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7.村の主人になる

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 助けた人狼の青年に案内されて、フェイとイリスは山間の村へと足を踏み入れた。

 崖と崖に挟まれた集落は、まさに隠れ里という感じであった。
 入り口は、人(ひと)一人が入れるくらいの幅で、そこから先が開けている。

 まともに樹木が手に入らなかったのだろうか。家は粘土を固めて作られた粗末なものだった。

 20世帯ほどの小さな集落。
 そこにいるのは皆人狼たちだ。

「クラン!」

 と、フェイが助けた青年――名前はクランという――を見ると、村人の女性が駆け寄ってきた。

「この方たちは?」

 フェイとイリスを見て、女性は紹介を求めた。

「フェイ様、それにイリス様だ。外でトロールに襲われたんだが、この方々が救ってくれた」

「それはクランがお世話になりました」

 女性はフェイに頭を下げる。

「……フェイ様を村長に会わせたいんだが、今どこにいる?」

「家にいるわ」

「ありがとう」

 クランは、フェイとイリスたちを村長の前に連れていく。

 フェイは、目の前に現れた村長が、思ったよりも若くて驚いた。
 若く見えるのか、それにしてもどう見ても40代にしか見えない。

「こちらが村長のオースティンです。村長、こちらがフェイ様とイリス様です。村の外でトロールに襲われたのですが、この方々に命を救っていただきました」

「それはそれは、村人がお世話になった」

「いえいえ」

「村長、この方々は命の恩人です。可能であれば食事を提供したいのですが」

 クランは、フェイたちに報いようと村長に許可を願う。

「もちろんだ……と言いたいところだが、あまり食料の貯蔵はないのだ。フェイ殿、イリス殿、申し訳ないが、
満足なもてなしはできないだろう」

「いえいえ、お気になさらず」

 村が貧困状態にあるのは見て取れた。
 川にはかろうじて食料があるが、そこに近づけないとなるとかなり厳しい状況だろう。

 この土地は農耕には適さないから、安定的に食料を手に入れるのは難しいはずだ。

「この村の方々は代々この地に住み着いているのですか?」

 フェイはこの村の成り立ちが気になり、そう質問した。
 村長は首を横に振った。

「この村は国を追われた者たちが集まってできたものです」

 その言葉でフェイは事情を概ね把握した。

 人狼のような「亜人」たちへの世間の風当たりは強い。
 特にフェイのいたドラゴニアではその傾向が強かった。

 それで彼らが行き着いた「安住の地」がこの未開の土地なのだろう。

 村長が若いのも納得できる。この過酷な環境では、皆長くは生きられないのだ。必然、村人たちも若い者だけになる。

「あの、もしかしたら、ちょっとくらい何かお手伝いできることがあるかもしれません。多少精霊術の心得があるので」

 フェイはそう申し出る。

「村人の命まで救っていただいて、お手伝いだなんて」

 村長はそう言うが、フェイは既に頭の中で「ご近所さん」にしてやれることはないかと模索していた。
 そして少し考えて、フェイは一つ思いつく。

「そう言えば、この村には水源はありますか?」
 
「残念ながらありません。雨水を貯めて使っていますが、この頃雨が降らず、水が尽きかけています」

 ぱっとあたりを見渡してあたりが乾ききっているので、もしかしてと思ってフェイは尋ねたが、どうやらあたりだったようだ。

「なら、水を集める機械を作りましょう」

「水を集める機械? そんなことができるのですか?」

 村長は顔に疑問符を浮かべる。

「まぁ、見ててください」

 フェイは、適当な空き地を見つけて、そこで作業を始める。

「“マド・クリード”!」

 精霊術で、空気中の水を集めつつ粘土を捏ね上げていく。
 人の半分ほどの高さがある大きな丸い器を作り、表面を炎の魔法で焼いていてレンガのようににしていく。
 これでこの中に水を貯められる。

「こ、これは! なんという魔力!!」

 村長たちは初めて見る精霊術に感嘆する。

 だがフェイの作業は終わっていなかった。そこから練り上げた器に、に精霊語と機械語とを織り交ぜた術式を刻み込んでいく。

 ――すると、次の瞬間――

「み、水が湧いてくる!?」

 器の中にみるみるうちに水が溜まっていく。
 それに村人たちの目が釘付けになる。

「フェイ様が魔法を使って水を出しているのですか?」

 村長が聞いてくる。

「いえ、自動で空気中の水を集める仕組みになっています。とりあえず、僕の分け与えた魔力がなくなるまではずっと動き続けます」

 それはフェイにとってはちょっとした「工作」だった。

 宮廷の人々にとっては当たり前のものだったが、村人にとっては違う。

「なんてことだ。精霊術者がいなくても、水を手に入れることができるのか!」

 村長たちは興奮気味に言う。

「同じものを村の左右に作ります。これで、水不足は解決するかと」

 フェイが言うと、村人たちはフェイに次々と感謝の言葉を投げかける。

「あ、ありがとうございます! これで村の生活が楽になります!!」

 どうやら自分の言語術が役に立ったようなので、フェイはホッとする。

「他にも何かあったら、遠慮なく言ってください。力になれることがあれば、お手伝いします」

 と、フェイがそう言うと、村長はフェイの手を取って言う。

「フェイ様! どうか、我々の村の主人(あるじ)となってください」

 突然の言葉にフェイは驚く。

「あ、主人ですか?」

 聞き返すと、村長は激しく頷く。

「何卒、お願いします。もちろん、年貢は納めます。水が手に入れば、もっと作物を育てられますから、我々も今まで以上に頑張ります。なのでどうか、お力添えをお願いします」

 ――どうやら冗談ではないらしい。

 ――フェイは考えこむ。

 この地で、言術研究に没頭したいと思っていた。
 だが、イリスと二人だけで暮らしていたのでは、研究の成果を生かす場所がない。
 それなら、この村人たちと暮らすというのも悪い選択ではないはずだ。

 何より、村人たちが助けを必要としているのは明白だった。
 放っておけば、彼らは過酷な環境で長くない人生を送ることになるだろう。

 ……別に、ものすごく大変になるってわけじゃなさそうだし、悪いことは一つもないな。

「主人っていうのはちょっとあれですけど、ぜひお手伝いはさせてください」

 フェイがそう答えると、村長は地に膝をついて頭を下げた。

「ありがとうございます! 主人様! 我々はご主人様のお導きに従います!」


 そんなわけで、――フェイはなりゆきで、村の主人になったのだった。



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領土ステータス

君主 : フェイ
区分 : 村
人口 : 20人
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