123 / 304
たかが商人されど商人
しおりを挟む
クラーク男爵家を1代で大きな商家にした男が目の前にいた。身なりは素朴で、人が良さそうに見える。
ニコニコと耐えぬ笑みを浮かべているのはリアンの父である。
「急にお呼び頂くとは何用でしょうか?」
酒と食事を振る舞う。悪い話ではなさそうだと思っているのかもしれない。
「海運の方、順調のようだと聞いた」
「ええ!もちろんです。海路をしっかり繋げ、スムーズに物を運べるようにしてます!」
「随分、短期間でできるな」
「商売は素早さが命ですからね!」
アッハッハーと快活に笑う。どうやら儲かっているのだろう。
「それにしても驚いたことがあった。礼を言わねばならないと思っていた。今夜は思う存分、食べて飲んで行ってくれ」
「え?なんの礼でしょう?」
とぼけてみせている。赤い色の酒をグッと美味しそうに飲み干す。
「エキドナ公爵邸にいた使用人たちが、クラーク男爵家の者に変わっていたとは。あれはリアンの策だろうか?」
一瞬だけ酒を飲む手を休めたが、うーんと考えて言葉を選んでいる。
「責めているわけではないし、答えによって何かあるわけでもない」
「そうですか。ならば潔くお答えします……娘の立てた策に乗っかったわけです。あまり関わりたくないのですが、今回、商売の邪魔をされたので少々腹が立ち、共闘してしまったわけです」
……リアンは紛れもなく父の血を受け継いでいるな。腹いせに手を貸したというわけか。
「クラーク男爵、あなたはもしかしてだが……『世界商人』と呼ばれる一族では?」
ブッ!と赤い色の酒を吹き出しかけ、ゴホゴホむせている。リアンにそっくりの反応はやめてほしい……。
「えっ?いや……まさか!そんな一族どこに!?いいいいるなら見てみたいっ!」
「普段は各国に息を潜めて商売し、影のように存在をするが、その一族の結束は固いと聞く。そして商売する能力も高い。あの使用人たちは単なる使用人ではなかった。身のこなしが訓練された者たちだった」
「ええっとーぉ。いや、うちの使用人たちは……」
ま、いいさとオレは笑った。
「オレの予想では、リアンの母に惚れて世界商人の一族から抜けてきたのではないか?まぁ、この国にいてくれて、味方でいてくれるならば心強く、ありがたいけどな」
カランと皿の上にフォークが手から落ち、動揺している。
「リアンに何か聞いてはいないんですよね?」
「夫婦仲が良く、自分が後宮に入れられる時は父と母のゴリ押しがすごすぎて、対処のしようがなかったと……あのリアンがそう言うのだから、なかなかの両親だなとは思っていた。それにリアンに渡す情報量、正確さ、迅速さはただの商家が把握できるものではない。エイルシア王国の諜報活動を超えることがある。一国のだぞ?違和感を覚えてもしかたないだろう」
「……そうだった。陛下はうちの娘と同じあの高名な先生に師事していたんだったな。うかつだった」
ブツブツとリアンの父は言う。先生という言葉が出てきて、オレはハッとした。
「ま、まさか!?オレが師匠のところへ来ていたことを知っていたということは、狙ってリアンを後宮に入れたのか!?」
「ハハハ!陛下を射止めるかどうかは家の娘にかかっておりましたがね!なかなか良い娘でしょう?家の中で一番わたしに似ています。男なら商売人にしたかった!と思ってましたが、本人には一生言いたくないですね。リアンは調子にのりますからね」
オレに主導権を握られていて面白くなかったのか、やっと一矢報いた!とばかりに顔をあげてニコニコしだした。
私塾の学友として、リアンは才能があり、後宮に入れるのはもったいない!とオレは署名活動までして家まで行ったことがある。その時、いけしゃあしゃあと『娘の将来は決まってる』と顔色1つ変えずに言っていた。もしやあれもオレの正体をわかっていたのか!?この男、侮りがたい。
「王家に娘を入れてどうしたい?」
「あ!別に権力がほしいわけではありません。……陛下に一つお願いがあります。お願いをしたくて繋がりが欲しかったのです」
なんだろうか?商売に関することだろうか?
