7 / 31
招かれざる客〈6〉
しおりを挟む「マーシュリカって毒花だろ? 」
ラスバートに訊かれ、リシュは書き進めていた手を休めて質問に答えた。
「そうよ。香りはとてもいいけど花びらに毒があって、誤って食べたりすると危ないわ」
「でも、あれが花を咲かせるのは春だろ」
「花びらを乾燥させたものでも充分毒として使えるから、粉末にして料理にでも混ぜたら危険ね。でもマーシュリカだけなら即効性の毒じゃない。これにはそれ以外の毒も含まれてる」
「舐めただけで解るのか……」
リシュは無言で再び書くことに集中すること数分。
視線は紙に向けたまま、リシュは言った。
「マーシュリカだけの毒なら解毒剤はあるし、王宮の薬学師達にも解ることでしょ。……おじ様、いったい私に何をさせたいの?」
「毒を盛られる前に首謀者を見つけたい。君のその目と嗅覚で、何かが起こる前に見つけられたらとね。陛下もそう考えてる」
「私に犬のような真似をさせるつもりなのね。御免だわ、そんなこと。───はい、これあげる」
リシュは書き終えた紙をラスバートに渡しながら言った。
「マーシュリカのほかにサロの木の樹脂とマトルの葉と、ベニ蛇の毒、コナナツの実が混ざってる」
「コナナツの実だったのか。薬学師達に調べさせても、あと一種類だけ、どうしても解せない毒があるって、お手上げ状態だったんだ」
「コナナツの木は珍しい品種だものね。その紙に解毒剤の調合や配合や、必要なこととか書いといたから。それを王宮へ持っていくといいわ、おじ様」
それを持って早く王都へ帰ってほしい。
「私がいなくてもその解毒剤を作れば、オリアル様が毒を盛られても助かるはずよ。……私、やっぱり王宮へは行きたくないの。だから諦めてほしいわ」
「そうもいかないんだ、リシュ」
ラスバートが申し訳なさそうな顔で言った。
「君を連れて行かないとね、俺の首が飛ぶし……俺だけじゃないよ、窓の外を見てごらん。ここへ来てるのは俺だけじゃない……」
リシュは窓辺へ寄り館の外を見下ろした。
見慣れない馬を連れ、腰に剣を佩た屈強な男が五人、館の外をうろついている。
「返答は正午までだ。君が王都へ行くと決めてくれたら、あの中の一人がすぐに報せを持って早馬で王宮へ帰還することになってる」
「断ると、どうなるの……」
「この館の使用人、一人残らず首が飛ぶ」
「最後に私を殺すの?」
「まさか。使用人の首が一人ずつ飛ぶのをみせてから、君は王宮へ連れて行かれるんだろうな。一番最後に首をはねられるのは俺でね、陛下は俺の首だけ持って帰るようにって、奴らに伝えてあるらしいから」
「……結局、私に選択肢は無いってことなのね」
ここへ移り住んで八年。
なかなか馴染めなかった館の使用人達とも、今では笑い合える仲になった。
───私たち親子を遠ざけていた街の人々とも、少しずつ距離が縮まって……。
全ては母リサナの努力があってのことだ。
「館の使用人たちだけじゃない。君が駄々をこねると、この街の人たちにも厄災が降りかかる。ロキルト王が即位してから行った粛清を、君も知っているだろう?」
当時、幼い王の即位に反対した貴族達の内乱は、悲惨な結末を迎えた。
「少年王だからって、彼を甘く見ると痛い目に合う」
あの日も。
母は同じだったのだろうか。
たぶん……。私や使用人や街の人たちを人質にとられて。
そしてやむ負えず王宮へ連れて行かれたのだろうか。
「ごめんよ、リシュ……」
「謝らなくても。……おじ様が悪いんじゃないわ。……誰も悪くないわ……」
理不尽なだけ。
この世も国も王家も。
運命も……。
「わかったわ。支度を始めるわね、おじ様。でも言う事を聞いてあげるのは少しの間だけよ。……だって私はすぐにここへ帰って来たいのだから……」
リシュはラスバートを見つめることなく部屋を出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる