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第21話
しおりを挟む「悪いな。急にうちの庭が使えなくなって」
新規事業の協力者を募る為のパーティーが明後日に迫った今日、セドリックは申し訳なさそうに私にそう謝った。
「何を謝る必要があるのよ。これはうちの事業でもあるのよ?うちの庭を使ったって何の問題もないわ」
元々、ガーデンパーティーの会場はジュネ公爵家の予定だったのだが、大きな木が急に倒れてしまい、それをどかすのに思ったより時間が掛かるらしく、会場の変更を余儀なくされたのだ。
「まさか、こんな事になるとはな」
セドリックは渋い顔だ。
「公爵家程ではないかもしれないけど、うちの庭もなかなかの物よ?それにまだ2日も日にちがあって良かったじゃない。これなら会場の用意も十分に間に合うわ」
と私は背の高いセドリックの肩をポンポンと叩いた。
パーティーの準備は全てセドリックに任せてしまったのだから、これぐらいの事で申し訳なさなど感じる必要はないのに……変な所で律儀な男だ。いつもは飄々としてるくせに。
「ところで……どうだ?領地の方は?」
セドリックは会場を飾り付ける使用人の動きを見ながら、私に問いかけた。
「貴方が派遣してくれた職人のお陰で、なんとか目処が立ってきたわ。ローレンスもそろそろこちらに戻れるようになりそうよ。……このパーティーには間に合わないでしょうけど」
と私が言うとセドリックは、
「そうか、それは良かった」
と頷いた。
私も使用人達が忙しそうに働く様子を見ながら、その中で、使用人達に混じって働くジュリエッタを見ていた。私のその目線の先をセドリックは目で追うと、
「ジュリエッタ嬢は……変わったな」
とポツリと呟いた。
「そうね。父の事が余程あの子には衝撃だったんだと思うわ。……あの子は良い方に変わった……でも」
と私がため息をつくと、
「前侯爵夫人の事か。なんだか、揉めたらしいじゃないか?」
とセドリックは心配そうにその視線を私に戻した。
「ええ。流石に前の執事も私に黙ってはいられないと思ったみたい。ラルフの取り巻きのご婦人方からの苦情が凄くて。とにかく、今……母を預かって貰えそうな修道院を探している所なの」
と私が言えば、セドリックは少し驚いた様だった。
「王都から離すつもりか?」
「ええ。物理的に距離を離す方が良いと思ったの。少し頭を冷やして貰わなきゃ」
と私が言えば、
「まぁ…その方が賢明かもしれないな。これ以上オーヴェル家の名を汚すのは得策じゃない」
とセドリックは腕を組んで少し思案すると、
「うちの領地に、うってつけの修道院がある。なんなら、そこはどうだ?」
と私に提案してくれた。
「何から何まで貴方に頼りっぱなしって訳にはいかないわ。母の事は私がなんとかする。……一応、家族だから」
「……お前がそう言うなら、無理にとは言わないが、困ったら言うんだぞ?」
とセドリックは私の頭にポンと触れた。
最近、セドリックがなんだか私に甘い感じがするのは、気のせいだろうか?
前に私を王家に捧げた元婚約者の事だ、裏があるのではないかと、つい勘ぐってしまいそうになる。
私は、
「その時はちゃんと頼るわ。でも私はオーヴェル侯爵よ?家族の問題を他人に任せてしまう訳にはいかないわ」
と前を向いた。
「他人ね……」
とセドリックは小声で呟いたが、私はそんな事よりも、明後日のパーティーの成功に思いを馳せるのだった。
パーティー当日。
私とセドリックは会場の最終確認を行っていた。まだ招待客は来ていないが、うちの使用人とジュネ公爵家の使用人達も最終確認に余念がない。
ジュリエッタも手伝ってくれている。パーティーの最中は子連れの招待客の子ども達の面倒をみると申し出てくれたのだ。
最近は孤児院で子ども達の世話をしているジュリエッタの事だ。きっと上手くやってくれるだろう。
母には昨晩、パーティーに参加しないようにと釘を差しに行ったのだが、体調が悪いからと顔も見せなかった。パーティー好きの母だから、もっと反発してくると思ったのに、少し拍子抜けだった。
ラルフの取り巻きのご婦人は今日の招待客には居ない筈だが、ばつが悪いとでも思ったのだろう。
しかし……私が母に興味がなさ過ぎた事を、彼女を前の執事に任せきりにしてしまった事を、私はこの後、ひどく後悔することになる。
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