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第三章:恋獄の国と悲しいおとぎ話

42.前世の物語と不幸令嬢(ルーファス視点)16

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「ルー、どうしたの?泣いているの?」

部屋に入ってきたトリスが、何故か心配そうな顔でそういって僕の頬に触れて涙を掬いあげる。そのままその涙を何を思ったのかペロリと舐めた。表情が自然と歪んだ気持ち悪い。

その目にはいつも以上の狂気が浮かんでいた。

「俺にこんなに愛されているのに、何が悲しいの?もしかしてレミーナのこと考えてる」

「……」

「そっか、ルーはあの子が好きだよね。ねぇルーでもあの子はもうルーとは結婚できないよ。だって彼女もうすぐ俺の子供を身ごもる予定だから」

「そんなのただの予定だ。レミーナは僕の……」

「違う!!!!」

まずい、レミーナの名前を出されて血が上ってしまった。こいつの逆鱗が何かわかっていたのに、どうしても許せなかった。トリスの目が酷く血走り、僕の首を絞めた。

「ルーは俺だけのお姫様だ。レミーナとは結ばれないし、結ばせない」

あまりの苦しさとその恐怖を伴う恐ろしさに体が震えた。ぼんやりとした意識に中で、僕を血走った目で見つめているトリスと目が合う。

「こんなに愛しているのに、ルーだけ俺は愛してきたのに、どんな女でも誰でもルーより愛おしいと思えないのにどうしてルーは裏切ろうとするんだ?ルーの全てが欲しい、いやルーの全てはもう俺だけのものだ、そうだろう!?」

力を込められて完全に息ができない僕はそのまま完全に意識を失いかけたその時、パッと手が離れた。急に気道が開いて息をしたせいで僕はその場で咳こんだ。

そんな僕の背を壊れ物でも扱うみたいに優しい手つきでトリスが撫でた。背筋が凍りそうだが、今は息をすることで精いっぱいだが、こんな不安定な人間とこれ以上いたくない。

「ごめんねルー。どうしても君が僕以外を愛しているのが許せないんだ。君の一番は俺がいい。いや俺だよね、ルー。もうルーのこと……」

そう慟哭しながら僕をトリスは抱きしめた。純粋に怖かった。

(早くここを立ち去りたい……)

「ルーは俺と愛し合って、この『キヅタの塔』で永遠に幸せに暮らすんだ」

トリスの目は現実等見ていない。ただ、ここで僕は大切なことが分かった。僕は『キヅタの塔』という場所に居るという事実だ。これをヨミに伝えればここから出れるはずだ。

それからは僕はなるべくトリスを刺激しないよう黙っていた。するとしばらくするとトリスはニコニコとまた笑いだして、興味のない話をしていた。

「ルー、いよいよ明日君は僕に答えを出す必要があるね。とても楽しみだよ。いとおしい君が俺に堕ちてくるのが」

「……」

そんな未来は訪れたりしない。けれどそう思う気持ちを必死に押し込めた。明日になればここから出るし、レミーナも救って全ては元通りに戻る。

その時の僕は信じていた。失くすものなどなにひとつないと。無垢に幸福を信じて疑わなかったのだ。
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