死にたがりのうさぎ

初瀬 叶

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旅行

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早く起きなきゃいけない時に限って、何故か遅刻する夢を見る。
夢占いではストレスの現れとか、チャンスを逃す警告とか書かれているのを読んだ事があるけど、私としては『絶対遅れられない!!』という強迫観念の現れなのではないかと感じている。
これは個人的見解。


「最近、ミミって早起きよね」

「やること多いからな」

私が作った朝食のおにぎりを頬張りながら、ミミは答えた。前は朝食なんていらないって言ってたくせに、今は私と同じ『朝食はモリモリ食べる派』に大変身。

掃除や片付け、洗濯までぜーんぶやってくれるミミだが、料理だけは頑なにやらない。
『料理は苦手』なんて言ってるけど、多分私の手料理が食べたいだけなのだと、私は推測している。天邪鬼なミミは絶対に認めないだろうな。


「火の元、戸締まり、全部OK!」

「なら行くぞ」

私のくすみピンクのスーツケースと小さな黒いボストンバッグを持ったミミが車のトランクに荷物を積んだ。

「車もいずれ売らなきゃね」

「そうだな」
と言ったミミは運転席に乗り込んだ。

私の愛車も、もうすぐお役御免だ。私はポンポンと車のルーフを軽く叩いてから助手席に乗り込んだ。

新幹線や飛行機を使うことも考えたが、ミミが私の体調を心配して車での旅行となった。
長距離の運転は初めてだと言うミミに、

「いつでも代わるよ。免許証は持ってきてるし」
と私は言った。

人は向かい合って喋るより、横並びの方が本音で話しやすいのだと何かの本で読んだ。

「ミミのご両親は?」

私はこの際だとミミに質問する。ずっと二人で居るのに、私はミミのプライベートを知らない。死にたがりの理由は知っているが、それ以外は私達二人に必要ないと思っていた。

「母親は健在。父親は知らね」

「離婚?」

「だな」

「お母様は?」  

「どっかの飲み屋で働いてるんじゃないかな?あんまり長続きする人じゃないから、転々としてたし」

「子どもの頃から?」  

「転校ばっかだったよ。お陰で親友と呼べる友達も居ない」

「あるあるだね」

「仲良くなっても、すぐ引っ越しで離れ離れになるからな。だから誰とも深く関わらずに生きてきた」

「お母様を恨んでる?」

「いいや。俺と弟を育てる為に頑張ってくれてたんだと思うから」

「弟居るんだ」

「うん。今年二十歳になるかな」

「ふーん。ミミに似てる?」

「いや。あんま似てない」
ハンドルを握りながらミミは苦笑する。その顔は穏やかで、兄弟仲が悪くない事が窺えた。

「連絡は取ってる?」

「いや、全然。だけど、何かあったら連絡くるだろうから心配してない。お互いに」

男の子とはこんなものなのだろうか?母は私に過保護なくらい過干渉だった。それをうざいと思っていた時期もあったが、もうそれも懐かしい過去だ。

ちょっとだけミミの事を知れた気がして、少し得した気分になる。
私達は休憩を挟みながら、最初の宿に到着した。

大阪では有名なテーマパークを満喫し、粉もんに舌鼓を打った。最近では少し食欲が落ちて来た私の分まで食べるミミは『最近太った気がする』とお腹を擦った。

京都や奈良では私が大好きな仏像を堪能する。
『修学旅行以来だな』と言うミミには、仏像の魅力はわからなかったらしい。
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