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その24

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部屋へ戻る途中、何故かクリス様は言いにくそうに、

「お前も貴族の娘なら、…その…婚約者とか、居るんじゃないのか?ベルガに来て…良かったのか?」
と訊かれてた。
さっき、結婚の話をしたからかな?

「いえ。私には婚約者も、そのように将来を約束した方はおりませんので。
だから、こちらの国に殿下に付いて来る者として選ばれたようなものですから」
と私が答えると、

「そ、そうか…。なら、問題ないな…」
とクリス様は呟く。

「そうですね。こちらでずっと殿下のお世話をするのに、なんの問題もございません」
確かに、私が途中で辞めてアルティアに帰ったりしたら困るだろう。
殿下は、私以外に世話をされるのを拒否するかもしれない。
それは例えゲルニカに居を移しても変わらないだろう。
私が心配ない事を伝えると、

「いや、そういう訳ではなくてだな…」
とクリス様が何か言いかけたところで、私は殿下の部屋に着いた。

廊下の護衛が、クリス様を見て畏まる。

騎士団の偉い人のようだから、近衛のこの騎士より偉いのかもしれない。

「クリス様、今日はありがとうございました。それでは失礼いたします」
と言って、私は部屋に戻る。

クリス様がさっき何か言いかけていたような気がするが…まぁいっか。



翌日。
朝から私と殿下の格闘が始まる。

もう、ベルガに着いているのだから、抵抗しても無駄だと思うのだが…。
まぁ、寝起きが悪いのは元々か。

しかし、アルティアで過ごしたようにはもう出来ないのだと理解して欲しい。

此処で甘えはもう許されない。

それに、今日から王子妃教育が始まるはずだ。
今まで、アルティアでは散々勉強から逃げていたが、そんな事は此処では出来ないのだ。観念して貰いたい。

それと…私は昨日の殿下の勘違いと言う名の無知を諌めなければならないのだ。気が重い。

だって、嫁ぎ先の王太子殿下を知らないなんて、思わないじゃないか!
そんなのイロハのイだ。当然知ってて然るべき。



「殿下!そろそろ本当に起きて頂かなければ、朝食に間に合いません。お疲れだとは思いますが、朝の仕度を…」

「うるさい!!!」

枕が飛んできたが、私は華麗に避ける。枕ごときにやられる私ではない。


「もう、アルティアではないのです…我が儘はほどほどにしていただきませんと…」
と私が言うと、

「…あんた、私の事を我が儘だと思ってたの?!」
…急にぴょっこりと殿下は起き上がる。
言ってる言葉は不可解だが、起きてくれたのは有難い。
でも…自分では我が儘だと思ってなかったんだぁ…凄いな。

「周りの人々を振り回した時点で『我が儘』と認定されるのですから、そう思うのは当たり前では?」
と私がいつもの能面顔で答えると、

「私がいつ周りの人を振り回したって言うのよ!」
…無自覚って怖い。

「殿下を起こす事に費やす時間を考えたら、私は他の仕事が色々と片付くのですから、私は少なくとも振り回されておりますけど?」
と私は言う。
不敬だ何だと言っても、今は私しか居ないのだから、殿下は私をクビには出来ない。
遠慮はなしだ。

「はぁ?私、あんたの事、人だと思ってないわよ。笑った顔も見た事ないんだから、あんたなんて人形と同じじゃない」

…えっと。私は殿下から、人とも思われていなかったようです。
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