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第30話
しおりを挟むそれからというもの、私が朝、旦那様を起こし、その流れで朝食を一緒に食べる事になった。
私としては、食事のマナーに自信がなかったので、最初はカチンコチンに緊張してしまったのだが、1週間も経つうちに、段々と慣れていった。(メイナードにマナーを見て貰って、おかしい所はその都度、直して貰っている)
とはいえ、食事中に旦那様との会話はない。
私はマナーで頭が一杯だし、旦那様は元々口数が少なく、人との関り合いが苦手だ。
それでも、誰かと食べる朝食というのは、いつもより美味しく感じられた。
実家では使用人と同じ食事をしていたが、雇われている人数が少ない為、手が空いた時にパパッと食べてしまわなければ食いっぱぐれる。
誰かと食事を楽しむ余裕など皆無だった。
毎朝、顔を合わせるには合わせているが、会話らしい会話はない。
しかも…閨のお誘いもない。『考えておく』と旦那様に言われてから既に1週間だ。
私は、つい、
「あのー、旦那様。私が旦那様を起こす様になってから…1週間と1日が経ちましたね?」
旦那様に浴巾を渡しながら問うと、
「そうだな。だから何だ?」
とつれない返事。どう切り出そうか。
「旦那様……子作り…」
と私が言った途端に、
「あ~!忘れていた!今日は王宮に行かねばならなかった。すまない、今日は直ぐに出掛ける。朝食は1人で食べてくれ。
帰りはいつになるかなぁ~。うん、多分凄く遅くなる筈だ。待たなくて良い」
と、物凄く早口で棒読みな旦那様に白い目を向ける。
…わざとらしい…。
「…わかりました。ではお先に食堂に行かせて頂きます。旦那様もお気を付けて行ってらっしゃいませ」
と私が頭を下げると、明らかにホッとした雰囲気の旦那様。
…そんなに嫌ですか…私との閨が。
私は頭を上げると、
「旦那様を待っていても埒があきません。私にも考えがございます。では、失礼!」
と言い切って、さっさと旦那様の部屋を出た。
とは言っても、本当は何の策もない。
私は食事の後、ローラに勧められた刺繍を刺しながら、
「ねぇ、ローラ。…私の体ってどこかおかしいのかしら?」
と側で花を生けているローラに話しかける。
「へ?奥様、もしかして体調でも悪いのでしょうか?」
とローラは手を止めて、私の方へ向き直ると心配そうな顔をした。
「いえ、元気よ。そうではなくて…その…旦那様が私とのその…閨を嫌がるのって…私の体におかしな所がある…とかじゃないのかしら?」
義理の姉達の着替えは手伝っていたので、ある程度、他人の体も見た事はあるし、私と大差ないと思うのだけど…丸裸を見たわけじゃないので、自分におかしな所があったとしても不思議ではない。
旦那様はそれで、私を拒んでいるのではないか…そう思うと不安になる。
「奥様の体におかしな所なんてありませんよ!大丈夫です」
ローラは私の入浴まで手伝ってくれているので、私の裸も見ている。
最初は抵抗があったが今は慣れた。慣れって怖い。
「そう…ではそれは原因ではないのね。単純に嫌がられているだけか…」
「奥様…そう気負わずに。最近旦那様とはいかがです?会話は出来てますか?」
朝食で会話がない事はローラも承知している筈だ。
「起こしに行った時に、一言、二言は言葉を交わすけど。まだまだ会話という程ではないのかも」
「ならば、焦らなくても良いではないですか。まずは少しずつ距離を縮めていけば。
それに、子どもが出来やすい日、出来にくい日とそれぞれあるようですしね」
なぬ?そんな日が?閨の本はたくさん読んだけど、そんな事は書いていなかったわ。
「そうなの?それは…いつなの?」
私が前のめりに訊ねるので、ローラは少し後ずさった。
「さぁ…私も詳しくは…お医者様ならわかるのではないですか…ね?」
なるほど!その手があったか!
「ねぇ、お医者に会えるかしら?ご相談したいわ!」
私は目をキラキラさせてローラに訊ねたのだが…
「この領には医者は居ないのです。いつもこの領の民に何かあれば、王都から連れて来ているので…」
ガックリ。誰か他に詳しい人はいないのかしら?
私がしょぼんとしていると、
「ユージーンが帰って来たら、相談してみましょう。多分、医者を連れて来てくれると思いますよ」
とローラが私を慰めてくれる。
それを聞いて、私は一筋の光が見えた気がした。
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