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その姿、彼女か彼か?

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 戦の用意は着々と進んでいる。忙しない空気が後宮まで届いてくる。

「お嬢様……」

「何かしら?」

「お嬢様………陛下の許可は得たと言えども……」

「アナベル、ウィルバートは私の姿が見えたほうが安心だって言っていたでしょう?」

「いえいえいえいえ!あれは言葉のアヤってやつでしょう!?意味が違いますっ!」

 私はズボンを履いて、頭は短い黒髪のカツラをかぶる。足元は戦闘用のブーツ。腰には細剣を帯剣。どこからどうみても、少年である。王妃様にはみえない。

「ふっ……変装も天才的な私ね!」

「考え直してくださーいっ!」

 金の髪のかつらを被り、ドレスを着ているアナベルが涙声で言う。  

「アナベル、私の影武者をするための、アドバイスしておくわ」

「は、はい?」

「できる限り、怠惰に過ごすのよっ!」

「お嬢様ーーーっ!」

 アナベルの声が情けない感じで響いたのだった。

「国を……ウィルバートを守りに行ってくるわ。怠惰な王妃様を頼むわよ!」

 そう。私はいつもどおり、部屋から出ないでゴロゴロ怠惰に過ごしていればいいのよ。

 ウィルバートがセオドアと待っていた。一頭の馬をくれる。ウィルバードは複雑な顔をしている。周囲が、その少年は?と尋ねる。

「オレの小姓だ。気にするな」

「小姓!?珍しいですね。毎回、幼い者を連れて行くのは危ないから、護衛や雑用係などいらないと、遠征の時に言っていたのに?」

 まぁ……優しい王さまじゃないの。私はうんうんと隣で頷く。セオドアはハァ……と重いため息をなぜか後ろで吐いている。

「三騎士がいれば、小姓なんていらないでしょう」

「足手まといにしか、なりませんよ!」

「そんな軟弱そうな子供……」

 私はバチッと手の中で雷撃を弾かせる。

「や、やめろー!このリア……ムを煽るなっ!」

 ウィルバードの制止の声は間に合わず、ドンッという爆音とともに近くの木が真っ二つになった。シーーーンと静まる。ウィルバートが額に手をやる。

「リアンは魔法も天才的なんだけどやることが派手でさ……」

「陛下、と呼ばないと……」

 ヒソヒソとウィルバートとセオドアが話している。

「魔道士なのか!?」

「なっ、なんだ今の一撃は!?」

 驚く皆に私はにやりと笑う。

 ああ……すごく久しぶり。魔法を使う、この感覚良いわ!

と言う。全力で陛下をお守りし、役に立ちたいと思っているので、よろしく頼む」

 偉そうなガキだなーーっ!と三騎士の一番若そうな子が言う。自分もガキじゃないのと私は冷たい目で一瞥する。

 ウィルバートが私を見て、確認する。頬には一筋の汗。連れて行きたくはないと顔に書いてある。

「あまり戦は見せたくないんだが、仕方ないのか?これ?」

「今回の戦略、話したでしょう?私、抜きでは成り立たない」

「そうなれば、全力で戦うさ……城にいて……」

 くどいっ!と私にぴしゃりと言われる。ヒョイッと馬に乗る私。行くわよと声をかけると、諦めたようにウィルバートは1度、下を向いて、そして顔を上げた。そこには強い眼差しで前を見据える王がいた。

「ついて来るなら、足手まといになるなよ!………全軍!我らが国を!愛すべき民を人を守る!勝ってこの場に、再び全員で立つ!行くぞ!」

 オーーッ!と王城の門で、威勢のよい掛け声が響いたのだった。

 ウィルバートは私の策を起用する。しかし今回の策は大規模で簡単なことではない。その場へ行き、判断せねばならないことがある。

 だから、今回は一緒に行くと私は言った。

 ……それに、戦は始まる前に終っているものだ。いくつものパターンを組み合わせ、敗北する原因をすべて潰しておくものだわ。

 そう思いながらも、やはり戦場へ行くというのは怖い。本当は怖い。

 机上では私は天才で駒を自由に操る。本当の戦場は人の命がかかっている。でも私が動かないことでウィルバートを失うことになったら、後悔してもしきれないじゃない。

 ……ウィルバートだけを生かすことは傀儡国家になっても、それは保障されていたであろう。でも彼の性格上、その道は選ばないであろうということもわかっていた。それは民にとって幸せではないからだ。

 馬上で強い眼差しで前を向き、マントをはためかせているウィルバート。獅子王と呼ばれるに相応しい雰囲気。

 私は彼の手足となり、駒となり動く。怠惰な王妃様は今頃、城の中でお茶を飲んでいる時間を過ごしている。私は少年のリアム。この世で最も優秀で天才的な参謀。そう心に言い聞かせる。

 ぎゅっと手綱を握りしめる。

 私はどんな手を使って勝つわよ!天才と言われる所以を今こそ教えてあげるわ!
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