犬、やめました。【コミカライズ企画進行中作品】

花澄そう

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デリート大作戦

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見ると手にした取っ手はくの字で重みがあるものだった。

私はこの部屋がなんの部屋なのか、それを見ただけで分かった。

幼い頃に住んでいたあの家にもあったものだから。


「音楽部屋……」

重く分厚いドアをギギっと鳴らして開けた先は真っ暗で何も見えない。


電気のスイッチを壁伝いに手探りで探し当てて押すと、部屋の真ん中に大きなグランドピアノが現れた。


「うわぁ……」
高級感と懐かしさで思わず声が漏れる。

リビングや寝室からは夜景が見えたけど、この部屋は防音のようで窓がない。

足を踏み入れると、耳がおかしくなったのかと錯覚するくらいに外部の音が遮断しゃだんされている。
物がほとんど無いからか自分の息遣いまでも返してきた。
こんな事ですら懐かしい。
 
時間がない事なんて分かっているのに、私の足はその黒々と輝くグランドピアノへと足が導かれてしまう。

目の前で立ち止まり、そっと指を下ろしてその感触を確認する。

懐かしい⋯⋯。

物凄く手入れが行き届いているこのグランドピアノには、ほこり1つさえ無い。

物心つく時から習っていたピアノ。
私はピアノを弾くのが大好きだった。
でも小5を境に辞めざるを得なかったけど⋯⋯アキラはまだ弾いているんだ。いいな。

何度かコンクールで一緒になったけど、いつも優勝していたっけ。
今は相当な腕になっているんだろうな。

一度、聞いてみたいな⋯⋯。
って何思ってるんだろ?

そんな事を考えていると、目の端に家具らしき物が映り込んで視線を送った。


この部屋の端に本棚二つに挟まれた大きなデスクに、キャスター付きの椅子。
そこはまるで書斎スペースのよう。

それを見た瞬間、まだそこにあると決まったわけじゃないのに、一気に期待に胸を膨らませた。

ゴクリと唾を飲む音が自分の鼓膜にはね返ってくる。

開けっ放しのドアからシャワー音が流れていることを再確認して、足早にその書籍スペースへと向かった。

でもその机の上や棚にはそれらしき物は無い。
引き出しの中も、ついでに棚にあった箱の中を見ても、無い。

あれ、違った?
棚にも勉強の本とかがあるし、レポートとか書くなら絶対この場でしょ?
きっと防音室にこのスペースを作ったのは集中して取り組めるからとかじゃないの?


そう思った時⋯⋯

本棚の一番端に本と同じように立てかけてある本に、妙な違和感を覚えた。

薄くて本かノートみたいに見えるそれは、よく見るとあまりにも無機質。

手を伸ばして本の中から取り出すと、自分のスマホにも付いている、あのリンゴマークが付いていた。

「⋯⋯見つけた」
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