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第20話

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流石と言うべきか、この国の宰相様はやはり有能であった。

「まだ、3日よ?もう準備が整ったの?」
私が驚いた様に言えば、

「あぁ、まぁな。今日招待状を出した所だ。本来なら、開催までもう少し日を置いた方が良いんだろうが、なるべく早く協力者を募りたいからな……皆には申し訳ないが1ヶ月後にパーティーを開く。事後報告で悪いがこれを確認しておいてくれ」
セドリックはそう言いながら私の前に招待客のリストを並べた。

私はそれを眺めながら、

「妥当な人選だと思うわ。相変わらず私を敵視している貴族はいるけど、最近は随分と大人しくなってくれたもの」

「まぁな。お前が王妃でなくなれば然程叩く必要はないと判断したんだろ。だが、この事業が上手くいけば、またお前が陛下と深く絡む事になる。そうなれば再びうるさい奴は湧いて出るだろうが……そこは俺が居るから大丈夫だ。お前の粗探しをする奴等は全て排除する」
とセドリックはやけに物騒な事を言う。

「排除って…何もそこまでする必要はないわ。上手く付き合っていくわよ。私も大人だもの」
と私が軽く笑えば、

「いや。全て排除だ。どんな手を使ってもだ」
とセドリックは真剣な表情でそう言うと、私に、

「さて…と。どうだ領地の方は」
と切り替える様に質問してきた。
私はさっきのセドリックの言葉が引っ掛かりながらも、

「まだまだよ。橋の修復に人手が足りなくて。当初考えていたより、ずっと時間が掛かりそうだわ」
と私が答えれば、セドリックは

「なら、うちから人手を出そう。うちの領民にも職人がいる」

「貴方の領地とうちの領地では、距離が離れているわ。移動だけでも負担よ。身体的にも金銭的にも」

「途中で寝泊まりする宿については俺に任せろ。お前は心配するな。橋の修復にかなり費用が掛かるんだろう?それに新規事業の件についても、多額の金がかかる。お前は自分の領地と領民の事だけ考えろ。孤立した村人達は不安で心細い思いをしている筈だ。それを早く解消する事が今のお前の務め」
と言うと、私に向かって、

「甘えろと言っただろ。いいか?可愛い女ってのは、程よく男に甘えるもんだ」
と少し茶化すようにそう言った。

「悪かったわね。可愛いくなくて!」
と私も笑いながら、少し膨れっ面をして見せる。すると、

「まぁ、俺は可愛いだけの女より、強くてたまに甘える女の方が好みだけどな」
とサラりと言うと、颯爽と席を立ち、

「そうと決まれば直ぐに人手を手配する。ローレンスにその旨を伝えておいてくれ。じゃあな」
と軽く手を挙げ、部屋を出ていこうとした。

私が慌てて、
「ありがとう。恩に着るわ」
と立ち上がり礼を言うと、セドリックはドアノブに手をかけたまま振り返り、

「素直でよろしい」
と笑顔で頷き、扉を開けて出ていった。

私は再び椅子に腰を下ろし、招待客のリストに目を通す。
なんとなくセドリックに任せておけば安心だと思ってしまう私は、やはり彼に心の何処かで甘えてしまっているのだろう。

「だめね……気心の知れた相手と言うのは」
と私は呟いて、ローレンスへの手紙を認めるべく便箋を取り出した。
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