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case 鬼 ⑤
しおりを挟むもう、疲れた。
人を喰うのも、人と戦う事も。
仲間を失う事も。
もう俺を放っておいてくれ。
俺はあの人と違う。
「おい!お前!茨木童子か?」
なんだこいつは?
「俺の名前は、貞光!お前に頼みがあってやって来た!」
この山に何の用だ?
「俺は全ての争いを終わらせたい!人と人の戦いも!人と妖の戦いも!」
そんな事、出来る訳がないだろう?
人は人の物を奪い、妖怪は人の物を奪う。
そこに争いが生じるのは、世の常だ。
「俺に協力しろ!そうすれば『鬼切安綱』を封印してやる!」
『安綱』彼の人の頭を切り落とし、俺の片腕を切り落とし、益々力を持った妖刀。あれがある限り、俺達鬼に安寧は訪れない。
協力?俺に何をしろと言うのだ。
「俺はここに1つの国を作りたい!平和で豊かな国を!夢で終わらせたくないんだ!」
あぁ。こいつは阿保だったか。
まぁいい。話を聞くだけだ。…俺は疲れたんだ。
****************
「上ノ神 貞光は、色んな噂はあるが、人間だ。半妖ではない。貞光は貧しい農家の五男で、自分の食い扶持を稼ぐ為に幼い頃から刀を握っていた。ただ、貞光にはある不思議な力があった」
「ある力?」
「その力に名前を付けるのは難しいが、邪な気を察し、断ち切る力だ」
「只の人間なのに?」
「稀に、力を持つ人間はいるじゃろ。その筆頭だったのが、『源』の人間だ」
「…妖怪を討つ事が出来た人物ね。不思議な力を持つ刀を操って、妖怪を討伐していたと聞いた事があるけど、もうその家は…誰も居ないんでしょう?」
「あぁ、『源』はもうおらんよ。貞光が一族諸とも討ったからな。でも…まだ力を持つ人間がおった。知っておるかな?『渡辺』…源と同じく妖怪を討つ事が出来た人物。
いや、妖怪と言ってしまうのは、間違いか。
あいつらは『鬼払い』と呼ばれる、鬼に特化した力を持っていた。全ての戦いが終わった後、あの家にあった刀はその昔、貞光の力を纏った炎で全て燃やされたが…その炎の中にあっても全く型を変えず残った刀があった。それが『鬼切安綱』じゃ」
「でも、どうして上ノ神 貞光は『源』や『渡辺』を滅ぼしたの?人間にとっては、鬼や妖怪を排除してくれるありがたい人物だったでしょう?」
「貞光はあの2つの家に並々ならぬ邪悪な力を感じたんだ。あれを放っておく事は出来んかったらしい」
「じゃあ、一家皆殺し?」
「そうだな…貞光もかなり悩んでおったわ」
「で、上ノ神 貞光と、茨木童子は手を組んで、この国を造ったのね。そして?」
「貞光は変わった男だ。やたらと妖怪を気に入っておったから、妖怪を滅ぼすつもりは無かった。だがな、人間は妖怪に害された記憶を持つ。最初はなかなか手を取り合うという事は難しかった。
しかし、少しずつ、少しずつ今の形になっていったんじゃ。貞光はその世を見ることなく死んでしまったがな」
…兵六さんは、上ノ神 貞光とどんな関係だったんだろう…
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