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その26
しおりを挟む「じゃ、じゃあ、第二王子?」
と訊かれ、私は首を横に振る。
「じゃ、じゃあ第三王子?」
んな訳ない。
それなら、殿下が王太子妃になってしまう。そんなの想像しただけで恐ろしい。
私は、
「いえ、今の王太子殿下は、国王…ブルーノ・グランデ陛下の甥に当たる人物で御座います」
「え?何で?何で陛下の息子が王太子じゃないのよ!」
何でと訊かれても、私は答えを持ち合わせていない。だが、
「何故かは分かりかねますが、この国は国王の息子であるからといって、必ず王太子になるとは限りません。
もちろん王位継承権を持つ者の中から選ばれますが、王となる実力があると認められた者が選ばれるとお聞きしております。
それは、男女の性別も特に関係は御座いません」
実際、数代前には女王が統治していたと聞く。
「でも、昨日、王太子と紹介された人は居なかったわ!」
…でもクリス様はその場に王太子殿下が居たのだろうと言う私の言葉を否定しなかった。
それは多分、
「殿下が先に、第一王子を王太子殿下とお呼びしてしまったので、名乗るに名乗れなかったのではないでしょうか…それに、第一王子殿下のお名前は『オスカル・グランデ』殿。
その名を聞いた時、殿下は違和感を持ちませんでしたか?」
そうなのだ、殿下はちゃんと王太子殿下のお名前を理解していた。
なのに、第一王子が名乗った時に、何故そこをスルーしたのか…
「…よく聞いてなかったのよ…仕方ないでしょう?疲れたまま、あの場に行かされたのよ?」
…もしかしたら、第三王子に見とれていたのかもしれないな…なんて思うが口には出せない。
「殿下…せめて、アルティアでベルガ王国の王族の絵姿は確認されていますよね?」
恐る恐る私は訊ねてみるが、殿下はぷぃっと目線を逸らした。…見てないんですね…私ですら確認したのに。
「だって…絶対お父様もお母様も、この結婚を破談にして下さると思ってたもの。こんな所に来る必要なんて、無くなると思ってたの!」
「それが無理な事ぐらい、アルティアで何度も皆に言われていたではないですか」
私がため息混じりに呟くと、
「だって、今まで私が嫌だと言ったら皆、ちゃんと私の望みを叶えてくれたわ。今回もどうにか出来ると思ってたの!」
そう言う殿下の顔は真っ赤だ。
怒っているのか…羞恥からか…
「そもそも、ここまで来るのにたくさん時間があったんだから、あんたが私に教えれば良かったじゃない!
自分がきちんと仕事をしてないくせに、私を責めるなんて、あんた本当に何様よ!」
と、殿下は手にしていた扇を力一杯私に投げつけた。
私は、てっきりお茶が飛んで来るものだと思い、カップの方に神経を集中させていた為、扇には意識が向いていなかった。
殿下の手を離れた扇は、思いっきり私の頬を掠めていった。
痛い…もしかしたら、頬が少し切れたかもしれない。そして、殿下が赤くなっていたのは、怒りからだった。羞恥ならマシだったのに…あれ?デジャブかな?
前も似たような気持ちになった気がする。あぁ、殿下ってぶれないな。
「ハハハ!あんたの頬、傷になったわよ?まぁ、もう結婚も出来ない傷物なんだし、何の問題もないと思うけどね。私に偉そうに説教した罰よ。いい気味ね」
私を傷つけた事で少し気分が晴れたのか、殿下は嬉しそうだ。
まぁ、これ以上機嫌が悪くなるよりはマシか。
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