死にたがりのうさぎ

初瀬 叶

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入院

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入院の用意をすると言って、ミミは家へと一旦帰った。

少し前に流行った感染症のせいで家族しか面会出来ないと言われたが、私には誰も居ない。
ミミが必死で病院側に頼み込んでいるのを、点滴を受けながら横目で見ていた。
結局、病院側がミミの言う事をを受け入れてくれたのは、私の病状のせいだろう。


ウトウトしていたら、人の気配がした。点滴のお陰でいつの間にか痛みは軽くなっていたようだ。

「……ミミ?」

「ごめん、起こした」

「ううん。ウトウトしてただけ」

「痛み、大分良いのか?」

「うん。随分楽になった」

「そっか」

ミミは大きめの黒いボストンバッグをパイプ椅子の上にポスンと置いた。

「ありがとう」

「うん。クローゼットの中にあったこれで良いんだよな」
とそのバッグを指差す。私がいつ入院になっても良い様に用意していた物だ。

「そう。もし足りないものあったら売店で買うから」

「言えば買ってくる」
ミミはもう一つのパイプ椅子を開いて、それに座った。

「男が来てた」
ミミがそう言った。

「男?誰?」
私には本気でピンと来ない。

「『英二』って言ってたよ。会いたいって」

その名は私のスマホにミミ以外で唯一残された連絡先の名だった。

「私が自分の後始末を色々と頼んでる親戚」

「あぁ。前にそんな事言ってたな。おばさんが電話にも出てくれないし、メッセージにも返信がないからどうなったのか心配で来たって」

「……誰にも会いたくなくて、全部無視してるから」
会社の先輩、同僚、後輩。学生時代の友人。全てブロックした。
でもちゃんと理由は話している。病気の自分を、弱った自分を見せたくない。

それでも会いたいと言ってくれた友人は泣いていた。それでも私は会わなかった。
お葬式には来てよと言った友人は本気で怒っていた。それでも私は会わなかった。

私の事なんて忘れてほしい。いつの日か忘れ去られてしまうなら、今すぐ忘れてもらって構わない。ミミにそう言ったら……どんな反応をするのだろう。私は少しだけ……ほんの少しだけ気になった
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