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文化祭・その③

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「はぁ?なんでそこに森田くんが出てくるの?!」

私の心の声がダイレクトに口から出る。
辛うじて『くん』付けにした自分を褒めてあげたい。

「え?違うの?2人結構仲良しだし。
森田も『花音』って呼んでたから、付き合ってたりするのかな?って思って」
…不本意だ。

「違うよ!私が好きなのは…!」

っと、つい先輩の事を言いそうになる。危ない、危ない。

「ん?やっぱり好きな人はいるんだ?」

…長谷川くんがニヤニヤしてる。ヒーローでも、ニヤニヤするんだね。

「……まぁ。居ないこともない。でも、森田くんじゃないから!」

「ふーん。そっかぁ。じゃあ、森田の片想いか」

「はぁ?そんなわけないじゃん。
森田くんは私を使いやすい奴だと思ってるだけだよ。
恋愛感情なんてあるわけないじゃん」

彼はモブ。私はヒロイン。
ヒロインは攻略対象とくっつくか、失敗するかの二択でしょ?

「森田に聞いたの?」

「へ?そんな事聞く?普通。『もしかして私の事好きなの?』って?
私、どんだけ自惚れてんのよ。
自己評価高過ぎでしょ?」

「ブッ。アハハ。坂崎さんって面白いよね」
…笑わせたい訳ではない。

「別に面白くないよ。
それに森田くんが花音って呼ぶのを許可したつもりもないけどね」
…そう勝手に呼んでるだけ。特に嫌なわけでもないし。

「じゃあ、俺もこれから『花音』って呼んでもいい?
俺、けっこう気に入っちゃたんだ。『花音』の事」

長谷川くんに『花音』って呼ばれただけで、胸がキュンとする。
森田にはなかった感情だ。
流石、メインヒーロー。

「…別にいいけど…」

「じゃあ俺の事は爽太って呼んでよ」
え?何?この甘酸っぱい展開!

「…爽太…くん」

「くんはなくても良いよ」

「それは、ハードル高いかな」

「じゃあ、いいや。徐々に慣れてよ」

「…爽太くんって、女の子得意じゃなかったんじゃないの?」

「うん?得意じゃないよ。でも、花音は大丈夫」
そんな親指、グッって立てられても。
やっぱりこれも、ヒロインだからなんだろうなぁ。
ヒロインって、攻略対象から好かれ易いって事かな。

「私の何がそこまで爽太くんにハマったのかわかんないけど。
でも、仲良くしてくれたら嬉しいよ」
私は無難にそう答える事にした。

「花音、午後は自由だろ?誰かと文化祭回るの?」
何も決めてなかった。

「特に決めてなかったけど、
1度生徒会覗いてみようかな。何も問題起きてないとは思うけど」

「花音って真面目だよな。そこも良い所なんだけどさ。
でも、今日は生徒会の仕事しなくていいって森田言ってたじゃん」

「まぁ、そうなんだけど…。でも特に予定もないし」

「じゃあさ、俺と回ろ?俺も特に予定なかったし。
1人で回るの寂しいから」

「うーん」
これって、長谷川くんルートのイベントにあったっけ?このイベントこなしちゃうと、長谷川くんとの好感度上がったりしないかな?ここまで、攻略してないし、動画も見てないから判別できない。

「え?ダメ?」
ちょっと悲しそうな目で見るの止めてほしい。キュンキュンするじゃないか!

「ダメじゃないけど、爽太くんのファンに殺されない?」

「大丈夫だよ~!そんな人いないから」
えっ?コイツ自分が人気者の自覚ないの?鈍感過ぎない?天然?

「たくさん居ると思うけど。まぁ、文化祭回るくらいなら、許されるかな?」

私は結局、メインヒーローのお願いを断れなかった。
だって、顔がいいんだもん!



2人で、文化祭を見て回る。
結構、皆からチラチラ見られるよな~。
女の子からの嫉妬に満ちた目が怖い。執事服来た2人って、普通に目立つしね。

「お!ここお化け屋敷だって!」
…1年C組…私に暗幕を用意させた犯人だ。

「怖いのかな?」
私は暗いところが苦手だ。

「大丈夫だろ。高校生が考えるぐらいだから、大した事ないよ!入ろ!」

…私の答えも聞かず、手を繋いで引っ張っていく。

「え?行くの?私、暗いところ苦手なんだけど」

「大丈夫。俺が居るから。手、離さないでね」

と、張り切った爽太くんに、私は連れられて入る。もう諦めるしかない。

「絶対、手を離さないでよ!離したら恨むから」

「ハイハイ。約束、約束」
…同じ言葉を2回繰り返すって、めちゃくちゃ軽く聞こえるね?!



