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第3章 史実
第22話
しおりを挟む「……勝手に、するよ」
だって、貴方がいなくなってしまう未来なんて、耐えられない。
守れる可能性が少しでもあるのなら、守りたいと思う。
屯所までの道を、駆ける。
もう一度、頬を雫が伝う。
優しい貴方が掛けてくれた、羽織の袖で、ぐっと拭う。
全ての感情を拭い去るように。
今必要なのは、事実を見極める力。
屯所に戻って部屋へ足を運ぶ。
その間も、思考は止まらない。止めない。
この事件は、平成では。
芹沢さんが、お気に入りになったあぐりを奪うために、愛次郎くんを殺すように佐伯に命じた、というのが真相ということになっている。
それを見てしまったあぐりが、舌を噛んで死に、愛次郎くんの後を追ったことになっている。
けれど、その真相は?
今の所、芹沢さんの影は一ミリも出てきていない。
なぜ、芹沢さんが出てくる?
「……それだ」
芹沢さんが、この事件に関わったと記録されている理由。
それが分れば、ひも解ける気がする。
「佐伯と、芹沢さんの関係性……」
実際の所、私は歳三の小姓と新人隊士たちの指南役。
後は、ご飯を作るくらい。
だから、関わりのない人もたくさんいる。
女だってばれないようにしているからなおさらだ。
佐伯又三郎も、関わりのない人のうちの一人。
それなりに腕は立つようだけれど、いつも飄々としているイメージがある。
時々、にたりと笑う笑顔がどこか恐ろしい印象を持っているけれど、どういう人なんだろう。
それを少し探らないと……。
部屋へ着いて襖を、たん、と閉める。
部屋に敷かれたままの布団のせいで、ふわりと鼻を掠める歳三の煙草の香り。
背を向けられた時の、そっけない言葉が蘇ってきて、涙が零れそうになったけれど、そんなことしてられない。
だって。
佐伯は、
―――――――――殺される。
歴史が変わらないのならば。
今から8日後。
8月10日に、芹沢派によって殺害されるの。
だから、その前に、どうにかして突き止めたい。
愛次郎くんが、殺されなくてはならなかった理由を。
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