ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第28話

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歳三が、女の心を摑まえて放さないのは、皆、あれに勘違いをするから。

あんなに感情を剥きだしたような口づけをされたら、自分はこの人に愛されているなんて、勘違いもしてしまう。

現に、私が――騙されるところだった。



「だから、忘れてくれ――――すまねぇな」

「――――大丈夫」



自分に言い聞かせるように、強く断言する。そうでもしないと、目の前の貴方に縋ってしまいそう。その着流しを掴んで、酷く泣きわめいてしまいそう。

だけど私は、歳三と同じ場所に、この足で立ちたい。

だから、こんなことで、泣いてなんていられない。



「大丈夫だから。歳三がそういう人だって、私、知ってるから」

「そうか、」



何よ、その顔。安心したように笑わないでよ。

精一杯の虚栄で、身を固めて、震えそうになる身体を必死で抱きしめて。

とても努力して、平常心を取り繕って、貴方と向かい合って、話しているのに。

ずるい。そんな顔をされたら、余計に何も言えなくて。



「璃桜、ご飯できたか~? って、大丈夫か、全然進んでねぇ!」



歳三の言葉を遮って、いそいそとでっかい声を上げながら勝手場に入ってきたのは左之さん。歳三はさっさと背を向けて勝手場から出ていってしまった。



「疲れたんだよなぁ、土方さんも今日くらいは――」

「大丈夫です、」



今、歳三の名前を聞きたくなかった。左之さんの言葉を遮るように、虚勢を張った。



「大丈夫じゃねぇだろ、頬っぺたそんなに濡らしてよ」

「…………っ、大丈夫、です」



気づかずうちに零れていた涙をぐい、と拭って、包丁を洗う。涙が染み込んで色が変わった袖に、誤魔化すように水を飛ばした。



「そうか、じゃあ俺は野菜を洗うから、璃桜は他の事していいぜ」

「……ありがとうございます」



左之さんは何も聞かずに、野菜の入った桶に水を灌ぐ。



「………」

「……まぁ、あれだよなぁ、璃桜だって悩みの1つ2つあるよなぁ」



うんうん、と頷きながら、誰ともなく左之さんは話し始める。





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