97 / 140
その97
しおりを挟む「それと…だな。王女がランバンに向かって発ってからなんだが…シビルさえ良ければ、王城に住んで貰えないか?」
「フェルト公爵邸で暮らすのかと思っていたのですが…」
「フェルト女史がそう提案しているのは、知っている。だから、もし良ければ…なのだが…」
何故かクリス様はモジモジしている。もっと、堂々と命令しても良いのに。
ここまで強引だった割に、ここにきて急に私の意思を尊重してくれる気になったようだ。
「…では、王城に住まわせて頂きたいと思います。少しでも殿下の事を知りたいと思っておりますし…」
と私が言うと、クリス様は嬉しそうに、
「そうか!良かった!実はもう、部屋の用意は出来ているんだ。ここは俺の部屋だが、この隣は夫婦の寝室。その向こう隣が王太子妃の部屋となる。つまり、そこがシビルの部屋だ。少し見てみるか?」
とキラキラした目で私を見ている。
ここで、断る訳にはいかないだろう。
「…では、拝見させて頂いても?」
すると、クリス様は私の手を引いて、廊下側から私に用意したと言う部屋へ向かった。
夫婦の寝室を通らなかったのは、私への配慮だろう。…まだ婚約者だしね。
「ここだ」
と扉を開けると、そこは広々とした居室だった。
白と金を基調とした家具。大きな窓には紺色に白の刺繍が眩しい重々しいカーテンがかかっている。
…全体的に白っぽいので明るいし、パッと見ただけでも、全てが高価なのがわかる。…ここで暮らすの?壊したりしたらどうしよう…。
私が、青ざめていると、
「どうした?気に入らなかったか?」
と心配そうに、訊くクリス様に、
「いえ。素晴らしいお部屋だと思うのですが…あの…壊したらどうしようかと…」
と私が言うと、クリス様は笑った。
「そんな事、気にするな。ここの物は全てお前の物だ。どう使おうが、壊そうが、お前の好きにしたら良い」
…そんな割りきれる訳がない。
そんな私の心も知らず、クリス様はまた私の手を引いて奥の扉へと案内する。
そこは私の寝室だった。
天涯付きの大きな寝台がドーンと鎮座しているのに、全然狭くない。これが寝台?広すぎて落ち着かないかも…。
その壁一面にはクローゼットがついており、そこをクリス様が開くと、ずらりとドレスが掛かっていた。…え?これ誰の?
私が目を丸くしてそのドレスを眺めていると、
「どうだ?女性のドレスなど選んだ事がなかったから、知り合いに頼んで選んで貰ったんだ。気に入ったやつはあるか?無いなら、また作らせる」
と、さらりと怖いことを言ってのける。
また作らせる?では、このドレス、全てオーダーメイド?私の為に?
「こ、このドレスは私の…で御座いますか?」
「当たり前ではないか。サイズは、お前がここのお仕着せをサイズ直ししただろう?それを元に作らせた。
本来なら、きちんと採寸した方が良いとデザイナーには言われたがな。
さすがに採寸はさせて貰えないだろうと思ってな」
……ちょっと待って。ドレスって、そんな早く作れる物?
ここの家具だってそうだ。私との婚約の話が出たのは、ミシェル殿下とアーベル殿下との婚約破棄がきっかけの筈。
それから、今まで…半月程?いや、それよりも短いのでは?そんな時間で用意出来るものなのか?
「あの…これ程の物。ドレスにしてもお部屋にしても…ですが、支度には…お時間が掛かるものだと思っておりましたが…」
と私が恐る恐る訊ねると、
「ああ、時間が無かったからな、急がせた。結局3ヶ月掛かってしまったがな」
「え?3ヶ月?!」
…それって、私と殿下がこのベルガ王国に来た直後じゃない?
181
あなたにおすすめの小説
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる