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海から来た客

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 謁見の間へ行くと一人の男がひざまずいていた。顔に傷があり、短い黒髪の使者はオレが椅子に座り、立って良いと言うと、こちらを睨みつけるように見た。セオドアがその男の表情に危険を感じたのか、警戒するピリッとした気配が生まれる。

「エイルシア王、急な来訪を許してください。どうしても我が主、シザリア王が早急に手を打てとのことでしたので」

 海の男というのがふさわしいのだろうか?日焼けしていて、たくましい体付きをしている。威圧感もあり、少し気弱な相手なら、恐怖すら感じるかもしれない。使者として送るには不適切な者ではないか?

 いや、こういう相手が来たことで、シザリス王国はどんなことを言いたいのかわかりやすいか。

「姉のことだろうか?」

「それしかないでしょう?後宮から逃げ出した王妃を受け渡してもらいたい。陛下の許可なく後宮外だけでなく他国へ行くなど、処分はわかっていると思いますが」

「ああ。受け渡す」

「……やけにあっさりと了承しますね」

「なんの利益もないのに匿って、シザリア王国と事を構えることがめんどくさい。いきなり帰ってきた姉にこちらも迷惑してるんだ」

 さっさと帰したい。

「そもそも姉がこっちへきた理由がわからない。なにかシザリア王国であったのか?聞いても構わない理由なら聞かせてほしい」

 傷のある男は一瞬ためらった後に口を開く。

「夫婦喧嘩です」

『は!?』

 オレだけでなく、影のようにいるセオドアまで思わず疑問符を浮かべる。

「……それはどうしようもないな」

 ソフィーはおしとやかな雰囲気ではないことは気づいていた。

「受け渡すにしろ、仲直りしないと無理じゃないか?これ?」

 オレはブツブツと小声で言い、額を抑える。簡単に引き渡せと言うが、無理やり渡せばいいか?

「たとえ非が我が王にあったとしても、女は我慢しているべきなのに、出ていくなどと愚行だ」

 シザリアの使者は苦々しげに言うが、オレは、首を傾げる。

「女が我慢してって可笑しいだろ?我慢出来ないことは我慢しなくて良いとオレは思うけどな」

 リアンにそんな自分の気持ちを押し殺すようなことをさせたくない。

「意外なことを仰る。『獅子王』と呼ばれていると聞き、気性の激しい王を想像してましたが、思っていた感じとは違うのでしょうか。女に甘いとかでしょうかね?」

 ちょっと無礼になってきたなと思ったが、聞き流そう。

「とりあえず説得はしてみるが……」

「帰さぬ時はどうなるかわかっておりますね?」

 姉1人にそこまでか?脅している?なぜ……そこまで危機感がある?オレは違和感を感じた。

「シザリアの王に言っておけ。夫婦喧嘩は国内でしろとな。説得はしてみよう」

「ずいぶんと小国でありながら、大きい態度で……」
 
 ギロッと使者は睨んだ。小国って……そりゃユクドールよりは小さいけどシザリア王国とはたいして変わらないだろ!?という言葉は飲み込む。

「それ以上の行為は無礼かと思われます」

 セオドアが一歩前へ出た。オレも目を細める。相手はその様子に察してスッと頭を悔しげに下げて去っていく。

「かなり上から目線でしたね」

 セオドアがそういうのも無理はないなと思う。

「物を頼む態度ではないな。喧嘩売られてるな気がした。ずいぶんとあちらは怒ってるようだ。姉はいったい、なにをしてきたのか?」

 聞いてみるか……関わりたくないんだけどなと嘆息した。
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