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第5章 本当の気持ち
第7話
しおりを挟む「お前、それ、」
「え?」
後ろから唐突に、聞き慣れない声がした。振り返ってみれば、そこにいたのは、新見さん。
彼は、いつも芹沢さんのご機嫌を取っている。芹沢さんの腰巾着なのに、どうしてこんな所に?
「如何しました?」
そう尋ねたけれど、焦ったように目を泳がせた新見さんは、「何でもない」と言って、すぐに何処かに行ってしまった。
「何だったんだろ……」
そう思いながらも、片付けの手を進める。下に散らばった木片を拾おうとした時だった。
ころん、と足元に小さな石が転がってきた。そちらに目を向ければ、そこには、町の人たちが5人ほど集合していて、皆、何か桶の様なものを抱えていた。少し距離があるからだろうか、私のことは見えていないらしい。
じっと見ていれば、ひとりが手に持っている桶をひっくり返した。
「……っ」
桶の中に入っていたのは、生ごみだった。夏な事もあり、若干の腐臭が鼻を掠める。
驚いて何も言えずにただ立ち尽くしていれば、次々とひっくり返される桶。その中身はどれも、小石や生ごみ、紙クズなどの、嫌がらせとしか思えないものだった。
「せいせいしたわ」
「本当に」
口々にそう言いながら、中身をそのままにして去っていくその人たち。
「……何なんだろうな、あれ」
「ひゃっ」
隣でいきなり上がった声に、驚いて変な声が出てしまった。バクバクと鳴る心臓を押さえながら見上げれば、そこにいたのは左之さんだった。
「ちょっとびっくりさせないで下さいよ」
「悪ぃな、あー、胸糞悪いもん見ちまったなぁ」
「本当ですね」
私が左之さんの言葉にそう返した時だった。
「貴方達、恥ずかしいと思わないの!?」
張りのある強い声が、聴こえた。
思わず左之さんと顔を見合わせて、野次馬根性をはたらかせる。
先ほどゴミがぶちまけられたところを避けながら塀の影に移動して、さっきの5人組が戻っていった道のりの方へ目をやる。
するとそこには、綺麗に髪を結いあげたお嬢様らしき女の子が、5人組をぴしゃりと叱りつけていた。
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