1年C組の作ったお化け屋敷は、意外?な事にとても良く出来ていた…。
そうめちゃくちゃ怖かったのだ。

「うわーん。めちゃくちゃ怖かったじゃん!」
私は半泣きだ。

「ほんと、良く出来てたよね?俺もびっくりしちゃった」

私達はずっと手を繋いでいたからか、私の手汗でベチョベチョだ。

「手、離して。汗拭きたい」

何故か廊下に出ても繋がれていた手を離してもらう。
手汗でベチョベチョなんて、恥ずかしい。

「あ、ゴメン、ゴメン。すんげー力入ってたよね」
私が恐怖でぎゅうぎゅうに握っていたからだ。

「ううん。こっちこそごめん。手、痛くなかった?私、結構強く握ってて。
良かったら、ハンカチ使って」

私は爽太くんの手も拭いてもらうべく、ハンカチを渡す。

「ありがと。でも、結構面白かったよね」

「…怖かったけど、でも、あのクオリティーは凄いよね」

私は、苦労して暗幕を手に入れた甲斐があったと、改めて思った。

で、ハンカチで手を拭いたのに、何故かまた、手を繋がれてしまった。何故??

前よりも遥かに女の子の目が厳しい。
時に呪い殺されそうな視線を感じる。

「爽太くん。私、まだ死にたくない」

「え?!なんで急に?どっか悪いの?」

びっくりして爽太くんは私を見る。

「いや、体調は悪くないよ。ただ、呪いがあるなら、確実に今呪われてるなって思って」

爽太くんは、訳がわからないといった感じで私を見る。

「…とりあえず、手を離してもらっていいかな?視線が痛くて」

「あ?手?ごめん」

爽太くんは手をパッと離してくれた。何故か顔が真っ赤だ。

「ううん。やっぱり爽太くんにはファンが多いからね。ファンから恨まれそう」
そう言って私が笑うと、

「だからさ。やっぱり好きな人にだけ、好かれれば良いって思うよね。本当に、たくさんの好意なんて、必要ないよ」
そう、少し不機嫌そうに言う。

「でも、仕方ないんじゃない?爽太くんを好きになる人だって、爽太くんにだけ好かれたいって思ってるよ。
そう思う人がたくさんいるだけ。
でも爽太くんの気持ちは1つだから、そのたくさんの気持ちに答えられなくて苦しいかもしれないけど、爽太くんを好きになる気持ちだって、その人達の自由でしょ?
爽太くんが必要ないって思うのは、間違ってると思う」

私だって、先輩への気持ちを『必要ない』って先輩に思われるのは辛い。
好きな気持ちぐらい自由に持ちたい。
行き過ぎた好意は面倒かもしれないけど、片想いぐらい自由にさせてくれ。

「……ごめん。そんな風に考えたことなかった」

「きっと爽太くんに好きな人が出来たらわかるよ。その人にその好意は、自分には不要!って言われたら悲しいでしょ?
片想いぐらい、させてあげてよ」

「!本当にそうだね。俺が他人の気持ちを必要ないって決めつけるなんて、ダメだよな」

「まぁ、迷惑な行為をされたりしたら、それは困るだろうし、その時は嫌っても良いと思うけどね」

そう言って、私はドキッとする。私が先輩にしているストーカー行為は許されるのか…ヒロインだから、大丈夫かな?

「俺、ちょっと傲慢だったな。反省した」

「え?そんな事はないよ。別にファンの子に暴言吐いた訳でもないし。でも、あんまり八方美人的に全員に優しくして勘違いさせてもそれはそれで残酷だしね。程々がいいんじゃない?難しいけど」

「本当に難しいな!距離感って」

「本当だね~。私も自分で言ってて、良くわかんない」

と2人で笑う。私達はその後も楽しく文化祭を回り、1日目を無事に終える事が出来た。
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