16 / 139
第2章 大坂出張
第2話
しおりを挟むそう、沖田総司が所有したとされていた刀。
平成では、沖田総司の所有していた刀としては「菊一文字」が有名だけれど、そんな貴重な古刀はこの時代でもそうそう手に入らないことから、ほぼ可能性は無いとされていた。
代わりに有力な説として挙がってきたのが、近藤勇の所有していた「虎鉄」に似ているこの「大和守安定」。
「……あれ、璃桜知ってたんだ。そっか、歴史を学んでたんだっけ……」
少し悲しそうな表情を見せたそうちゃんは、ふっと唇の両端をあげて、その表情を笑顔に変えてにこりと笑う。
「これが、俺の刀。璃桜と俺の剣筋は似てるから、万が一のときには、上手く使えると思う」
「え、」
「いいから。俺の分身、一緒に連れて行ってあげて」
そう言って、私に刀を押し付ける。
「え、でも、そうちゃんはどうするの…?」
「俺のことはいいの、誰かのやつ借りればいいし。璃桜は自分が無事で帰ってくることだけを考えてて」
酷く真剣に私を見つめる琥珀色。
その色に、おおげさじゃない? なんて、そんな思いが浮かんで。
「う、うん……でも、大坂だし」
近くだよ、そう言おうとした言葉は、遮られた。
「あのね」
そう言って、そうちゃんは私の肩をぐっとつかむ。
「璃桜、ここは、平成じゃない」
「わかってるよ」
そんなの当り前じゃない。
私ここに来てからもう何か月もたって、漸く自分の居場所を見つけられたんだもの。
「いや、分ってないよ」
じっと見据えられて。
その瞳の強さに、ぞくりと肌が粟立った。
「あの優しい平成じゃない。ここは、文久3年だ。それがどういうことかわかる?」
「……え?」
ぐ、と掴まれている肩に痛みを感じる。
それが、そうちゃんの心を表しているようで。
「……一度離れたら、もう二度と会えないなんて、ざらにあるんだよ?」
「…………っ」
その言葉に息をのむ。
「ね? だから、お守り代わりに持ってって」
真剣な、琥珀色の瞳。
その眼差しに比例するように、ずしりと重みを増す刀。
それほどに、厳しい時代だと。
それが、今の私にとっての現実なんだと。
再度深く、実感させられた。
「……なんて、刀がお守りなんて、可笑しいけどね」
ふーっとひとつ息をついて、ぱっと私の肩を離すそうちゃん。
片手で刀を押さえて、もう片方の手のひらで、離れてゆく手をぎゅっと掴む。
「……璃桜?」
「そうちゃん……ありがとう」
驚いたように尋ね返す貴方に、感謝の言葉を口にした。
何もわからない私に、気付かないことを教えてくれるのはいつも貴方だった。
ずっと、昔から。
だからね、私も貴方にとって、同じ場所でありたいの。
「絶対に、約束する。私は、無事に帰ってくるから」
――――貴方に、何かを伝え続けたいの。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
63
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる