天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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たかが商人されど商人

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 クラーク男爵家を1代で大きな商家にした男が目の前にいた。身なりは素朴で、人が良さそうに見える。

 ニコニコと耐えぬ笑みを浮かべているのはリアンの父である。
 
「急にお呼び頂くとは何用でしょうか?」

 酒と食事を振る舞う。悪い話ではなさそうだと思っているのかもしれない。

「海運の方、順調のようだと聞いた」

「ええ!もちろんです。海路をしっかり繋げ、スムーズに物を運べるようにしてます!」

「随分、短期間でできるな」

「商売は素早さが命ですからね!」

 アッハッハーと快活に笑う。どうやら儲かっているのだろう。

「それにしても驚いたことがあった。礼を言わねばならないと思っていた。今夜は思う存分、食べて飲んで行ってくれ」

「え?なんの礼でしょう?」

 とぼけてみせている。赤い色の酒をグッと美味しそうに飲み干す。

「エキドナ公爵邸にいた使用人たちが、クラーク男爵家の者に変わっていたとは。あれはリアンの策だろうか?」

 一瞬だけ酒を飲む手を休めたが、うーんと考えて言葉を選んでいる。

「責めているわけではないし、答えによって何かあるわけでもない」

「そうですか。ならば潔くお答えします……娘の立てた策に乗っかったわけです。あまり関わりたくないのですが、今回、商売の邪魔をされたので少々腹が立ち、共闘してしまったわけです」

 ……リアンは紛れもなく父の血を受け継いでいるな。腹いせに手を貸したというわけか。

「クラーク男爵、あなたはもしかしてだが……『世界商人』と呼ばれる一族では?」

 ブッ!と赤い色の酒を吹き出しかけ、ゴホゴホむせている。リアンにそっくりの反応はやめてほしい……。

「えっ?いや……まさか!そんな一族どこに!?いいいいるなら見てみたいっ!」

「普段は各国に息を潜めて商売し、影のように存在をするが、その一族の結束は固いと聞く。そして商売する能力も高い。あの使用人たちは単なる使用人ではなかった。身のこなしが訓練された者たちだった」

「ええっとーぉ。いや、うちの使用人たちは……」

 ま、いいさとオレは笑った。

「オレの予想では、リアンの母に惚れて世界商人の一族から抜けてきたのではないか?まぁ、この国にいてくれて、味方でいてくれるならば心強く、ありがたいけどな」

 カランと皿の上にフォークが手から落ち、動揺している。

「リアンに何か聞いてはいないんですよね?」

「夫婦仲が良く、自分が後宮に入れられる時は父と母のゴリ押しがすごすぎて、対処のしようがなかったと……あのリアンがそう言うのだから、なかなかの両親だなとは思っていた。それにリアンに渡す情報量、正確さ、迅速さはただの商家が把握できるものではない。エイルシア王国の諜報活動を超えることがある。一国のだぞ?違和感を覚えてもしかたないだろう」

「……そうだった。陛下はうちの娘と同じあの高名な先生に師事していたんだったな。うかつだった」

 ブツブツとリアンの父は言う。先生という言葉が出てきて、オレはハッとした。

「ま、まさか!?オレが師匠のところへ来ていたことを知っていたということは、狙ってリアンを後宮に入れたのか!?」

「ハハハ!陛下を射止めるかどうかは家の娘にかかっておりましたがね!なかなか良い娘でしょう?家の中で一番わたしに似ています。男なら商売人にしたかった!と思ってましたが、本人には一生言いたくないですね。リアンは調子にのりますからね」

 オレに主導権を握られていて面白くなかったのか、やっと一矢報いた!とばかりに顔をあげてニコニコしだした。

 私塾の学友として、リアンは才能があり、後宮に入れるのはもったいない!とオレは署名活動までして家まで行ったことがある。その時、いけしゃあしゃあと『娘の将来は決まってる』と顔色1つ変えずに言っていた。もしやあれもオレの正体をわかっていたのか!?この男、侮りがたい。

「王家に娘を入れてどうしたい?」

「あ!別に権力がほしいわけではありません。……陛下に一つお願いがあります。お願いをしたくて繋がりが欲しかったのです」

 なんだろうか?商売に関することだろうか?

「わたしは愛する妻をなによりも大切に思ってます。なにを捨ててもいいと思うほどにです!妻はこの国で生まれ育ち、エイルシア王国が大好きなんです。だからどうか、この国をいつまでも平和で豊かな国であるようにお願いしたい」

 オレは目を丸くした。なんという……。

「そのために我がクラーク家は王家に助力は惜しみません!妻と結婚するときに約束したんです。どんな男と結婚するよりも幸せにするし、後悔させないと!」

 熱い。熱すぎる。……この熱量、リアンが、魔法や兵法、内政などを語る時と同じである。父娘だなぁ。

 老後は愛する妻と平和にゆっくり過ごしたいんですよ~と笑う商人だった。

「良い願いだな。約束しよう。精いっぱい良い国になるように努力をする」

 ありがとうございます!と頭を下げるクラーク家の当主だった。

 一人の愛した女性を幸せにする……それは簡単なようで重い約束だ。
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