる人の叫び声が聞こえてきて、とてもじゃないけど寝られない。そんな日々が続いてた。
 おかげでずっと寝不足よ。寝不足とストレスの悪循環だった。私だけじゃなくて、小屋にいる人達、全員がそうだったと思う。

 だから本当に驚いたわ。
 皆が皆、ぐっすりと寝てるんだから。そんな光景、初めて見たわ。
 私の歌がこの光景を作り出してる要因の一つになっているのかと思うと嬉しかった。
 だから、皆寝てて聴いている人が一人もいなかったけど、最後まで歌い続けた。

 歌い終わると、安心感と満足感からか疲れがどっと襲ってきて、静かな小屋の中で私も意識を手放した。

 翌朝、起きると更に驚くべき光景が待っていたわ。
 子供達は皆元気にはしゃぎ回ってるし、怪我人も怪我が治ってるの。昨日までは自力で立てなかった人もぴんぴんしてたわ。

 驚きというよりも、おかしな状況に私は困惑してた。
 でも皆は喜んでる。喜んで、泣きながら私のところに来るの。
 私の手を握ったり、頭を下げたり、手を組んでまるで崇めているような人までいた。

 その様子を私はただただ見ていることしかできなかった。
 何を言ってるのかわからなかったし、喜んでくれてるならまあいいかな、程度にしか考えてなかった。
 その日の内に小屋から出ていった人が何人もいた。

 そして翌日、また多くの怪我人がやって来て私は唖然とした。
 小屋の中が平和だったのは、たった一日だけだった。
 また地獄のような、色んな叫び声が響き渡る喧騒とした景色に戻った。阿鼻叫喚ってこのことなんだなってばからしいことを頭のどこかで考えてた。

 私は耐えられなくなりそうになって、小屋を飛び出そうとしたの。
 でもその時、私を小屋に連れてきたおじいさんがやって来た。
 そして身振り手振りで何かを懇願してるみたいだった。

 すぐにわかったわ。
 また歌ってほしいんだって。

 私は怖かった。
 あの奇跡のような出来事は本当に私が起こしたことなのか、自信がなかった。
 もっと何か別の要因だったら?
 私が歌っても同じことが起きなかったら?

 怖くて、声が全然出なかった。
 でも、おじいさんは私を見ていた。他の人も私に注目していた。
 私はゆっくりと首を絞められていく感じがした。

 どのくらいそうしていたのかわからなかった。たぶん、結構時間が経ったと思う。
 不意に私の手に温かい何かが触れた。
 見てみると子供達が私の手を握ってた。

 元気になった子供は、他の人と一緒に小屋から出ていった子もいれば、小屋に残っている子もいた。おそらく、行く宛のない子供達。
 そんな子供達が私の手を握って、何かを言ってるの。
 何を言ってるのか全然わからなかったけど、温もりだけは伝わってきた。

 私は世間に思われてる程しっかりしてないし、何でもできるわけじゃない。
 いつも不安で、それを必死に隠してるだけ。後輩も増えてきたし、副リーダーだからそういうキャラ付けになっちゃってるだけ。

 いつも不安で、レッスンと自主練の繰り返し。
 そうやってどんどん窮屈になっていくの。段々と何のために頑張ってるのかわからなくなっていって……。
 そんな時、いつも香澄が声を掛けてくれた。
 大丈夫って。円香なら大丈夫だって。

 最初はそんな根拠のない慰めなんていらないって思うんだけど、香澄がそう言うとなんだか本当に大丈夫なんだって思えてきちゃうの。
 なんだか心の奥の方が温かくなってきて、急に不安がなくなるの。
 私と違って、香澄は本当にアイドルなんだなって思う。こんなにも、誰かを勇気付けられるんだから。

 それで私はますますレッスンに励むようになる。
 香澄に負けないように、隣で競い合えるように。
 
 子供達の手は、香澄の言葉のみたいに温かかった。

 そして私は歌い出した。
 子供達の手を握ってれば、ちゃんと声も出た。

 でも曲は変えた。その時の気分では『忘れられない子守歌』は歌えなかったから、私達の代表曲の一つ、『チアーズ・ライン』。知ってる?
 まあそうよね、紅白にも出たし、キー局の世界バレーの応援歌としても使われてたし。
 頑張ってる人たちに送る、日々の疲れを吹き飛ばすような、これでもかってくらいのアイドルソング。

 結果は見事、再び奇跡を起こすことができた。
 しかも、今度は誰も寝なかった。誰も眠らずに、傷を癒すことができたの。

 その次の日も怪我人はやって来たわ。その次の日も、そのまた次の日も。再び怪我を負ってやって来た人もいた。
 私は何度も歌った。子供達の手を握って。
 意味はわからないのに、子供達も一緒に歌ってくれたのは本当に嬉しかった。
 小屋の中には明るい歌声が響き渡っていた。

 そんな日が何日か続いた。
 すると、段々と怪我人が少なくなっていってることに気付いたの。
 どんどんとやって来る怪我人は少なくなっていて、小屋には私と子供達しかいなかったある日。
 一人の怪我人を連れて、兵士がやって来た。
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