ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第2章 大坂出張

第2話

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そう、沖田総司が所有したとされていた刀。

平成では、沖田総司の所有していた刀としては「菊一文字」が有名だけれど、そんな貴重な古刀はこの時代でもそうそう手に入らないことから、ほぼ可能性は無いとされていた。

代わりに有力な説として挙がってきたのが、近藤勇の所有していた「虎鉄」に似ているこの「大和守安定」。



「……あれ、璃桜知ってたんだ。そっか、歴史を学んでたんだっけ……」



少し悲しそうな表情を見せたそうちゃんは、ふっと唇の両端をあげて、その表情を笑顔に変えてにこりと笑う。



「これが、俺の刀。璃桜と俺の剣筋は似てるから、万が一のときには、上手く使えると思う」

「え、」

「いいから。俺の分身、一緒に連れて行ってあげて」



そう言って、私に刀を押し付ける。



「え、でも、そうちゃんはどうするの…?」

「俺のことはいいの、誰かのやつ借りればいいし。璃桜は自分が無事で帰ってくることだけを考えてて」



酷く真剣に私を見つめる琥珀色。

その色に、おおげさじゃない? なんて、そんな思いが浮かんで。



「う、うん……でも、大坂だし」



近くだよ、そう言おうとした言葉は、遮られた。



「あのね」



そう言って、そうちゃんは私の肩をぐっとつかむ。



「璃桜、ここは、平成じゃない」

「わかってるよ」



そんなの当り前じゃない。

私ここに来てからもう何か月もたって、漸く自分の居場所を見つけられたんだもの。



「いや、分ってないよ」



じっと見据えられて。

その瞳の強さに、ぞくりと肌が粟立った。



「あの優しい平成じゃない。ここは、文久3年だ。それがどういうことかわかる?」

「……え?」



ぐ、と掴まれている肩に痛みを感じる。

それが、そうちゃんの心を表しているようで。



「……一度離れたら、もう二度と会えないなんて、ざらにあるんだよ?」

「…………っ」



その言葉に息をのむ。



「ね? だから、お守り代わりに持ってって」



真剣な、琥珀色の瞳。

その眼差しに比例するように、ずしりと重みを増す刀。

それほどに、厳しい時代だと。

それが、今の私にとっての現実なんだと。

再度深く、実感させられた。



「……なんて、刀がお守りなんて、可笑しいけどね」



ふーっとひとつ息をついて、ぱっと私の肩を離すそうちゃん。

片手で刀を押さえて、もう片方の手のひらで、離れてゆく手をぎゅっと掴む。



「……璃桜?」

「そうちゃん……ありがとう」



驚いたように尋ね返す貴方に、感謝の言葉を口にした。

何もわからない私に、気付かないことを教えてくれるのはいつも貴方だった。

ずっと、昔から。

だからね、私も貴方にとって、同じ場所でありたいの。



「絶対に、約束する。私は、無事に帰ってくるから」



――――貴方に、何かを伝え続けたいの。



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