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その27

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私は鏡で自分の頬の傷を確認する。

まぁ、スーッって感じで切れて血は滲んでいるが、大した事はなさそうだ。
例え傷が残るような事になったとしても、殿下が言ったように、私は今後、結婚する予定もないのだから、気にする必要もない。

傷口を一応水で洗うと、ピリピリとした痛みはあるが、触れなければ大丈夫そうだ。
私は廊下の護衛に声をかけ、医務室を教えて貰う。
出来ればガーゼか何かで傷を覆って、なるべく触れないようにしてしまいたかった。



医務室に着いて扉を叩くと、

「どうぞ」
の声。

私はそっと扉を開けると、そこには綺麗な銀髪の長い髪に、茶色の大きな三角の耳、大きな尻尾を持つ若い男性が居た。
ここのお医者様かな?

私が挨拶をして入ると、

「おはよう!僕は此処で医師をしている、オットー・キャンベルだよ。よろしくね~。
君は…新しく来たアルティアのお姫様の所の娘かな?」

「はい。あの…」
と私が言いかけると…

「ちょっと!頬が傷になってるじゃないか!女の子が顔に傷なんて…さぁ、直ぐこっちに座って。急いで処置をしよう」

…ガーゼの1枚でも貰えれば…と思ってたんだけどな…。

「あの…大した事ないので、ガーゼ…」

「早く!自分で座れないなら、仕方ないな」
とキャンベル医師は扉の所で躊躇っている私をさっと抱き上げた。

「!ちょ、大丈夫です!歩けます!自分で座れます!」
と必死に訴えるも、キャンベル医師は私を離す事なく、そのまま椅子に座らせた。


「さ、大人しく僕に手当させてね~」
とキャンベル医師は私に優しく言うと、テキパキと私の頬の処置を終わらせた。

「さて。これで終了っと!見た目よりちょっと傷は酷かったよ?
もしかしたら、うっすら跡が残ってしまうかもしれないけど…」

「あ、ありがとうございました。別に、跡が残っても、特に問題はないので、大丈夫ですけど。」

「女の子が何言ってるの!」

「えっと…特に嫁ぐ予定もないですし…それに、うっすらなら、化粧で誤魔化す事も出来ますから。
では、私、これで失礼いたします。本当にありがとうございました」
と私が頭を下げると、

「待って!君の名前は?」

「あ、申し遅れました、私、この度アルティア王国から、ミシェル王女の侍女として共に参りました、シビル・モンターレと申します。よろしくお願いいたします」
と私が名乗ると、

「シビルちゃんね!ねぇ、君は僕に触られて嫌だった?」
…どう言う意味だろう?

「手当て…の事ですか?もちろん嫌な訳はありません!ガーゼでも当てとけば良いかな?なんて思っていたのに、こんなきちんと手当して頂いて…感謝しております」
と私は慌てて自分の気持ちを告げる。

「そっか。じゃあ、別に君は獣人が嫌だとかないんだね?」

私はハッとした。もしかしたら、キャンベル医師は、人間が嫌いだったのかも。
それなら、私の手当なんて嫌な事だったかもしれない。

「すみません!もしかして、私に触れるのが嫌だったのでしょうか?
私は自分がそういう…その…獣人だとか、人間だとか区別していなかったので、気がつきませんでした。申し訳ありません」
と私が謝ると、

「違う、違う!ほら…君が今言った様に、獣人を嫌がる人間も居るからさ。
手当って言っても、シビルちゃんが嫌だったかな?って気になったんだ。
僕は君と一緒。そんな区別するのはバカらしいと思ってるからさ。同じ『人』だろ?」

「はい。私もそう思っております。ただ、そうでない考えを持つ人が居る事も理解しているつもりですので…」
…キャンベル医師が私と同じ思考の人でホッとする。

ここ(王城)でも、私達に悪感情を持たない人が1人でも居る事が嬉しかった。

「ねぇ、シビルちゃんは、さっき嫁ぐ予定はないって言ってたね」

「はい。ここには殿下のお世話をする為に来たので」

「そっかぁ。じゃあさ、結婚するかどうかは置いといて。…僕とお付き合いしない?」


「………へ?」
能面女でも、驚くよ?
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