「わたしは愛する妻をなによりも大切に思ってます。なにを捨ててもいいと思うほどにです!妻はこの国で生まれ育ち、エイルシア王国が大好きなんです。だからどうか、この国をいつまでも平和で豊かな国であるようにお願いしたい」
オレは目を丸くした。なんという……。
「そのために我がクラーク家は王家に助力は惜しみません!妻と結婚するときに約束したんです。どんな男と結婚するよりも幸せにするし、後悔させないと!」
熱い。熱すぎる。……この熱量、リアンが、魔法や兵法、内政などを語る時と同じである。父娘だなぁ。
老後は愛する妻と平和にゆっくり過ごしたいんですよ~と笑う商人だった。
「良い願いだな。約束しよう。精いっぱい良い国になるように努力をする」
ありがとうございます!と頭を下げるクラーク家の当主だった。
一人の愛した女性を幸せにする……それは簡単なようで重い約束だ。
ニコニコと耐えぬ笑みを浮かべているのはリアンの父である。
「急にお呼び頂くとは何用でしょうか?」
酒と食事を振る舞う。悪い話ではなさそうだと思っているのかもしれない。
「海運の方、順調のようだと聞いた」
「ええ!もちろんです。海路をしっかり繋げ、スムーズに物を運べるようにしてます!」
「随分、短期間でできるな」
「商売は素早さが命ですからね!」
アッハッハーと快活に笑う。どうやら儲かっているのだろう。
「それにしても驚いたことがあった。礼を言わねばならないと思っていた。今夜は思う存分、食べて飲んで行ってくれ」
「え?なんの礼でしょう?」
とぼけてみせている。赤い色の酒をグッと美味しそうに飲み干す。
「エキドナ公爵邸にいた使用人たちが、クラーク男爵家の者に変わっていたとは。あれはリアンの策だろうか?」
一瞬だけ酒を飲む手を休めたが、うーんと考えて言葉を選んでいる。
「責めているわけではないし、答えによって何かあるわけでもない」
「そうですか。ならば潔くお答えします……娘の立てた策に乗っかったわけです。あまり関わりたくないのですが、今回、商売の邪魔をされたので少々腹が立ち、共闘してしまったわけです」
……リアンは紛れもなく父の血を受け継いでいるな。腹いせに手を貸したというわけか。
「クラーク男爵、あなたはもしかしてだが……『世界商人』と呼ばれる一族では?」
ブッ!と赤い色の酒を吹き出しかけ、ゴホゴホむせている。リアンにそっくりの反応はやめてほしい……。
「えっ?いや……まさか!そんな一族どこに!?いいいいるなら見てみたいっ!」
「普段は各国に息を潜めて商売し、影のように存在をするが、その一族の結束は固いと聞く。そして商売する能力も高い。あの使用人たちは単なる使用人ではなかった。身のこなしが訓練された者たちだった」
「ええっとーぉ。いや、うちの使用人たちは……」
ま、いいさとオレは笑った。
「オレの予想では、リアンの母に惚れて世界商人の一族から抜けてきたのではないか?まぁ、この国にいてくれて、味方でいてくれるならば心強く、ありがたいけどな」
カランと皿の上にフォークが手から落ち、動揺している。
「リアンに何か聞いてはいないんですよね?」
「夫婦仲が良く、自分が後宮に入れられる時は父と母のゴリ押しがすごすぎて、対処のしようがなかったと……あのリアンがそう言うのだから、なかなかの両親だなとは思っていた。それにリアンに渡す情報量、正確さ、迅速さはただの商家が把握できるものではない。エイルシア王国の諜報活動を超えることがある。一国のだぞ?違和感を覚えてもしかたないだろう」
「……そうだった。陛下はうちの娘と同じあの高名な先生に師事していたんだったな。うかつだった」
ブツブツとリアンの父は言う。先生という言葉が出てきて、オレはハッとした。
「ま、まさか!?オレが師匠のところへ来ていたことを知っていたということは、狙ってリアンを後宮に入れたのか!?」
「ハハハ!陛下を射止めるかどうかは家の娘にかかっておりましたがね!なかなか良い娘でしょう?家の中で一番わたしに似ています。男なら商売人にしたかった!と思ってましたが、本人には一生言いたくないですね。リアンは調子にのりますからね」
オレに主導権を握られていて面白くなかったのか、やっと一矢報いた!とばかりに顔をあげてニコニコしだした。
私塾の学友として、リアンは才能があり、後宮に入れるのはもったいない!とオレは署名活動までして家まで行ったことがある。その時、いけしゃあしゃあと『娘の将来は決まってる』と顔色1つ変えずに言っていた。もしやあれもオレの正体をわかっていたのか!?この男、侮りがたい。
「王家に娘を入れてどうしたい?」
「あ!別に権力がほしいわけではありません。……陛下に一つお願いがあります。お願いをしたくて繋がりが欲しかったのです」
なんだろうか?商売に関することだろうか?
「わたしは愛する妻をなによりも大切に思ってます。なにを捨ててもいいと思うほどにです!妻はこの国で生まれ育ち、エイルシア王国が大好きなんです。だからどうか、この国をいつまでも平和で豊かな国であるようにお願いしたい」
オレは目を丸くした。なんという……。
「そのために我がクラーク家は王家に助力は惜しみません!妻と結婚するときに約束したんです。どんな男と結婚するよりも幸せにするし、後悔させないと!」
熱い。熱すぎる。……この熱量、リアンが、魔法や兵法、内政などを語る時と同じである。父娘だなぁ。
老後は愛する妻と平和にゆっくり過ごしたいんですよ~と笑う商人だった。
「良い願いだな。約束しよう。精いっぱい良い国になるように努力をする」
ありがとうございます!と頭を下げるクラーク家の当主だった。
一人の愛した女性を幸せにする……それは簡単なようで重い約束だ。
14
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる