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第3章 史実
第16話
しおりを挟む次の日の朝。
暑さで目が覚める。
障子から差し込んでくる太陽の光から察するに、まだ起床の時間ではないけれど、一度目覚めてしまったら暑さでもう眠れない。
かといって、起きあがる気にもなれず、ただごろんと転がったまま、びっしょりと汗で湿った襟元をぱたぱたと広げて風を通していれば、寝起きの悪い歳三がもぞもぞと寝返りを打った。
「……おはよ」
「………ん、りお……」
眠たそうに瞼をおろしたまま、顔だけこっちを向いた歳三に、何、と問いかける。
「ごめん、な」
「…………」
掠れた朝の寝起きの声に、ずるいなぁ、と思う。
そんなに優しく謝られたら。
昨日、だまされたも同然の非道いことをされたのに、許してしまいたくなる。
「ごめん、」
「もういいって」
少しだけ心に靄が残っていたけれど、そんなこと言ったって、終わってしまった事だもの。
「……また、あんみつ、たべにいくか…」
「え」
むにゃむにゃと寝言のようだけれど、歳三の口から確かに聞こえた言葉。
「どうせまたおとりにでもなるつもりでしょ」
ちょっと拗ねたように唇をとがらせてそう返せば、いつだって凛としているはずの眉根がしゅん、と下がった。
「……ちげぇ、し」
「………ふっ、」
その情けなくてかわいらしい表情を見たら、つい、笑ってしまって。
「しかたないなぁ、餡蜜で許してあげる」
「おう……」
私の言葉を聞いて安心したように優しく笑い、自分の腕に顔を埋める。
瞬間、寝息が聞こえてきて。
「寝るの早いなぁ……」
こっちの気も知らないで。
「あーあ」
一緒にいればいるほど、惹かれてく。
鬼みたいに怖い所も、いきなり見える冷たい瞳も、非情さも。
今みたいなふにゃけた可愛い笑顔を見てしまったら、全部、吹き飛ぶ。
ほんと、ずるい。
泣きそうに、なる。
貴方はどうせ、私に対して何も思っていない。思っているはずがない。
「ばか……」
布団から腕を伸ばして、寝ている歳三に触れようとした、その時。
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